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第五章 エルフの谷へ

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「しかし、サクラ様。いかがしますか?」
「そうねえ。アタシにはあの子達を捨ててはいけないわ。」
「姉様は、そう言うと思ってました。」
「子供とニャンコは、ぷにぷにじゃなきゃだめよ!ガリガリに痩せて……。」
「だが、サクラ様。…此の先、もっと酷い状態の獣人や人以外……いや、人であっても傷つけられたものは出てくる。
特に小さな子供なんかが……な。それを全て助けるなんざ、出来ねーよ?」
「なぜ?」
「俺たちは戦いに行くんだぜ?確かにあの子らみたいのを助けるために、エルフの谷に向かってはいる。だが、そこまでの道のり……安全じゃないんだぞ?」
「そうね。でも、そのままほっておいたら死んでしまうわ。
死んでしまったら……二度と返ってこないのよ?
まだ、助けられない。
まだ、体制が整わない。
まだ、まだなんて言ってたら、死んでいってしまう者が増えるだけよ。
たしかに、今のアタシでは力が足りないかもしれないわ。
でもね?
目の前で傷つく人を助けられないで世界なんて救えないわ。」
「ですが!」

とアンドリューが口を挟む。

「ですが、サクラ様。大事の前に小さな犠牲はしかたありません。それが、使命というものではありませんか?」
「ふふ、あはは、あははは!
小さな犠牲が当たり前だというの?大事って何が?
誰を助けることが大事だというの?王族、人?が大事でこの子達の命がだと?
はっ、ならアタシは小さな犠牲を助けて大事を捨てるわ!
……ジークン、貴方も同じ考え?」

なら、ごめんなさい。
アタシは降りるわ。
アタシは、ジークンを助けたいと思っているわ。
でもね?
そのために、あの子達……いいえ、これからも会い続ける傷ついた子をほっておくなんて出来ないわ。

「確かにアタシの力が足りないから、エルフの王に頼むわ。
でもね?最終的に頼むからといって、目の前の子を『後で助けるからね』って言うことはしたくない。無理でもなんでも、アタシは助けるわ。
そうね、他力本願しようとするからだめなのね。
アタシは、もう、いいわ。持ってるチートな魔法を使いまくることにするわ♡」

そうよ。チートなんですもの。
アタシが好き勝手に動いて困るなら困ればいいわ。
アタシをこの世界に連れてきたのは、この世界にいるものと……チートからすれば、大きな存在だと思うの。
だから、アタシをこの世界に連れてきて後悔するならすればいいわ。
アタシは、アタシの方法であの子達を幸せにしようじゃないの!

「エルフには頼らねーのか?」

ユーリがニヤリと笑う。

「いいえ?協力者は多いほうが良いもの。」
「サク様……いいえ、サク。俺は……俺も助けたい。彼らは決して虐げられるために生まれたのじゃないのですから!
……ねえ。アン。
俺が城で受けていた様々なこと知っているでしょ?
俺、辛かったよ。……だから、いつも願っていた。
だれか、助けて!って。

俺は、自分のためにも……たとえ、自己満足でもあの子達みたいな子を見殺しなんてしたくない。」
「…ジー……ク……。」
「アン、俺は……ほんの少しだけど、世界を回った。
思ったのは……悲しい、酷い……って思っていた卑下されながらしていた城での生活は、まだマシなんだって……こと。
ずっと……助けたかった。

だって、俺は森の人に助けられだことがあるから……。

世界を救えって言われて、それが俺の存在理由だってわかってる……。
でも、聖女様であるサクが俺に存在意義をくれたんだ。
そして、毎回背中を押してくれる。
俺も…、ううん、俺は『勇者』として……『弱いものたち』を守ることが、だと思うんだ。
強いものの命じゃなくてね。

だから、サク。
俺は、サクの考えに賛成だ。」

ゆっくり、ジークンは自分の中のものを吐き出すように言った。
きっと、いろんな気持ちや命令や……今までのことが、心を駆け巡って……それでも『助けたい』気持ちが勝ったのだと……。

「俺は聖女サクの剣です。だから、ください。」
「ジークン……。」
「そうだな!俺らは聖女サクラ様の盾なんだ。
そもそも、俺はあんたを気に入って仲間になったんだしな!」
「はい、僕は姉様の為ならなんでも!」
「年寄りの力でよければ、私の力も聖女サクラ様に。」
「みんな……。」
「……私は……王族として恥ずかしい……。本来なら、王族として私が……。ジークが酷い目にあっていたのも助けられなかったというのに。
……まだ、一緒に行動を共にさせていただけますか?
聖女サクラ様。
そして勇者ジークフリード様。」

アンドリューは、アタシとジークンの前に来て、跪いた。
本来なら、王族としてありえない行為にルノベッチラさんは目を見開いている。
いつもならワタワタするジークンは、静かにアンドリューを見ていた。

「ジークの言葉を聞いて……私が足手まといであるのも、わかっております。
ですが、改めて私を連れて行ってください。
私は、世界の在り方を学ばなくてはならないと思いました!
ジークがただ心配だったのと、一緒にいたいだけで付いてきた私は、ただのお荷物だったのだと今、初めて気づきました(今かよっ!)
ですが、それでも私はこれからの王族として世界を知るべきだと思います!
王族内でのことしか知らない私は、こんなに無知だと思いませんでした。
けれど、無知ではいけない!
学ぶため、どうか、お連れください。」
「アン。いいえ、アンドリュー王子。俺も貴方には学んでほしいと思う。
けれど、此の先かなりの困難が予想されます。
貴方はこの旅のメンバーとして、聖女サクラ様の盾の一つになることができますか?
王族ではなく、一人の人として。」

アタシが言葉を言う前に、ジークンはアンドリューにそう言ったの。
ジークンは、多分『勇者』に本当の意味で目覚め始めているんじゃないかしら。
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