過去は輝く。けど未来は未だに見えない。

ぽやしみ仙人

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第一章

なぜか自分の名前の読み仮名がわからない。#04

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☆☆☆


 いつの間にか説明やら手続きが終わり、私たちは事務所を追い出されるように後にした。

「――いやー、どれもこれも驚きの連続やったわ」

 隣にはなぜか高峰がいて、興奮したような口調でなんか言っている。
 そんな状況からの救世主である兄は、これから彼女とデートとか言いやがって先に帰ってしまった。
 リア充め、妹を放置して彼女を優先するとか罰が当たればいいんだ、いやあたってしまえ。

「合宿に、デビュー曲、リリイベに冠番組――まだキャラデザも決まってへんのに展開が早すぎやわ。さすが国民的アイドルグループを率いた名プロデューサーって感じやな」

 まあ、今日の顔合わせには参加してへんけど――と高峰は残念そうに口にした。

「カラカナも驚きの連続やったやろ? それに、自分の読み仮名もわかったことやし良かったやん」

「まあ、そうだな……」

「なんや、元気あらへんなー。これから忙しくなるんやしもっと気合いいれなこの業界で生き残れへんで!」

 気合いを入れさせるためか高峰が強めに私の背中をバンバン叩いてくる。
 けれど、私の心にその言葉はまるで響かなかった。

「……まあ、ええわ。カラカナ、どこ住みなん?」

「絶対知らないと思うけど西東京市って言うそれは知名度の低い――」

「なんや、西東京が地元なんか。それで、西東京でもどこ辺に住んでるん。田無? ひばり? 保谷? 柳沢?」

「いや田無だけど――え?」

 想定外の答えに私の頭がフリーズする。

「え、やないわ。それで田無のどの辺なんや? 北口か南口でもだいぶ違うやろ」

「いや、なんで西東京市を――田無を知ってるんだよ……」

 都民ですら周辺地域以外の民は知らないどこそれとよく聞き返されることに定評があるので、知らないことに対しては耐性があるけれど逆の反応をされることは稀なので困惑する。
 初対面で「西東京市出身です」と答えて「あーあそこね」となることはほぼ皆無。
 田無で通じないと説明が面倒なので、みんな大好き吉祥寺の上らへんでようやく通じるまでが一セット。

「知ってるの何もうち生まれも育ちも小平やねん。まあ、小平って言っても端っこの方やけど……」

「……お、おう」

 まさかの隣町でございましたどうも。
 ちなみに小平市は西東京市より西側に位置している。
 というか、こいつ関西弁だけど関西出身じゃないのかよ……。
 まあ、触れてはいけない話題なのかもしれない。

「田無やったら同じ西武新宿線やな。なんか最終審査といい、地元も隣といいうちら相性ぴったりかもしれんな」

「あははは……」

 こいつと一緒とかアレなので、中央線に乗って武蔵境まで出てバスで帰ろうかしらん……。
 こうして高峰立とは地元が隣という新たな絆で結ばれたのだった。
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