ルマニア戦記・『○×△□◇の逆襲!』

おおぬきたつや

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風が臭う? 不穏の気配…!

シーン2

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「くせえだろうがっ! 格別に!! て、おええええええっ!! てめえ、!? よくも、とっとと風下に移りやがれ!!!」

「え、いやいや、やってないって! むしろ傷ついちゃうよ、いくらハナがいいからってたかがでそんなに苦しまれたらさ? 俺としてはむしろそっちにこそ問題があるような気がしてならないんだけど...」

 困惑してもう一方の壮年壮年のブルドック親父に向かうが、ブルドックはブルドックでこちらもあんまりかんばしくはない顔つきで、どこか不信感のぬぐえないような物言ものいいだ。

「いや、はするぞ。はしなかったのにな? さてはおまえさん、気を抜きすぎてケツの穴がゆるんじまってるんじゃねえのか? 若えのにしまりがねえったらありゃしねえ!」

「うっ、うそだろ失礼しちゃうな! そんなはずないって、あとお前ももだえすぎ!! やばい毒ガスでもあるまいにひとを何だと思っているんだよ? だったらほらっ、風下ってどっちだ? こっちか?? これでいいんだろう!」

 スタスタとその場から大股おおまたで移動して背後からの風の影響が出ない位置関係に移ったはずが、もだえるオオカミは背後の雑木林を揺らす風が吹くたびに苦しげな嗚咽おえつを発する。 



「おええええっ、おえええええええええっ! うぐ、苦しい、息がっ、まともにできやしねえっ!!」

「なんでだよ!!」

 言われたとおりにしてやったのにそんなはずがないだろう!
 ちょっと憤慨ふんがいしてしまうのに、ブルドックのおやじがなか驚愕きょうがくしたさまで声をふるわせるのにもたまらず目をむくでっかいクマさんだ。

「こいつは驚いたな、オオカミのハナってのはそんなにもなのか! 道理で生まれつき集団行動には向いてないわけだ。あるいはそっちのクマ公のだかだかがよっぽどえげつないってのか? おっかねえな!?」

「ありえないだろ!! こう言っちゃなんだが毎日風呂ふろには入ってるよ! このサウナみたいなテスパスーツを着てるからある意味それだけが楽しみなんだ! こんな田舎いなかの最前線でもなければ名誉毀損めいよきそんうったえてやりたいぐらいだよ。これで無実が晴らせなければあとは風そのものが臭うってくらいしかわけが出来やしない!!」

「おえええっ、うおおおおえええええっ、て、ほんとに、てめえじゃねえってのか? だったらオレ様のこのハナ先にすみたいなえげつのねえ臭いはなんだってんだ??」

「はあっ...知らないよ。てか、お前もう口で息をしろ、めんどくさいから! わざわざ臭いをぐからだろ、あるいはもういっそ息を止めろ。あとできることならそのハナも取っちまえよ」

「できるか!! 死んじまうだろ、息を止めろだハナを取れだの、どんだけデリカシーがなければのたまえるんだよっ、ふざけやがってこのデカブツっこきグマ!!」

「だからこいてないっての! いいやむしろこいてやりたいよ、こうなったら! ならおまえ、この先俺と相部屋あいべやにでもなったら覚悟はできているんだよな? 俺は遠慮はしないよ、いくらハナのくオオカミがルームメイトだったとしてもだな。じぶんでも絶望するくらいに強烈なヤツをおまえのその鼻先に...」

「どあほうども。いい加減にしな! ふたりしかいないテストパイロット同士がそんなことでいがみ合ってどうするんだ。不甲斐ふがいない。それよりも風が臭うってのは、あながちなくもないかも知れないだろう...?」

「???」

 しかめつらの親父にどやされてふたりの若いテストパイロットたちはお互いの目を見合わせる。
 最後のは何やら意味深いみしんな言葉つきだが、言わんとするところがイマイチもってわからない。
 そんな心の内をすっかり見透みすかしたかのようなベテランメカニックは、なおのこと意味ありげな笑みをほっぺたのれた口のはしに浮かべて言ってくれるのだ。

