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しおりを挟む「――あと十分以内になんとしてでも直せ!」
「――四十五日点検終わった車、さっさとピットから出さんか!」
「――おい! 工具は使ったら必ず片せって言ってんだろ!」
バスが五台分入れる作業スペースはどこもバスが止まり、同じ色をしたつなぎ姿の整備士たちが慌ただしく行き交っていたり、怒号が飛び交っていた。
その光景は控えめに言っても修羅場で、もはや銃弾飛び交う戦場のようであった。
そんな工場の様子を見てか、どこか余裕綽々としていた四街道の顔が突然凍りつき、その場から微動だにしなくなる。
どうやら想像以上の光景に脳の処理が追い付いていないようだ。
「おーい、大丈夫か?」
「え、べ、別に動揺とかしてないけど? ほんのちょっとイメージと違ってビックリしただけだし!」
そう答えつつも、四街道の目は見ているこちらが心配になるくらい泳ぎまくっていた。
そんなことだから、動揺しまくっているのは周知の事実であった。
「で、誰かにアポとか取ってるのか?」
「い、一応取ってるけど……」
「取ってるけど?」
「こんなにいっぱい整備の人がいるなんて思わなくって、名前と顔が一致しないんだよね……。あはは……」
「おいおい……」
四街道の乾いた笑い声はなぜかハッキリと聞こえてきた。しかも今にも泣き出しそうな声音である。
俺は一度嘆息してバタバタと慌ただしく作業する整備士たちを眺める。
いくらアポを取っているからとはいえ、ここで呆然としていても仕方がないだろう。
誰か手が空きそうな整備士に話しかけようとしていると。
「――お、疫病神じゃねえか。工場に何か用か? まさか、また派手にバスをぶっ壊したとかじゃねえだろうな?」
俺を不名誉極まりないあだ名で呼ぶガタイの大変よろしい、中年の整備士――塩浜が話しかけてきた。
というか、まるで般若のような形相で睨んできた。
「い、いえ今日はまだ違います。……というか、先日はどうもありがとうございました……」
「あー、この間の夜のアレかー。別に運賃機が詰まったくらい朝飯前だから気にすんな。まさか、中で百円玉が砕けてて、それが詰まりの原因だとは思わなかったがな! ガハハハハッ」
何がおかしいのか、大笑いしながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
力の加減をしているのだろうが、一発一発に力がこもっていて痛い。
そんなに俺への恨みがあるのだろうか……。
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