ルマニア戦記・『○×△□◇の逆襲!』

おおぬきたつや

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緊急発進! 濃霧の先にあるもの…!?(第一幕)

シーン1

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       『緊急発進スクランブル! 濃霧キリの先にあるもの…!?』


 田舎の前線基地の外れのわちゃわちゃから、かれこれ一時間あまり…。
 今は基地の大型格納庫内でみずからの出撃の時を待つ、テストパイロットだ。
 ただしそんなに悲壮な感じはなく、以前よりも輪をかけてのんびりした調子でみずからが仁王立におうだちして見上げた先、こちらも仁王立ちした大型の人型戦闘兵器と対峙たいじする大柄なクマの新兵さんだった。
 世間一般ではだとか呼ばれる、専用のハンガーデッキに固定された巨躯きょくをしげしげと見上げながら、時に左手におなじように並べられた戦闘兵器たちと見比べてみたりする。

「ふ~ん、こいつはまたがあったもんだな? ビーグルフォーか…! てっきり後継機のⅤ型ごがたが実戦配備されて前線からは姿を消したと思っていたんだけど、こんな田舎にもなるとまだ生き残ってたりするんだ? てか、さっきのスクラップ場にあったの、どれも現役のビーグルファイブ残骸ざんがいばっかだったような??」

 太い首をメキメキと傾けて思案顔するに、背後からは不意にまた例のしゃがれた渋い声がする。

「ほう、こいつはお目が高い…! おまえさんの乗機アーマーだろうに、そんなにそのロートルな機体が気になるのかい? ぼけっと突っ立ってないで、早くしないとマシな方を取られちまうぞ、あのよく吠える同僚のオオカミ野郎によ?」

 押し殺した気配で振り返るまでもなく熟練のブルドックの機械工メカニックだとわかるが、それがすぐじぶんの右手に立つのに一時だけそれと見下ろした視線を送りながら、かすかにでかい肩をすくめるクマ、もといベアランド准尉どのだ。
 また正面を見上げながら、冗談半分みたいに言ってのけた。



「いやいや、俺としてはむしろこっちの方が好みなんだけどね? おやっさん、だったらこいつはちゃんと動くのかい?」

 もうとっくに現役は退しりぞいたと言ってはばからない、まさしくもってのロートルだ。
 それだから見るからにいい歳のブルドックは、こちらもかすかに肩をすくめておいて、おまけなにやら楽しげな口ぶりで返してくれる。

「ふん…当たり前だろう? スクラップだったらこんなトコに置いときゃしねえ。動くも何もできたてほやほやの新品も同然、それこそが現役バリバリの機体よ。ただあいにく動かすヤツがいないだけでな…! ま、こんな田舎でやっと新型が回ってきたってのに、古いのに固執するような物好きがいなかったってだけのことだ。おめえさんみたいなすっとこどっこいがな?」

「だったらとっとと本国ルマニアに送り返して、リサイクルされてしかるべきだろう? 聞いた話じゃ、なんでもであっちの新しいのがとか言うし? このまま博物館にでも飾れそうなピカピカ具合だけど、本国に知れたら問題だったりしやしないのかい??」

 ちょっと意地の悪い顔つきしてのクマ公の発言に、ブルのおやじはそんなのどこ吹く風でなおのこと楽しげにぬかした。

「いいんだよ、こいつは本国工廠こうしょう生産番号ロットにはらないだ。そうさ、なんたってこのおれっちの愛弟子リドルが使えねえはずのスクラップをかき集めて一から組み上げたこの基地の特製品オリジナルなんだからな! ああ、つまりはさっきのあのスクラップ置き場の奥深くから引っ張り出してきたパーツをだな? はじめはバカなことをしてやがると思ったが、あのチビ助、三月とかからずにカタチにしちまいやがった! かっかか、ビックリだろう? あいつはこんなとこに埋もれさせるにはもったいなさすぎるほどのふざけたセンスを持ってやがる。おれっちが教えてやれることはもう何もありゃしねえや…」

「ええっ、チビ…が? こいつを?? はあ、そいつは本当にすごいや! きちんと色まで塗ってあるじゃないか!! こんなのカタログでしか見たことないよっ…て、あれ、だったらあのスクラップ場のバラでまた新品(?)が組み立てられたりしないかい、あのチビがいれば??」

 にわかには信じがたいよなぶっちゃけ発言だ。はじめひたすら目をまん丸くするベアランドだが、半信半疑で口にした言葉を相手は気が抜けるほどにあっさりと肯定してのけるのだった。

「おうよ、だからがそうだよ。おまえさんたちにあつらえた新型のビーグルⅤ! あれに関してはどっちも一月そこそこだったぞ? あいにく色まではきれいに塗れてないんだが、塗料はこのロートルで使い切っちまったらしい。まあ構わねえだろう、動けばよ。頭に来るのは基地のわん公どもパイロットが怖がって誰も乗りたがらないってことだが、日の目を見れて良かったってもんだ! おっと、今のはあのオオカミにはオフレコだぞ? でかい口でおかしなクレームを付けられたら腹が立つ! しょせん言わなきゃ誰にもわかりゃしねえんだ」

「ああっ、そうなんだ…! まいった、ほんとに凄いんだな、あのチビ? てか、ほんとに大丈夫なんだよな? いざ乗っかって出撃しちまっても?? テスト機、早く来ないかな…」

「乗ればわかる! 本国の正規品よりもむしろ運動性が上がってるくらいだ。おれっちの愛弟子をなめんじゃねえや。だからおまえさんもあいつを粗末に扱うんじゃねえぞ?」

「はは…! ほんとにまいったな。あれ、でも肝心のあいつはどうしたんだ?」

 周りを見回してみても、どこにもそれらしき影がないのを不思議がるのんきなでっかいクマさんに、小柄なブルドックは顔つきをやや暗くして不満たらたらな口ぶりだ。

「どうしたもこうしたも、ついさっきどこかのクマ公に乱暴に扱われたから一休みしてるんだろ。おめえがきょとんとするんじゃねえや! 張本人だろう!! たくっ…まあじきに来る。でないとあっちのオオカミがそろそろ騒ぎを起こしそうだからな?」

 舌打ち混じりに言って左手に視線をやるオヤジに、パイロットも苦めた笑いでそちらを向く。

 
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