118 / 178
第四章 ありえないよね?不憫なのはハノエルだけじゃないのかも・・・
ヒャクジュウハチ
しおりを挟むゆっくりと目を開けるとニタニタと笑うアイツがいる。
逃げても……逃げても黒い魔手が追いかけてくる。
あの時、こんなことはなかった。
なかったはずだから、『夢』なんだって、言い聞かせる。
言い聞かせても……。
それでも……それなのにアレに捕まるのは怖い。物凄く怖いのだ。
たとえ夢だとしても捕まるのは嫌だ。
だから、逃げる。
でも、早く逃げても、横に逃げてもソレはどこまでも追ってきて。
そして足を掴まれて、転んでしまう。
そうすると下からも沢山の魔手が伸びてきて、暗闇に引き摺り込まれる。
するとアイツが言う。
『絶対に逃がさない。』
嫌だ!
嫌だ!いやだいやだいやだいやだ!
怖い……。
誰か、兄様!
助けて!
『大丈夫。』
『ハル、大丈夫。』
兄様の優しい声が聞こえる。
『大丈夫だよ。私がいるから。』
胸に優しい光が灯る。
そこから光が広がり、俺を取り囲む魔手が光に慄くように引いていく。
それはゆっくりと確実に自分を取り巻くように、ソレから守ってくれる。
たしかに感じる暖かな温もりと魔力。
その魔力は兄の魔力で。
俺を守るように取り巻いている。
まるで真綿に包まれるように。
光は俺を闇が引っ張り上げてくれるようだった。
そして、目を覚ます。
今度こそ本当に。
「はる、目が覚めた?食事はできそうかな?」
「にぃ、さま?」
「そうだよ?」
まだ慣れない。金色の兄が覗き込むように微笑んだ。
「怖い夢を見たんだね。大丈夫。兄様がそんなものは、追い払ってあげる。」
「にいさま。」
「ああ、よかった。だいぶ声もしっかりしてきたね。」
兄の顔を見ると安心する。
大丈夫って思える。
我ながら兄大好きで困る。
こんなんで……大人になれるのかしら?
「話も必要だけど、今少し前に食事ができた連絡があったから、運んでもらおうね?」
小さな魔法のベルをならす。
あることは知っていたけど、鳴らすのは初めて見る。
だって、いつもセバスが忍者みたいにいたから。
呼ばなくてもいるんだもん。
セバス……。
鳴らして少しすると、ルイくんが食事をワゴンに載せてやってきた。
「失礼いたし……ハル様!ハノエル様……よかったです。
……よかった……。」
ルイくんが泣きそうなほど顔をくしゃくしゃにする。
目尻には涙も浮かんでいる。
でも、さすがプロ。
涙を留めたまま、泣きそうなのにテキパキと食事の支度を整えていく。
だいぶましにはなったけれど、やはり一人で座ることが難しかった。
ちょっとした動きで右に倒れそうになったりするため、兄が結局椅子になった。
「では、僕が食べさせます。」
「頼む。」
「はい。では、ハル様。あーん。」
ちょっと恥ずかしい。
でも、なんかセバスみたい。
だから、素直に口をあける。
大きく開けたつもりだったけど、あまり大きく開けられなかったみたい。
でも、それをちゃんと考慮されていた。
小さなティースプーンにすり切り程度に入った量だった。
でも、飲み込むのも筋力がいるんだね~。
飲み込むのもちょっと時間がかかってしまう。
トロミのあるスープはとても美味しかったんだけど、お皿半分でもう食べれなかった。
時間的には一時間近くかけた気がする。でも、最後まで温かかったのは魔法かな?すごいね!
うん、なんか。
だいぶ、元の俺に戻ってきたかな?
やっぱり、兄の愛の力はすごい!
だって……。
こんなに心が安定する。
まあ、ちょこちょこ不安の種は芽吹いてしまうだろうけど。
「もう、よろしいのですか?」
「うん。もういっぱい。ごめんなさい。」
「謝る必要はないよ。少しずつ食べて行こうね?」
「その通りです。ハル様。では、お下げします。」
そう言ってまたワゴンを押して出て行ってしまった。
アズリアに何か言われてるのかな?
姉様もルイくんも早々に出て行ってしまう。
でも、兄様と二人だけになるとふっと体の力が抜ける。
やはり、兄以外に会う時は多少体が緊張してしまうのかもしれない。
「さて、ハル。気分はどう?話はできそうかい?」
「うん。さっきよりも頭がスッキリしてる気がする。」
食事を取ることで、脳が活発化したのかもしれない。
「私の膝で横になる?それともソファで抱っこする?」
どちらにしろ兄の上ということか。
でも、横になると寝てしまいそう。
眠いって感覚はないけど、いくらでも眠れる気もするから。
悪夢のせいで、短い眠りなのかもしれないけど。
「だっこ。」
「ふふ、じゃあソファに移動しようか?」
「うん。」
ソファにゆったりと座る兄の上にゆったりと座らされる。
うーん。
快適な兄椅子だ。
何より兄からの魔力の波が心地いい。
「まず、何から話したらいいか………そうだね?まずは、ここからか。」
兄は目を閉じて……ゆっくりと目を開けた。
そして、決意を込めるように言った。
「ハル、ハノエルは、春樹なのか?」
と。
3
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる