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風が臭う? 不穏の気配…!
シーン1
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それはある日の穏やかな昼下がり。
やわらかな日差しが、緑の草野を明るく照らす。
吹き抜ける風も心地のよいぬくもりをこの頬に伝えた。
もう春が近いことを実感しながら、巨漢のクマ族がゴテゴテとした全身装備の身体で大きな伸びをする...!
「ふあああっ...! 春だねぇっ、おかげで眠くて仕方ない。来たときは一面が雪景色でちょうど良かったってもんだが、こうなると暑くてかなわないよな、この無駄にゴチャついたパイロットスーツ! いっそ脱いで日干しにでもしてやろうか? 風呂に入る時以外は常に着けていろとは言われちゃいるが、誰も見てやしないんだし...!」
広大な軍の基地施設の外れも外れだ。
おまけ人気のないあばら屋みたいなでかい建物をバックにひとりだからとのんびり好き勝手なことを言っていると、不意にこの背後から冷めた言葉が掛けられる。
ちょっと意外そうに後ろを振り返ると、建物のすすけた壁に背中をつけて、そこから冷めた視線を向けてくるよく見知った影を見つけるどでかいクマだ。
「阿呆...! そいつを日がな一日身につけていることもおまえさんがたパイロットの仕事ってもんだろう。特にテストパイロット用にあつらえられたそいつはパイロットの情報を収集する大事な役目を果たすための計測装置がてんこ盛りなんだからな? 脱いだら脱いだでバレバレだろ、重大な任務規定違反、ここにそいつをきっちり証言するヤツもいるわけだしな」
「...あ、なんだいいたのかい、ブルースのおやっさん? こいつはとんだお目付役がいたもんだな! と言うかいいのかい、こんな使い古されたおんぼろの機体しか収まってないスクラップ場で油なんか売ってて? 基地でも随一、引く手もあまたの腕っこきのチーフメカニックさまがさ??」
悪びれるどころか逆にひとを揶揄までしてくれるのに、ずっと小柄で年のいった熟練の機械工のおやじはいよいよあきれ加減の目つきで毒づき返す。
「どあほう。そいつはお互いさまだろう! おまえさんベアランドだったか? 若いのに新鋭機のテストを任された期待の次期エースパイロットさまが、でかい図体してどうにもふぬけたありさまでいやがるよな。本国の上官どのが知ったらなんて嘆くやらだ」
「はっ! いやいや、さすがにそこまではわからないだろう? どうにもお客さん扱いで居心地が悪いんだよ。正直歓迎されてないんじゃないのかね? こっちのベテランのパイロットさんがた、俺とはまともに口も聞いてくれないし。それに肝心の新鋭機がいつまでたっても来やしないだろう? やることなさ過ぎて油も売りたくなるってもんさ。おっと、ヒマ過ぎて屁ぇこいちまった...ま、こんなスーツ着てるからろくに音もしやしないんだけど」
「だらしがねえな! 音はしただろう? まったくそんなでかいなりで、風に乗ってここまで臭いがきちまいそうだ...ん、確かにイヤな臭いがするのか、この風は?」
元からシワだらけの表情なのをしまいはハナをヒクつかせながらなおさら渋くする熟年のブルドックのおやじのそぶりに、若いクマの青年はのほほんと太平楽なさまで目を丸くする。
「え、ウソだろ? こんな頑丈なスーツ着てるんだから、そんなに簡単に漏れるわけが...おやっさんさては犬族だからやたらにハナがいいんじゃないのかい? ん??」
また不意のタイミング、背後から別の気配がするのに怪訝な視線を向ける。
するとそこにはこれまたよく見知った影があり、おまけにこれがひどい嗚咽を発しながら身体をくの字によじって身もだえするのには、なおのこと目を丸くするのだった。
「おおえええええっ! くせえっ、くせえぞっ、たまらねえっ、てめえ屁をこきやがったのか! よりにもよってこのオレさまの風上で!? ええい気をつけやがれっ、この遠慮ってものをまるで知らねえデカブツクマ野郎が!! 次からは風下でやれよっ!!」
「いや、風上とか風下って、わざわざ意識したことないんだけど? てか、いたのか、やさぐれ一匹オオカミ! レアな種族でふつうの犬族よりもハナがいいとは聞くが、ほんとなんだな? というか、そんなにくさいか??」
生まれつき悪びれるといった神経が抜け落ちてるクマのパイロット候補生だ。
じぶんとおなじ格好をしたこちらもまだ若いオオカミ族のパイロットにもてんで澄ましたさまでぬかすのに、こちらは激怒するオオカミが大口開けてつばを飛ばす。
「くせえだろうがっ! 格別に!! て、おええええええっ!! てめえ、またこきやがったな!? よくも、とっとと風下に移りやがれ!!!」
※次回に続く…!
やわらかな日差しが、緑の草野を明るく照らす。
吹き抜ける風も心地のよいぬくもりをこの頬に伝えた。
もう春が近いことを実感しながら、巨漢のクマ族がゴテゴテとした全身装備の身体で大きな伸びをする...!
「ふあああっ...! 春だねぇっ、おかげで眠くて仕方ない。来たときは一面が雪景色でちょうど良かったってもんだが、こうなると暑くてかなわないよな、この無駄にゴチャついたパイロットスーツ! いっそ脱いで日干しにでもしてやろうか? 風呂に入る時以外は常に着けていろとは言われちゃいるが、誰も見てやしないんだし...!」
広大な軍の基地施設の外れも外れだ。
おまけ人気のないあばら屋みたいなでかい建物をバックにひとりだからとのんびり好き勝手なことを言っていると、不意にこの背後から冷めた言葉が掛けられる。
ちょっと意外そうに後ろを振り返ると、建物のすすけた壁に背中をつけて、そこから冷めた視線を向けてくるよく見知った影を見つけるどでかいクマだ。
「阿呆...! そいつを日がな一日身につけていることもおまえさんがたパイロットの仕事ってもんだろう。特にテストパイロット用にあつらえられたそいつはパイロットの情報を収集する大事な役目を果たすための計測装置がてんこ盛りなんだからな? 脱いだら脱いだでバレバレだろ、重大な任務規定違反、ここにそいつをきっちり証言するヤツもいるわけだしな」
「...あ、なんだいいたのかい、ブルースのおやっさん? こいつはとんだお目付役がいたもんだな! と言うかいいのかい、こんな使い古されたおんぼろの機体しか収まってないスクラップ場で油なんか売ってて? 基地でも随一、引く手もあまたの腕っこきのチーフメカニックさまがさ??」
悪びれるどころか逆にひとを揶揄までしてくれるのに、ずっと小柄で年のいった熟練の機械工のおやじはいよいよあきれ加減の目つきで毒づき返す。
「どあほう。そいつはお互いさまだろう! おまえさんベアランドだったか? 若いのに新鋭機のテストを任された期待の次期エースパイロットさまが、でかい図体してどうにもふぬけたありさまでいやがるよな。本国の上官どのが知ったらなんて嘆くやらだ」
「はっ! いやいや、さすがにそこまではわからないだろう? どうにもお客さん扱いで居心地が悪いんだよ。正直歓迎されてないんじゃないのかね? こっちのベテランのパイロットさんがた、俺とはまともに口も聞いてくれないし。それに肝心の新鋭機がいつまでたっても来やしないだろう? やることなさ過ぎて油も売りたくなるってもんさ。おっと、ヒマ過ぎて屁ぇこいちまった...ま、こんなスーツ着てるからろくに音もしやしないんだけど」
「だらしがねえな! 音はしただろう? まったくそんなでかいなりで、風に乗ってここまで臭いがきちまいそうだ...ん、確かにイヤな臭いがするのか、この風は?」
元からシワだらけの表情なのをしまいはハナをヒクつかせながらなおさら渋くする熟年のブルドックのおやじのそぶりに、若いクマの青年はのほほんと太平楽なさまで目を丸くする。
「え、ウソだろ? こんな頑丈なスーツ着てるんだから、そんなに簡単に漏れるわけが...おやっさんさては犬族だからやたらにハナがいいんじゃないのかい? ん??」
また不意のタイミング、背後から別の気配がするのに怪訝な視線を向ける。
するとそこにはこれまたよく見知った影があり、おまけにこれがひどい嗚咽を発しながら身体をくの字によじって身もだえするのには、なおのこと目を丸くするのだった。
「おおえええええっ! くせえっ、くせえぞっ、たまらねえっ、てめえ屁をこきやがったのか! よりにもよってこのオレさまの風上で!? ええい気をつけやがれっ、この遠慮ってものをまるで知らねえデカブツクマ野郎が!! 次からは風下でやれよっ!!」
「いや、風上とか風下って、わざわざ意識したことないんだけど? てか、いたのか、やさぐれ一匹オオカミ! レアな種族でふつうの犬族よりもハナがいいとは聞くが、ほんとなんだな? というか、そんなにくさいか??」
生まれつき悪びれるといった神経が抜け落ちてるクマのパイロット候補生だ。
じぶんとおなじ格好をしたこちらもまだ若いオオカミ族のパイロットにもてんで澄ましたさまでぬかすのに、こちらは激怒するオオカミが大口開けてつばを飛ばす。
「くせえだろうがっ! 格別に!! て、おええええええっ!! てめえ、またこきやがったな!? よくも、とっとと風下に移りやがれ!!!」
※次回に続く…!
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