「だからだ、臭っているのはまさしくで、おまけにそのニオイのはよそにあるかも知れないって言っているんだよ...! そっちの雑木林の向こうは入り組んだ海岸線で、海の向こうはこことバチバチにやり合っている敵さんのがたの国だろう? これまで長らくのあいだ狭い海峡を互いに前線基地を構えてにらみ合ってきたんだが、今やあちらさんのはとなっているって話だ。なんでだろうな?」

 意外な方向に水を差し向けてくるブルドックに、でかいクマがでかい頭をはたとかしげさせて思案顔する。それで相変わらずのほほんとした言いようには、すぐそばからやっと息継いきつぎができるようになったらしいオオカミがすかさずにく。



 「さあ? 無人の基地なら臭うものなんて何もないだろう? の国家間紛争って長いんだよな? ひょっとしたら俺たちが生まれる前からくらいにさ! つっても戦場はどっちもに属さないで、そこらへんのレジスタンス勢力もじっててんで終わりが見えないって話だけど? あれ、俺たちなにをしにここにいるんだろうな??」

に決まってるじゃねえか! いい実験場を提供してもらっているんだよ、フィルディアは独立国家の王国とは言いながらもはやオレらルマニアの属国みたいなもんだろう? タンデルにしたって西の帝国の属州みたいなもんだってんだから、終わりなんて元からありゃしないんだよ。ま、おかげでオレらみたいなよそもんがでかいツラでパイロットぜんとしていられるんだがな!」

「俺はしてないけど?」

「てめえは生まれつきにもうでかいんだろうが! だがなるほど、か...! そこの林は海からの潮風しおかぜを防ぐための言うなればってヤツなんだろう? 風にちょっとした臭いが混じっても元からの潮のニオイと林でそれとわからないわけだ! このオレさまくらいに飛び抜けて嗅覚が敏感でないことにはよ!! 海岸線の向こうは敵味方が入り乱れるもはや無法地帯の干渉地域...ははん、こいつは何かありそうだな?」

 したり顔したオオカミにブルドックの親父さんは肩をすくめ加減にして引き受けておいて、しわくちゃな顔面の鼻先をクンクンとひくつかせたりもした。

「ま、まるで雲をつかむような話だがな? ん、ニオイ、なくなったんじゃねえのか? 今のこれはただの潮風だろう。おかしなもんだな...」

「そうなのかい? 俺のハナじゃさっぱりわからないけど。だがここのアーマーのパイロットって、けっこうが多いよな? 戦いに出て行って負傷してるのも犬族が多いような気がするけど...あと行方不明者とか??」

「けっ、犬族のパイロットなんてざらだろう! 国によっちゃ体力面で戦闘にひいでた犬族のヤツら以外は軍人になれないなんてとこもあるくらいだ! ま、どいつもこのオレにはかなわないがな!!」

「さっきまであんなに苦しみもだえていたのに、現金だな! 行き過ぎた自身過剰は戦場では命取りになりそうだけど、おまけにちょっとハナにつくんじゃないのか? ここの犬族のパイロットからけむたがられてるの、はたから見ても一目瞭然いちもくりょうぜんだろう? えっと、シー...だったっけ、名前??」

「ぜんぜんちげーよ!! パワハラってなんだ!? それはむしろてめえだろう!!! ちっ...」

 すぐそばでしゃがれた咳払せきばらいされて、大口開いた赤い舌先とキバをやむなく引っ込める灰色オオカミのテストパイロットどのだ。
 ひどいしかめ面のブルドックがどこか遠くに視線をやりながらに話をめくくる。

「んっ...! まあ、こんなとこでツノつき合わせていてもしょうがねえだろう? それよりもほれ、お呼びが来たぞ? おまえさんがたがいつまでも油売ってるから。えらいあせってるやがるみたいだが...お、しかもありゃうちの愛弟子まなでしだな!」

「あ、チビだろ、あいつ? ほんとだ焦ってる! おーい、そんなにあわててるとコケるぞ、チビー!!」

「相変わらずヒョロっちいな? マジでコケるんじゃねえのか?? なんであんなに焦ってるんだよ? おいおいっ...!」
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