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第12話:灼熱の機動城
#24
しおりを挟む叫ぶノヴァルナを見上げて睨むオーガー。すると2体のアンドロイドが格納庫の中に飛び降りた。ノアを救助するためである。だがその2体のアンドロイドはノアに歩み寄ろうとした瞬間、オーガーの持つ黒い金属棍で殴り付けられ、怪力によって頭部をグシャグシャにされて倒れる。あくまでも救助対象のノアのために飛び降りたのであって、オーガーと戦うためではないのであるから致し方ない。
抱え起こして、防毒マスクを被せようとするアンドロイド達に、ノアを助けたい一心のノヴァルナは、傷の痛みを忘れるほどに抗って叫ぶ。
「てめぇら、離しやがれ!」
とその時、『センティピダス』の前方部が乗っている崖が、一気に土砂崩れを起こし始めた。残ったアンドロイド達は素早くノヴァルナのパイロットスーツに、ワイヤー懸吊用のハーネスを取り付ける。
「離せつってんだろ!! ノアが…」
なおも抵抗するノヴァルナだが、すでに体には力が入らなくなっており、このような状態では4体のアンドロイドには太刀打ち出来ない。『センティピダス』の前方部分は崩れる土砂の上に乗ったままで、斜めに火口へ滑り落ちていった。格納庫の中ではようやく切迫した事態に気付いオーガーが、気を失ったままのノアのパイロットスーツの襟を掴んで、引きずりながらシャトルのタラップを駆け昇る。
するとオーガーはキャビンの奥、コクピットの前で、顔面を血だらけにして倒れ、気を失っているレブゼブ=ハディールを発見して、眉をひそめた。
シャトル格納庫の上にいたノヴァルナとアンドロイド達は、火口に滑り落ちる途中で、体に付けた『デラルガート』からのワイヤーによって、停止して宙に浮かんだ。そして『センティピダス』前方部の方は、断崖の土砂の上に乗った状態で溶岩の中へはまり込む。
『センティピダス』前方部を乗せた土砂はみるみるうちに、溶岩に浸食され始めた。超高熱の溶けた岩が、チロチロと赤い炎を纏いながら、ちぎれたムカデ城の前方部分に迫る。ワイヤーが巻き上げられ始めたノヴァルナは、その光景に再び叫んだ。
「ノアーーーーッッ!!!!」
やがて天井扉の開いた格納庫の中で、強いオレンジ色の光が輝いた。重力子フィールドの輝きだ。溶岩に飲み込まれつつある、『センティピダス』の格納庫からシャトルが発進して、急上昇を開始する。
ノヴァルナの目はシャトルが目前を通過する瞬間、そのコクピットの操縦士席にいるオーク=オーガーと、副操縦士席に座らされている気を失ったノアの姿を捉えた。咄嗟に通信器を取り出し、『デラルガート』のカールセンに呼び掛ける。
「カールセン! シャトルにノアが捕まっている! 操縦してるのはオーガーだ!!」
「なにっ!?」
「すぐにあとを追ってくれ!!」
「無茶を言うな! おまえさんを宙吊りにしたままでは無理だ。引き上げが完了するまで待て」
「俺の事なんざ、ほっとけ!! 追いながら引き上げればいい!!」
「駄目だ!!!!」
反論は許さないという強固な意思を感じるカールセンの言葉に、ノヴァルナは「クソッ!!」と罵り声をあげ、右の拳を左手に打ち付けた。
意識を取り戻したレブゼブは、シャトルが知らぬ間に飛行している事に驚き、コクピットの操縦士席にオーク=オーガーがいて、しかもこの巨漢のピーグル星人が操縦桿を握っている事に、さらに驚いていた。レブゼブはノヴァルナに殴られ、腫れ上がった顔で尋ねる。
「オーガー。なぜ貴公がここにいる?」
「ムカデ城から脱出したのさ」
オーガーは不機嫌の極みといった様子で短く答えた。自分の根城を破壊されたのだから、そのような反応も無理はない。さらにオーガーは言葉を続ける。
「あんたも乗ってたとはな…好都合だ」
それを聞いてレブゼブは警戒心をあらわにして身構えた。オーガー一味を見捨て、脱出のために指令室にいたオーガーの手下達を撃ち殺したのは自分だからだ。しかしオーガーは続けて意外な事を口にする。
「またあんたから、バルシャー様にどうにか取りなしてもらえねえか?」
オーガーの言っている事に一瞬、怪訝そうな顔をしたレブゼブだがすぐに気付いた。オーガーは自分が裏切り、手下達を撃ち殺した事を知らないのだ。
“こいつは使える…”
アッシナ家に対し、どのような申し開きをして保身を図るか、合流するまでの間に知恵を絞らねばと考えていたレブゼブにとっては、渡りに船である。この失態の責任を被せる相手が、向こうから現れたのだ。胸の内でほくそ笑みながら、レブゼブは真顔でオーガーに告げた。
「よ…よかろう。ではまず、ズリーザラ球状星団に集結中の、アッシナ家宇宙艦隊へ向かおう。バルシャー様の乗艦に参じて、直接御目通りを願うのだ」
シャトルのセンサー反応を追い、工作艦『デラルガート』は青白い惑星アデロンの、成層圏を離脱して来た。艦内にはレジスタンスのユノーとマルロが、BSHOで回収した女性達と、負傷したノヴァルナが収容されている。
「ノバくん! まだ治療中よ!!」
ルキナの声が扉の向こうで響き、その扉が開いて、上半身が裸のノヴァルナが、体を引きずるように歩いて艦橋に入って来る。するとあとを追ってルキナと、医療キットを手にしたアンドロイドが二体飛び込んで来て、倒れそうになるノヴァルナを支えた。
「駄目だって、ノバくん!」
だがノヴァルナはそれには応えず、艦長席で前面スクリーンを見据えたままのカールセンに、声を掛ける。
「カールセン」
前面スクリーンには、衛星軌道に幾つか浮かぶ恒星間航行DFブースターの一つに、ノアを乗せたシャトルが、ドッキングしようとしているところを映し出していた。恒星間航行DFブースターとは、シャトルなどの小型船が単独で恒星間航行するためのものである。
「奴等は恒星間ブースターを使って、この星系から脱出するつもりだ」
カールセンが前を向いたまま告げる。
「間に合うか?」とノヴァルナ。
「無理だ。攻撃の射程圏内には入るだろうが…」
無論、ノアの安全を考えれば、射程圏内に捉えたところで攻撃など出来るはずもない。しかしカールセンは冷静だった。砲術担当のアンドロイドに命じる。
「発信弾用意」
発信弾とは超空間通信機能を持つ信号発信機を弾頭にした、誘導弾の一種であった。すると艦は程なくシャトルを射程圏内へ捉える。そのシャトルの方も、恒星間ブースターとのドッキングを完了したらしく、二基の重力子ノズルが黄色い光を放ち始めた。
その直後、ブースター付きシャトルの発進と、カールセンの射撃命令がほぼ同時に行われる。
艦首から発射された発信弾は、シャトルが急加速を始める直前に、至近距離に到達して信号発信器を放出、ブースターの後部に吸着した。そのまま驚異的な速度で飛び去るシャトル。
アンドロイドが信号発信器の吸着に成功した事を報告する声を聞き、シャトルの飛び去った宇宙空間を睨み付けたノヴァルナは、とうに限界を超えていた体力の消耗で意識を失う寸前、歯を喰いしばってノアに呼び掛け、自らに誓った。
“ノア、必ず助けるからな………”
【第13話につづく】
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