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第一章 マジ異世界ですね
No.3
しおりを挟む黒いデカイ影は、推定二メートル以上はありそうだ。うん。終わったな……。
って、終わりたくないよ!
な、な、な、ど、ど、どーしたら!
ま、ま、魔法か!
こ、今度こそ、奏歌を守らなきゃ!ね!うんそうだよ!
構えたとたんに、影がゆっくりと振り返る。
「なんだ?なんでこんなとこに、女とガキがいるんだ?」
あ……人か……。
やば、魔法で攻撃しなくてよかった?のか?
いやいや、わからん。
逆光で顔は見えないが、悪いやつじゃないとは言い切れない。
「ハリー、どーした?見つかったのか?」
「ハロルド、見つからんが見つけてしまった。」
「何をわけのわからんこと……女?子供?は?なんで。こんなとこに?」
うわっ。増えた!デカイ、デカすぎる男ふたりだとぉ?やばいじゃないかあ!
私は、娘を背に庇う。
男が増えた今、危険なのは女子高生の可愛い娘なのだ!
こいつらが幼女趣味の変態でないならば!
「ほう?一丁前に姉ちゃんを庇うのか?」
当たり前だ。私はチビでも母なのだ!
「はははは。お前の顔が怖いんだろう?で、お嬢ちゃんたちは、なんでこんな危険な場所にいるんだ?」
「ちらない!気がちゅいたらここだったんだもん!」
怖くて逆ギレみたいに叫ぶ私に、奏歌が不安な声を上げた。
「ママ。」
私の肩に置かれた奏歌の手は震えてる。
大丈夫だよ。
絶対に奏歌は、ママが守るから!
そうだ、焦ってはいけない。私は母なのだから。
「そんな睨むな。街に行くなら送ってやるから。」
「おし、みつけたぞ。」
「よかった。よし、探し物は見つかったし、戻るぞ?」
「大丈夫だからな?俺はハロルド。こいつはハリーだ。俺らは冒険者でバディをくんでんだ。今日はこの森にしかない、この『木のカラカラ』ってキノコを探しに来たんだよ。この森は上級者じゃないと危ないくらい、危険な魔物が出るんだ。よく大丈夫だったな。魔物よけでも持っていたのか?」
「わかんにゃい。」
ハロルドという男が優しい笑顔を浮かべ言った。少しだけ、警戒度をさげる。
しかし、魔物だと?
やっぱりいるのか。
しかし変な生き物は見なかったはず。というか、ここまで生き物らしいものには合わなかったよ?
「気づいたらって、言っていたな。攫われて置いてかれたのか?もしかしたらそいつが持っていたのかもな。二人から魔物避けの匂いはしないし……。
ただ、不思議と人の匂いも少ないな。だから、魔物に気がつかれなかったかもしれないな。」
「そうだな。」
二人が会話している間、スマホをポケットでイジイジしていた。
あっ、そうだ、そうだよ。
スマホでなんかみれそうじゃない?神様が言っていたのが本当なら!
「……ちゅまほ!」
「あ、そっかあ。」
娘が私の陰から(私が小さすぎて、隠れていないがな)スマホをかざす。
「ママ、大丈夫みたい。嘘はないみたいだよ?それにほら……ね?」
ーーハロルド
ーー冒険者
ーーギルドランク(B)
ーー善人
ーーバディ有
ーーハリー
ーー冒険者
ーーギルドランク(A)
ーー善人
ーーバディ有
チラリと見せられたスマホにある二人の簡易な紹介に善人とあった。
ほー、善人とか悪人とかでるのか?まあ、善人なら大丈夫かな。
勝手な主観かもしれないが……右も左もわからない場所で、『善人』表示ならすがりついてもいいよね?うん、いいとしよう。
もしもの時は、厨二病……もとい、魔法の力を駆使しよう。
「ねえ、ねえ。あたちたちもぼーけんちゃ、なれるか?」
やっぱり、『冒険者』のある世界っていうならなりたいよね?というか、選択肢的にもそれが一番だよね?
当座の生活費も稼げそうだし?
でも、ゲームによっては年齢制限あったしな。
どーなんだろうか?
「……嬢ちゃんはむりじゃね?年齢の制限はないが……難しいぞ?依頼をこなすの。それにその姉ちゃんもまだ子供だろう?」
ああ、そうだった。私、子供か。
やっぱり、子供すぎるとダメなのか。でも、制限ないならよくね?それに奏歌は?
奏歌は15だ。もう、すぐに16だよ。私にとっては子供ですけどもね。でも、結婚もできるようになる年だよ。でもな日本と違うだろうし。どうなんだろうか。
「いくつが、ちぇーじん?」
「16だ。」
「まあ13くらいから、ギルドの仕事をこなすが……。そのお前の姉ちゃんは10くらいだろ?」
「ひど!失礼な!私は15歳です!もうすぐ16だし!ママなんか、さん………。まだ、小さいけど。」
「15?本当に?……。随分、小さいな?だがまあ、いいや。で、親は?」
ここにいますが……言ったらややこしいよねえ。言わない方がいいよね?
