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第一章
なぜか自分の名前の読み仮名がわからない。#01
しおりを挟む「悪いなぁ、こんなとこまで連れてきて」
「……は、はあ」
――連れてこられたのはお手洗いでした。
そこは未使用のようにあちこちがピカピカと輝いているお手洗いはまるで生活感が無い。
まるでショールームに展示してある商品のようだ。
そういえばビル自体もどこか真新しかったような気がする。
「……あの部屋にいると息が詰まるねん」
縦が三メートル、横が十メートル近くある巨大な鏡が設置された洗面台に寄りかかりながら、彼女はそんなことを口にした。
「当たり前やけど誰も面識は無いし、うちが話しかけても他のメンバーは会話してくれへんねん」
「まあ、最初はそんなもんでしょ――ですよね」
ただ単純に鬱陶しがられているだけでは――とは口が裂けても言えない。
慣れない環境で緊張しているだけか、それとも様子を窺っているのかもしれない。
「というか、メンバーだけやのうてこの事務所もだいぶヤバいで」
「ヤバいって具体的にどういうことでs――どういうことなんだ?」
敬語を使おうと意識したけど面倒になったのでタメ口で聞いてみる。
彼女も内心はどうあれ別に嫌そうな顔はしてないので平気だろ、たぶん……。
「なんでもうちらのために作られた事務所なのはまだわかるんやけど、このビルもわざわざ建てたらしいねん。事務所だけやったらテナントでも借りれば済む話やのに、売れるかどうかわからんアイドルのために丸々ビル一棟建てるなんて怪しすぎやろ?」
「ただ単純に自社ビルにしたかっただけでは? 安定しないアイドルのギャラよりテナントの収入とか見込んでるのかもしれないし……」
「せやけど、実績もないのにわざわざこんなビル建てるなんて怪しすぎやん……。やっぱり親会社の音楽レーベルから引っ張ってきてるんやろうな……」
彼女は顎に手をあてながらお手洗いを見渡す。
お手洗いが綺麗でウォシュレットが最新式だったのでお腹がわりと弱い私的には満足だ。
駅とかデパートだとよく渋滞しているからマジでピンチの時は詰みそうになる。
とっとと綺麗なトイレの個室増やせくださいって感じ。
その点ここはそんな心配は皆無だろう。
全体的に綺麗で個室も十個くらいあって広いし。
「てか、あんた名前なんや。自己紹介もしてへんし、ラインの垢名ももちろん本名とか芸名やないやろ? ……あ、うちは『高峰立』っていうキャラ名で芸名や」
自分が演じるキャラクター名と芸名は同じ名前――というのはどのメンバーでも同じらしい。
「私はあま、あま……。甘いに楽しいって書いてなんて読むんだ、これ……」
「『甘楽歌南』か……。たぶん名字は『かんら』やろうな。名前はいろんな読み方があるからわからへんな……」
字面を高峰へと見せると、名前の読みはわからないらしく首を傾げていた。
「というか、勝手に芸名決めるならふりがなくらい振ってくれって感じ」
「ほんとそうやわ。うちの名前も『立』の一文字じゃ読み仮名わからへんから勝手に『たち』って読んでるわ」
二人で顔を見合わせて互いに笑った。
しばしお手洗いに私たちの笑い声が響き、それが止むと高峰はニコリと笑みを浮かべながら右手を差し出してきた。
「これからよろしく頼むわ、カラちゃん」
「こっちこそよろしく、ギャンブラー」
高峰の手を握り、このギャンブラーとは上手くやっていけそうだと思った。
「……って誰がギャンブラーやねん!!!」
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