車両故障は不可抗力

ぽやしみ仙人

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「……本社の仕事は順調なのか?」

 車内マイクを切って問いかけると、その人物――四街道はスマホに視線を落としたまま。

「どっかの営業所でバスを壊しまくって、あらぬ疑いを掛けられている誰かさんよりは、ね」

 そう皮肉混じりに答えてきた。
 その人物――四街道夜は俺の同期だ。
 トレードマークといっても過言ではないサイズのあっていない大きめの黒渕メガネを掛けているので、バスに乗ってきてもすぐにわかったりする。

「で、お偉いさんは何だって?」

「俺が次にバスを壊したらクビだとさ。まったく、俺だって好きでバスが壊れるわけじゃないのに、勘弁してほしい……」

「あははっ、本社でも実籾は有名人だからしょうがない、しょうがない。だって車両故障報告書が来ると『まーた実籾か』『あいつは疫病神か何かか』って偉い人が頭抱えてるもん」

「……それは知りたくなかった」

「まあ、それもすぐに無くなるんじゃないかな」

 スマホの画面を消し、外の暖かな住宅街の街灯を眺めつつそう四街道は呟く。

「どういう、ことだ」

 問うと、四街道は意地の悪い笑みを浮かべ、まるでいたずらっ子のように。

「――だって、実籾は『やめる』もんね、色々な意味で」

「おい、縁起でもないこと……」

「本当はわかってるんでしょ――煙たがられているってことくらいさ……」

「…………」

 急にピーピーという電子音が聞こえてきた。どうやら発車時間のようだ。
 俺は嘆息してマイクを付け中ドアを閉めた。
 ミラーで周囲の安全確認をしてゆっくりと発進する。

「ま、とにかくさ、僕が助っ人を頼まれたからよろしく」

「……あ、ああ」

「実籾がどうなろうとどうでもいいし、興味も無いけど仕事だから助けてあげるよ。なんと言っても僕は女神のように優しいからね」

『お知らせないので通過します』

「ちょっと、無視しないでくれない?」

『他のお客様のご迷惑となりますのでお静かに願います』

「僕以外誰もお客さんいないけど!?」

 そんなくだらないやり取りをしながら終点の折り返し場へと到着した。
 周囲は街道沿いにある街灯以外の明かりはなく真っ暗だ。
 ドアを開けると蛙の賑やかな合唱が聞こえてきた。
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