どう見ても親には見えないし。
いや、見えたらやばかろ?三歳児で母になる世界は変態どころじゃないよね!
「いにゃい!」
「ママ……。」
「姉妹二人だけか?」
「ちょう!」
「そうか……。」
あ、二人が涙ぐんでる。
えっと……マジで善人だねえ。たぶん、色々と感じ違いしたんだろーなあ。
ちょっと、罪悪感……が湧いてしまう。すみませーん。
私はスマホで素早く娘に言葉を送る。
『うちらは、姉妹ということで。私はショウ。あなたはソカ。もしかすると真名とかもなんか関係するなんてことがあると困るから!』
『#了解__ラジャ#』
奏歌からの返信を見る。もう、これでいくしかないよね?
だって、一番自然だ。奏歌を母にするのもねえ……。
だって子供に見られる母じゃ。だから姉妹のが自然だと思うんだよ。それに、勘が言ってるんだよ、本当の名は隠せって。
あれ?
嘘ってバレないよね?
ギルドカードとかあんのかしら。
嘘ついたら『嘘つき』って、表示されたりしないよねえ?それはこまるよ。
「なあ、馬乗れるか?」
「乗れません。」
乗れるわけがない。
あ、原チャリとー、車は乗れるよー?
「だよな……。」
「バラバラにでいい?」
「だめ!ちょかと離れんのは、や!」
だって、善人とはいえ……知らない男だし。ちょっと護身術を習ったくらいで抵抗できそうにない。
それほどガタイがいいのだ。
うーん、イメージ的には外国人のプロレスラー?私の貧相な知識だと?
一番近いのは、グリズリーとゴリラかなあ。カッコかわいいよね!
「ちょか?」
「あ、私はソカ。妹はショウです。名のるのが遅くてごめんなさい。」
「しかし、バラバラがダメじゃなあ……。」
「方向だけ教えてもらえたら、歩きますけど?」
「しかし……。女と子供……なあ?ハリーの馬なら大丈夫か?」
「大丈夫だが。俺一人が支えるのはむりだぞ?」
「だよなあ。」
ようは幼児を前にして支えると、娘は後ろで自分で彼に捕まらなくてはならない。バラバラなら、二人とも前にして片手で支えながら馬を走らせられるという。
うーん。
娘が心配だが。どうするかな?
「ショウ。我慢しよう?靴ないからさ。ま、ショウの足が。」
「え?靴は?」
「にゃい!」
と答えたらいきなり抱き上げられた!
びっくりだ。ひぃ、と声が出なかったよ!
自分の身長のゆうに四倍の高さにグイーンとあげられる恐怖!
わかる?
「うにゃあ!にゃにすんのよ!」
「足を痛めるだろうが!毒虫だっているんだぞ!」
怒鳴られた!怖い!怖いんだよー。怖いー!
で、で、で、ど、毒虫ですと!……さらにガクブルです。
今までこれでかなり歩いたんですが……。いなかったよね?
でも、怒鳴り声は怖い。怖いんだよ。
……泣きそうだ。
やばい、子供の涙腺の甘さを忘れていた。
「う~~~。」
我慢だ、我慢するんだ、昭子!私は38歳なんだよ!大人なんだよ!
泣いてはいけない!
「ばかっ、ハリー。子供に怒鳴っちゃだめだろ!」
奏歌が目に涙を溜めながら、ハリーに食ってかかる。
「ま、ショウをいじめないで!私たちだって、好きでここにいたんじゃないんだからっ!しょうがないじゃない……そんなこわい森しらないもの………。う………。靴だって、無くしちゃったんだもん。」
ああ、奏歌が泣いた。私の可愛い娘が!わ た し の 奏歌が!
「ああ、ああ。泣かないで?な?そうだよな?不安だったのに。」
「はなちて!」
暴れたら降ろしてくれた。
涙が止まらないし、毒虫なんて知らん!
私には奏歌が一番大事なんだ。
泣かせたくないんだ!
泣かせないって、決めてるんだ!
「ちょか、ちょか。泣かにゃいで。ね?いつも、ままがいるよ?ね?大丈夫だよ。」
奏歌を小さな腕で抱きしめる。大丈夫だよ、ママがいるよ。ママは奏歌のそばにいるんだよ。大丈夫、必ず守るから。
「まま……。」
小さく、泣き虫でごめんなさいと私にしがみついてきた。
ごめんね。
いくら能天気な私たちでも、こんなわけがわからないところで。お前はまだ15歳だったのに、わたしがしっかりしないといけないというのに。
頼みの綱のはずの母親は、こんな小さいし。
ごめんね。
でも、ママは奏歌を絶対に守るからね。
それに私たちは大きな男の人の怒鳴り声は、苦手だ。
娘は単純に大きな男の人に接する機会があまりなかったのと、私の恐怖が伝わってしまった所為だと思う。
私は過去のトラウマからだけど。
そんな……古い記憶は忘れてしまわないと。忘れるんだよ、昭子。
けれど、ふとした時に……男の怒鳴り声を聞いた時に……恐怖が蘇ってしまう。
大丈夫、落ち着いて。
そう、落ち着こう。
私は、奏歌の母なんだから。
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