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第一章
休日はお兄ちゃん(財布)とデートしたい。#02
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☆☆☆
学生に取って天下の休日である日曜日。
学校も休みだというのに私は珍しく制服姿で東京の街を歩いていた。
「……まさか、お前がアイドルとは、な……。やっぱり何かの間違いじゃ無いのか?」
隣を歩く仏頂面の兄が怪訝な顔で私を見てくる。
現役女子高生である妹の私と東京でデート出来るのだから、お世辞でも嬉しそうな顔をしてくれれば良いものを。
「お前、だいぶ不満そうだが誰のお陰でここにいることが出来るのか、よーく考えた方が良いぞ???」
「……はい、すいませんでした」
財布という実権が兄に管理されている以上、私の自由は期待できない。
お昼に食べた大盛りの明太釜玉うどんも、鞄に入っている炭酸が抜け始めているキリンレモンも、ここまで来る交通費もすべて兄の財布から出ているのだ。
簡単には逆らえまい。
……これではアイドルとは名ばかりの傀儡では?
「……それにしても未成年は保護者同伴なのに、俺が呼び出されるとは夢にも思わなかったな」
「いや、まあ、ほら、あれじゃん?」
「どれがあれなんだよ……」
「いやさ、そういうのをパパに頼むと応対が面倒そうだし、ママに頼んでも怒られそうだし……」
「それで俺に白羽の矢が立ったわけか……。まあ、気持ちはわからんでもない」
「消去法で選ばれたお兄ちゃんを保護者として扱えば、実質私がお兄ちゃんを支配下に置いていると言っても過言では――いふぁふぁふぁ、ふぁにをするのふぁ! 傷が残ったらどうするんだよ、私これからアイドルになるんだぞ!」
乙女の柔肌の象徴である頬をつねってくる鬼畜兄の魔の手から逃れ、私の頬に痛みを与えてきた元凶を睨め付ける。
「……いや、だって既に消えない傷あるでしょ、君」
「……まあ、誰だって傷の一つや二つあるものだよ、お兄ちゃん君」
誤魔化すように十月の澄んだ空を見上げる。
そんなことをしているうちに、目的地であるガラス張りの巨大なビルが見えてきた。
その大きさに思わず上まで見上げてしまう。
「お前、初めて東京に来たおのぼりさんみたいになってるぞ」
「は、はあ? 田無タワーより小さいなって見てただけですけど? 田無タワーなめんな!」
田無タワーは我が地元が誇る多摩地区で一番高い電波塔である。
ただ、スカイツリーとか東京タワーのように、一般に開放された展望台があるわけではないから注意が必要だ。
「……はいはい、地元愛が強いのはわかったからさっさと行くぞー」
「いや田無タワーがいかに偉大であるかの話はまだ終わってないんだが……」
兄に連れられビルの中に入るとその広さに圧倒される。
あと日曜なのに死んだ顔をしている社畜が多い。
「……なんだよ、その哀れむような目は」
「いやー、社畜って大変だなーと思ってさ」
「まあ、そのうちお前も働くようになれば嫌でもわかるようになるぞ。働いて金を稼ぐのがどんだけ大変なのか」
「……ふーん、そういうもんかね」
そんなやりとりをしていると、目的の階に到着したのか音も無くエレベーターの扉が開いた。
「じゃあ、行ってくるね、お兄ちゃん」
「……ああ、頑張れよ」
「うぃー」
保護者は別室で待機らしいので、ここで残念ながら我が兄の出番は終了だ。
果たして次の出番はあるのだろうか……。
……まあ、出番があっても需要が無いしどうでも良いな。
学生に取って天下の休日である日曜日。
学校も休みだというのに私は珍しく制服姿で東京の街を歩いていた。
「……まさか、お前がアイドルとは、な……。やっぱり何かの間違いじゃ無いのか?」
隣を歩く仏頂面の兄が怪訝な顔で私を見てくる。
現役女子高生である妹の私と東京でデート出来るのだから、お世辞でも嬉しそうな顔をしてくれれば良いものを。
「お前、だいぶ不満そうだが誰のお陰でここにいることが出来るのか、よーく考えた方が良いぞ???」
「……はい、すいませんでした」
財布という実権が兄に管理されている以上、私の自由は期待できない。
お昼に食べた大盛りの明太釜玉うどんも、鞄に入っている炭酸が抜け始めているキリンレモンも、ここまで来る交通費もすべて兄の財布から出ているのだ。
簡単には逆らえまい。
……これではアイドルとは名ばかりの傀儡では?
「……それにしても未成年は保護者同伴なのに、俺が呼び出されるとは夢にも思わなかったな」
「いや、まあ、ほら、あれじゃん?」
「どれがあれなんだよ……」
「いやさ、そういうのをパパに頼むと応対が面倒そうだし、ママに頼んでも怒られそうだし……」
「それで俺に白羽の矢が立ったわけか……。まあ、気持ちはわからんでもない」
「消去法で選ばれたお兄ちゃんを保護者として扱えば、実質私がお兄ちゃんを支配下に置いていると言っても過言では――いふぁふぁふぁ、ふぁにをするのふぁ! 傷が残ったらどうするんだよ、私これからアイドルになるんだぞ!」
乙女の柔肌の象徴である頬をつねってくる鬼畜兄の魔の手から逃れ、私の頬に痛みを与えてきた元凶を睨め付ける。
「……いや、だって既に消えない傷あるでしょ、君」
「……まあ、誰だって傷の一つや二つあるものだよ、お兄ちゃん君」
誤魔化すように十月の澄んだ空を見上げる。
そんなことをしているうちに、目的地であるガラス張りの巨大なビルが見えてきた。
その大きさに思わず上まで見上げてしまう。
「お前、初めて東京に来たおのぼりさんみたいになってるぞ」
「は、はあ? 田無タワーより小さいなって見てただけですけど? 田無タワーなめんな!」
田無タワーは我が地元が誇る多摩地区で一番高い電波塔である。
ただ、スカイツリーとか東京タワーのように、一般に開放された展望台があるわけではないから注意が必要だ。
「……はいはい、地元愛が強いのはわかったからさっさと行くぞー」
「いや田無タワーがいかに偉大であるかの話はまだ終わってないんだが……」
兄に連れられビルの中に入るとその広さに圧倒される。
あと日曜なのに死んだ顔をしている社畜が多い。
「……なんだよ、その哀れむような目は」
「いやー、社畜って大変だなーと思ってさ」
「まあ、そのうちお前も働くようになれば嫌でもわかるようになるぞ。働いて金を稼ぐのがどんだけ大変なのか」
「……ふーん、そういうもんかね」
そんなやりとりをしていると、目的の階に到着したのか音も無くエレベーターの扉が開いた。
「じゃあ、行ってくるね、お兄ちゃん」
「……ああ、頑張れよ」
「うぃー」
保護者は別室で待機らしいので、ここで残念ながら我が兄の出番は終了だ。
果たして次の出番はあるのだろうか……。
……まあ、出番があっても需要が無いしどうでも良いな。
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