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敵地潜入? 残されたふたり…!
シーン3
しおりを挟む真っ白い濃霧の中に、いくつもの巨大な人影があった。
目を凝らせばそれがじぶんと同じ同型の人型機動兵器のシルエットであることを真正面のモニターとにらめっこして判別するオオカミのパイロットだ。
ウルフハウンドはみずからの口元を覆う防毒マスクをうざったく思いながらにまだなお大口開いて毒づいてやる。
「まったくウジャウジャとうざったいったらありゃしねえな! このマスクとおんなじよに!? まさかあいつらみんながみんなおんなじ七番隊のビーグルⅤだってのか? ふざけるのも大概だぜ!!」
苛立たしげに発したセリフに、するとこちらは相変わらずのんびりとしたでかいクマ、ベアランドがさしたる感慨もなしに言ってのける。
「…いや、他の隊のヤツもぼちぼち混じってるんだろ? 確か四番と六番隊、あれ、二番隊だっけ? ほかにもこの霧の毒でやられちまったっていう気の毒な部隊がいるんだから、いろいろと入り混じってるんだよ。まあでも、こうして見るとなんかゾンビみたいだな? でも問題はあのゾンビどもじゃなくて、むしろこの周りの厄介なガスなわけで…! おっと、おねんねしてるヤツまで起き出してきちゃったな? ほんとにゾンビみたいだ♡」
「みたいじゃねえよ! こんなものゾンビよりもタチが悪いぜ!! おい、てめえまさか手加減しやがったのか? 多勢に無勢なのにも関わらずによっ!?」
なおさら息巻く相棒のオオカミに、のほほんとしてたクマさんは肩を揺らしてあっけらかんと返すばかりだ。
「あはは、こんなマスクしてるんだからあんまり息を荒げると酸欠になっちゃうぜ? さすがに頭をぶっ叩いたくらいじゃね? やるならコクピットか主動力部をひと思いにクラッシュさせるしかないんだろうが、俺の予想の通りならやりずらいんだよな、コクピットは? ちょっとでもこの身を軽くして、うまいこと相手の背後に回り込んでエンジンぶったたくしかないか♡ じゃ、空になったグレネードランチャーを投棄っと!」
言うなりバシュンッと音を立てて首周りにあった発射装置を背後に放り出すベアランドの他よりも一回り大きな機体に、このすぐ横でとっくに臨戦態勢のウルフハンドのビーグルⅤがおなじシルエットをした同型の機体に挑みかかる!
やるなら先手必勝だと胴体の中心、コクピットがある位置めがけて利き手のストレート!!
あいにく相手の左手にガードされてただちに利き手のストレートを返されるが、こちらも左でガードしてそのままがっぷり四つで組むかたちになった。
相手の素早い反応からハナっから格闘戦モードにシフトしていたのかと舌打ち混じりのオオカミは、やがて息苦しいマスクの中でも大口開いて驚きの声を発することになる。
「ちっ…! こいつめ、まるでやる気がないようなふりしてしっかりと抵抗しやがるじゃねえかっ? …て、おいおいっ、どうして押されるんだよ、コラ!? どっちもおんなじ馬力の動力でまるきりおなじ体格の機体なんだから、こんなもんまるで理屈に合わねえだろうがさっきから!! あの機械小僧め、まさか整備の手を抜きやがったのか? 乗るのがよそもんのオレたちだからって!?」
とうとう明後日の方角にまで罵詈雑言を飛ばすウルフハウンドだ。
だがすぐにも横から真顔のベアランドがいたって冷静に返していた。
いまいましいことまるで手を貸すそぶりもないでかグマのそっけない返事には、ついには目をむくやせオオカミだ。
「そんなわけないだろ、あのリドルに限って? ちゃんと冷静に考えろよ。パワーと体格で互角なら、あとはその体重、重量の差しかないってもんだろ? だからほら、両足の重力低減装置、とっとと切っちまえよ! それでめでたく互角だろ??」
「なっ! ダイエットシステムを?? そんなことしたらこんな鉄のカタマリ、ただ重たいだけでまともに走れなくなるじゃねえか!?」
「いやいや、こんなまともな火器管制も効かない濃霧の中じゃ走り回ること自体がムリだろうさ? 意味ないよ。むしろ慎重に抜き足差し足するのがセオリーで! 俺はとっくに切ってるよ? 目の前のヤツも含めてみんな重力まともに受けてるから、あんなのろくさした動きしてるんだろうさ」
言われてみればその通りなのだが、相手の言い分をどうにも素直には承服しかねるウルフハウンドだ。だがぐいぐいと押されるばかりの機体にやむなく言われるがままにコンソールの中央下部の大きめのスイッチに手を伸ばす。
赤く灯ったGマークのスイッチが消灯。
瞬間、ウウンと低い音がして、それきりペダルを踏み込む両足にいつも以上の負荷がかかる…!
「おおっ、コイツは、持ち直した!? おまけに今度はこっちが押してるじゃねえか? 動きは多少もたつくが、これならどうにか五分以上に持って行けるぜ!!」
「それってきっと整備の腕の違いだよな? 腕のいいメカニックさまに感謝しなくちゃ♡ あと、けっこう電力食う両足のダイエットマシンをオフにしたからその分の電力もパワーに回しているんだろ。よしよしそれじゃあ、ちょっとそのままにしてろよ、シーサー、そのまんま…!」
ドカンドカンとやたらに派手な足音を立てて、みずからが組み合った相手機の背後に回り込むクマの大きなアーマーだ。それを曇ったモニター越しに見やるオオカミは内心の不審さもあらわに声を荒げる。
「なんだっ、てめえ、また何か余計なマネをしようとしてやがるのか? やいっ、ひとの獲物を横からかっさらおうってんならそうはいかねえっ、初めての実戦の白星はこのオレによこしやがれよっ!!」
「ああんっ…つかないよホシなんて! そもそも味方機なんだから!! 腐ってもな? いいから黙ってそのまんまにしてろって、狙いを外したら最悪爆発させちゃうから、お前も巻き添えの黒焦げだよ?」
モニターの中でポリポリと後頭部をかくクマが、ちょっとうんざりした口調で言いながら最後にしれっと聞き捨てならないセリフを吐くのには、シッポと言わず全身が総毛立つウルフハウンドだった。
「なっ、てめえ何しようと、おいっ…!?」
「いいから! そうらっ、よ!!」
一撃で地に叩き伏せたパンチを今一度、狙い澄まして相手機の背後に打ち下ろすビーグルⅣだ。
強い衝撃が機体越しにこちらにも伝わるが、この直後、相手のアーマーはこの身動きを一切止めることとなる。エンジンブロックを見事に仕留めたのだとわかるが、なにやらダシにされた気がしてならないオオカミだった。
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