車両故障は不可抗力

ぽやしみ仙人

文字の大きさ
上 下
11 / 21

11

しおりを挟む


「――あと十分以内になんとしてでも直せ!」

「――四十五日点検終わった車、さっさとピットから出さんか!」

「――おい! 工具は使ったら必ず片せって言ってんだろ!」

 バスが五台分入れる作業スペースはどこもバスが止まり、同じ色をしたつなぎ姿の整備士たちが慌ただしく行き交っていたり、怒号が飛び交っていた。
 その光景は控えめに言っても修羅場で、もはや銃弾飛び交う戦場のようであった。
 そんな工場の様子を見てか、どこか余裕綽々としていた四街道の顔が突然凍りつき、その場から微動だにしなくなる。
 どうやら想像以上の光景に脳の処理が追い付いていないようだ。

「おーい、大丈夫か?」

「え、べ、別に動揺とかしてないけど? ほんのちょっとイメージと違ってビックリしただけだし!」

 そう答えつつも、四街道の目は見ているこちらが心配になるくらい泳ぎまくっていた。
 そんなことだから、動揺しまくっているのは周知の事実であった。

「で、誰かにアポとか取ってるのか?」

「い、一応取ってるけど……」

「取ってるけど?」

「こんなにいっぱい整備の人がいるなんて思わなくって、名前と顔が一致しないんだよね……。あはは……」

「おいおい……」

 四街道の乾いた笑い声はなぜかハッキリと聞こえてきた。しかも今にも泣き出しそうな声音である。
 俺は一度嘆息してバタバタと慌ただしく作業する整備士たちを眺める。
 いくらアポを取っているからとはいえ、ここで呆然としていても仕方がないだろう。
 誰か手が空きそうな整備士に話しかけようとしていると。

「――お、疫病神じゃねえか。工場に何か用か? まさか、また派手にバスをぶっ壊したとかじゃねえだろうな?」

 俺を不名誉極まりないあだ名で呼ぶガタイの大変よろしい、中年の整備士――塩浜が話しかけてきた。
 というか、まるで般若のような形相で睨んできた。

「い、いえ今日はまだ違います。……というか、先日はどうもありがとうございました……」

「あー、この間の夜のアレかー。別に運賃機が詰まったくらい朝飯前だから気にすんな。まさか、中で百円玉が砕けてて、それが詰まりの原因だとは思わなかったがな! ガハハハハッ」

 何がおかしいのか、大笑いしながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
 力の加減をしているのだろうが、一発一発に力がこもっていて痛い。
 そんなに俺への恨みがあるのだろうか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...