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しおりを挟む「え、ちょっと待って……。それって計算上だと毎日故障を発見してない?」
「さすがに毎日じゃねえよ……。確かに二日に一回くらいは大なり小なり車両故障に遭遇するし……」
故障に慣れすぎてその後の対応も大まかだが覚えてしまった。
けれど、それを無かったことにはせず、きちんと運行管理者には報告するけれど……。
「てか、レッカー車が必要な路上故障三件って……。ここ数年じゃなくて去年一年間でこれって、さすがにおかしいって疑われるでしょ……」
「しかもそのうち一台はそのまま還らぬ人――じゃなかった、バスになったしな……」
「…………」
四街道が俺をゴミか汚物でも見るような視線を向けてくる。俺は視線を合わせぬように大袈裟に咳払いをして。
「……で、でもまあ、派手にぶつけて廃車にしたわけじゃないし、あれは不幸な故障、偶然が生んだ産物だったってことにしておこう。それにたとえ故障しなくても車検が切れる前に廃車にするような話も出てたらしいし、それが自然の摂理だったんだよ、きっとな……」
そんな言い訳とか言い逃れと呟き、運転席で目を閉じながら遠くの空で瞬く星々に向かって手を合わせる。
「実籾、あんたね……」
そんな俺の様子を見ながら、四街道は頭痛でもするのか額に手をあてながら嘆息した。
「で、実籾はどうやってこの疑いを晴らすつもり?」
「それが簡単に思い付けば苦労しないんだよな……」
この四面楚歌状態をひっくり返す作戦など、いくら考えても凡人の俺には思い付かない。それどころか作戦の『さ』の字すら出てこないまであった。
「だったら公休日にでも一緒に考えてあげても――」
「残念ながら二日とも公出が入っております……」
「ダブル公出って……。実籾、この状況が分かってて言ってるの?」
「それが人がいないからどうしてもって頼まれてさ……」
公出とは言うまでもなく休日出勤のことである。
多摩産業バスでは公出は強制ではなく希望制で、休みたければほぼ確実に休むことが出来る。ただ、勤務を割る段階で人が足りなくて「公出、出来ませんか」と、毎週のように声が掛かるけれど……。
「そんなの断れば――って出来たら苦労しない、か……」
「勤務割が出ている時点での残業――増務のキャンセルは重罪だし、遅刻と同じ扱いになる。それに嫌みを言われたり、難癖を付けられたりするだろうな……」
そう口にしながら俺はバスのエンジンを掛け、ハンドルを回しながら折り返し場を後にする。
すぐそばのバス停につけて発車時間まで一分程度待つ。
周囲に車は一台も走っていなかった。
「時間も無いのに冤罪を晴らす――しかも状況は絶望的ときたら……。いっそ諦めるとか?」
「――それは出来ない。自分がやっていないことを認めるなんて絶対にしたくないな」
「……あっそ。まあ、それでこそ実籾って感じだもんね」
『帝都駅行き、時間になりましたので発車いたします』
「無視すんなし!」
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