ルマニア戦記・『○×△□◇の逆襲!』

おおぬきたつや

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緊急発進! 濃霧の先にあるもの…!?(第一幕)

シーン2

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「はは…! ほんとにまいったな。あれ、でも肝心のはどうしたんだ?」

 周りを見回してみても、どこにもそれらしき影がないのを不思議がるとってものんきなでっかいクマさんに、年配の小柄なブルドックは顔つきをやや暗くして不満たらたらな口ぶりになる。

「どうしたもこうしたもありゃしねえ、ついさっきどこかのクマ公に乱暴に扱われたから一休みしてるんだろ。あん? おめえがきょとんとするんじゃねえや! 張本人だろう!! たくっ…まあじきに来る。でないとあっちのオオカミの若造がそろそろ騒ぎを起こしそうだからな?」

 舌打ち混じりに言って左手に視線をやるオヤジに、若いパイロットも苦めた笑いでそちらを向く。

「ああ、またえらくテンション上がってるみたいだけど、どうしたもんかね? おっと!」

 するとあちらはあちらでここに来るなりひとしきりそこかしこを走り回ってなにやらギャアギャア喚いていたものだが、それがいきなりで互いの間を詰めてくる灰色オオカミだ。
 もはやかなりのハイテンションででかいクマの同僚にがぶりと食らい付くくらいの勢い、そこでまたやかましく喚き立ててくれる。

「ひゃっほうっ、おいクマ公! のんきにしてねえでとっととこっちに来いよ!! 思ったよりもずっといい機体マシンでこいつはかなりご機嫌になれるぜ!? 見ろって! じゃあどっちがどっちを取るかはジャンケンで決めようぜ!! オレはもう決まってるが、おめえにも選ぶ権利を与えてやるからよ? それなら文句ねえだろう??」

 我が同僚ながら大口開けて血気盛んにまくし立てるテンションスーパーマックスのオオカミ、ウルフハウンド准尉のさまにはちょっと引き気味のベアランドだ。
 苦笑いをさらに強めて気のない返事を返すのだった。

「ああ、俺は別に…どっちでもね? そっちの好きに決めてくれていいよ、俺は余ったヤツでかまわないから。残り物には福があるって言うしな?」

「はん、いいのか? それじゃ後になっても恨みっこはなしだぜ! オレさまは左のヤツに決めた!! ははん、ビーグルファイブ! 本来オレたちが収まる最新鋭とは行かないまでも、さすが現役の主力機なだけあっていいツラしてるじゃねえか? こんな田舎でどんなにくたびれたオンボロつかまされるかとヒヤヒヤしてたんだが、けっこうな仕上がり具合だぜ! あのチビ助が整備したって言うが、マジで大したもんだ!! 陸戦機で重要な足回りも腕や胴体の機関部もどこにも余分な遊びや無駄な露出がねえっ、こいつは良く動くぜ! 何故だかパーツごとにカラーリングの色合いが微妙に違ってるのだけが気になるが、ここいらの流行はやりなのかね? いやはやとにかく気に入ったぜ!!」

? ああ、だってそれって元はただのジャンクを寄せ集めただけだから…てっ!」

「んんっ…おほん! ようやく来たぜ、うちのチビ、ことうわさがな? そら、リドル、回復したならとっととそのわん公…じゃなくて口やかましいオオカミさまに説明してやんな! こっちのバカぢからはおれが相手してやるから」

 裏口通路から入って来るなりそのように促される新人のメカニックだ。
 自分から見て奥側にいるオオカミ族のパイロットへ早足で向かうが、その間に同族にはみえないでっかいクマの障害物があるのを大回りで回避しながら合流する。
 用心してるのがバレバレの抜き足差し足なのがかわいくてたまらないが、さすがに手を伸ばすのは遠慮するベアランドだった。
 整備区画のここなら簡単に鈍器スパナが手に入る。
 険しい顔した熟年の親方ブルが後ろ手に何か隠してるのも気になった。
 
「あっ、はっ、はい! 親方!! お待たせ…あ、ははっ…お、お待たせしました! ウルフハウンド准尉どの! それでは早速ですがご説明させていただきます。こちらが准尉どのたちお二方にご用意しました、ビーグルⅤなのですが、気に入っていただけましたでしょうか?」

「おうっ、もちのろんよ! ついでにおめえのメカニックとしての腕も気に入った!! オレとあのクマ公でしっかり推薦してやるから、おめえもここを引き上げる時は一緒に本国について来な! 若いのにこんな田舎で遊ばせとくにはもったいねえにつきる大した機械さばきだっ、おめえならこのまま航空巡洋艦の高給取りにだってなれるぜ!!」

「はっ? はい?? ああ、ありがとうございます! え、でも自分まだ見習いの身でありますから…」



「はっは、まだ見習いか…! できることなら誰しもあのくらい謙虚でありたいもんだよな? なんかしりつねられちゃったけど??」

「…は、おめえがいらねえことをしゃべりそうになるからだろ。ひとのはなしを聞いてやがらねえのか? ま、あいつのいいところは自分の腕を決しておごったりひとに自慢したりしないことだ。そのくせに向上心がありやがるから、どこまでだって伸びるぜ? もうちょい実戦の経験を積めば立派な戦艦乗りにだってなれる。なのにあいつが不幸なのは周りにそれと認めてくれるヤツがいねえってところだ…ま、?」

「おやっさんがいただろう? まあね、確かに凄いのは認めるが、だからっていいのかい? あいつがいなくなっちまったら寂しくなるだろうに?? それに戦艦乗りが高給なのはそれだけ危険だからだよ…」

「ふん、戦場にいる限りはどこにいたって危険は危険だろう? ただひとつの例外として、が身近にいることが一番生存率を高めるもんだと、これまでの経験則としておれっちは思っているぜ? まったく、娘を嫁に出す親ってのはこういう気分なのかね。そんなもんだからよ、ま、そん時はよろしく頼むわ…!」

「うん、わかった。せいぜいかわいがるよ♡」

「いいやおめえには遠慮してもらいたい。の意味を勘違いするんじゃねえぞ? あいつは見ての通り生粋きっすいのメカニックなんだから、おい! たくっ…で、いまだにここを動かないってことは、おめえさんにはむしろを説明してやればいいのか? 腕がいい上に頭が切れるとくれば、嫁ぎ先として文句はないってもんだが、ああ、わかったわかった、おれっちの言い方がまぎらわしいんだな! このいまいましいとんちきクマ公め、だからその盛りのついたオスの顔をやめろっ、でねえとペンチでてめえのイチモツ引っこ抜いて虚勢してやるぞ!?」

「あっはは♡ その後ろ手に持ってるの、なのかい? あれ、さっきもペンチでつねったの?? やけに痛かったけど…! ふふん、でもそんなものごときで引っこ抜けるもんかね? おやっさん、腕っこきのパイロットのとどまることを知らないあふれんばかりの精力をなめてかかると痛い目見るよ?」

「だまんな。おめえにはこいつがお似合いだ。これもある意味、あの弟子が丹精込めて育て上げた娘っ子みたいなもんだしな。どうだ、カワイイだろ?」

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