ルマニア戦記・『○×△□◇の逆襲!』

おおぬきたつや

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敵地潜入? 残されたふたり…!(第二幕)

シーン2

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 開かれたコクピットハッチの内部は、それはひどいありさまだった…!

「くっ、コイツは…!?」

 相棒のでかい大熊族の肩越しに、どれどれとマスクで覆ったみずからの鼻先を突き出して中をのぞきこむオオカミ族のパイロットがそこでただちに低いうめきを発する。すぐそばでびくとも動じないクマの動向を見守りながら、暑苦しいパイロットスーツの中で全身が総毛立つのを感じていた。
 ふたりの視線の先、狭苦しいコクピットブロックの中で中央のシートに身体を縛り付けられるパイロットは、それ自体はしごく見慣れた背格好をしており、本来は味方と呼ぶべき者であった。
 ただしその全身はガクガクと激しい痙攣けいけんを起こして、引きつった表情もどこにも理性だなんてものが見当たらない。果ては口からよだれを垂れ流し、充血した目でこちらを凝視するさまからはもはや完なに錯乱状態に陥っているのが理解できた。
 言葉にならないうめきを発して、突きだした手には拳銃を構えている…!

「まじいな、この犬っころ、完全にイカれてやがる! おいっ!?」

 反射的におのれの脇の拳銃に手をやりながら、相変わらず動ずることがないでかグマ、ベアランドに注意を促すものの、そんなものまるで意に介さない相方だ。おまけ呑気なさまで肩をすくめて言って見せた。
 およそ言葉など理解しえないだろう、相手に向かって…!!

「…やあ、どうしたい? ずいぶんと混乱してるみたいだが、おまえさん、見たところ4番隊のヤツだよな? このアーマーは七番隊のなはずなんだけど、ちょっと面白いよな! なあ、平気かい? そんなにおびえなとくも大丈夫、おれたちは味方だからさ…! だからほら、その手にしてる物騒なもの…」

 ひたすら錯乱する犬族のパイロットに身を乗り出して、あくまで会話での事態の収拾を試みるのを、ただ目を見張って固唾かたずを飲むウルフハウンドだ。だがその直後に発された耳をつんざく炸裂音にはぎょっとして自らが飛び上がる。
 それはごく短い間に連続して三回。都合3発の銃声、間違いなく発砲音だった。



「や、やりやがったな! くそったれ!!」

 血相変えて右手の拳銃を突き出すものの、前に居座るでかいクマに片手で制止される。

「なんだよっ、おまえ今、撃たれたんだろうが! だったら…!!」

 狙いをつけようにもでかい影が邪魔でろくに照準を合わせられない。殺気だって前を見返すに、真顔で振り返るベアランドは目で大丈夫だと合図しておいて、おもむろに前へと向き直る。

「いや、だったら俺がやるよ…そら! な?」

 銃口から薄い煙をたなびかせたまま、まだなお錯乱している犬族のパイロット目がけて目にも留まらぬ利き手のストレートをお見舞いする。それであっさりと相手を沈黙させて、何食わぬ顔でまた振り返るクマに、唖然となるオオカミは言葉も無くなる。それでも険しい表情で冷静な文句をがなった。

「はじめからそうしてりゃよかったんだよ! しかもおまえ、今しっかりと撃たれただろう? 至近距離で3発も! いくらこんないかついテスパスーツ着てたって、無事じゃいられねえだろっ…!!」

 強がっているのかどうだかわからない、ワリと澄ましたさまの相棒を見上げるが、すると当の本人は相変わらずの平然たるそぶりだ。どころか白いスーツの胸の辺りにきれいに3発の銃弾の貫通痕を見せながら、けろりと言ってのけた。

「ああ、全然へーきだよ。このくらいは♡ スーツを貫通したってこの下には鋼の筋肉の鎧をまとっているんだから、立派な大熊族のおじさんてのは♪ 虚弱体質のリドルじゃどうだか知らないけど、あの程度の口径のヤツで撃たれたからって、そう騒ぐヤツはいやしないさ! たぶん、ね?」

「なっ、バケモノじゃねえか! まったくそんなふざけたはなし、てめえだけにしておけよっ!! いや、ほんとに大丈夫なのか?」

 愕然たるさまで穴だらけのスーツと相棒の顔を見比べて、困惑することしきりのオオカミだ。
 まるで自分の常識が通用しないでたらめぶりにいっそ危機感みたいなものを感じてしまう。
 付き合い方を考えざるおえなかった。
 しまいは苦い顔で見上げるのに、いまいましいことなにやら照れてるみたいに笑顔を色づかせるベアランドは視線をいずこか遠くへと飛ばす。そちらから何かしらの物音が響いてるのはウルフハウンドも感づいてはいた。

「まあ、事情が聞き出せなかったのは残念だけど、とりあえず救出はしたんだよな? 気絶はしちゃってるけど?? ちょうど援軍が来たから良かったよ。コイツはリドルにお任せってことで♡ よっと…!」

 狭い中に無理矢理に上半身を潜り込ませ、やがて伸びきった心神喪失状態のパイロットの首根っこ掴んでずりずりと外まで引きずり出す。そのさなか、身体を固定していた頑丈なベルトを片手でいともたやすく引きちぎるのを目撃してなおのこと目つきが険しくなる灰色オオカミだ。

「マジでバケモンだ…!」

「何が? とりあえずこれで今のところは万事オーライだよな! それじゃさっそくリドルと合流しようか♡ これから先のことをどうしたもんだか会議会議っと♪」

「たくっ…小僧が来てやがるのか? あのカーゴで?? 会議もへったくれもあったもんじゃねえだろうに…」

 上る朝日をバックに、遠く東の地平線から重苦しい走行音をともなって近づくアーマー専用の搬送車両に目を凝らすふたりだった。
 かくして味方なき戦地に取り残された三人だ。
 いかなる未来が待ち受け、またいかなる選択をするものか…!
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