銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第12話:灼熱の機動城

#14

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 機動城の接近を告げる兵士の声に、降りしきる雪の中で、“子蜘蛛”と呼ばれる多脚戦車モドキと戦っていた、周囲の兵士も一斉に振り向いた。リーダーの一人が大声で言い放つ。

「エネルギーシールドを消失したままで、突っ込んで来るだと!? ATGで集中攻撃を掛けろ!ヤツの頭部を狙え!!」

 その命令で、近くにいた三十名ほどのレジスタンス兵が、壕のようになった地表の溝から上体を乗り出してATG(対戦車ロケット砲)を構える。三名一組であるため、ATGは10基だ。

 タイミングはバラバラだが、十の白煙が噴き上がり、接近して来る『センティピダス』の頭部目がけて、ロケット弾が発射される。多脚戦車モドキよりもオーク=オーガーを倒せば、組織は機能を麻痺させるであろうから、このリーダーの判断は正しい。


 ただその目的を果たすためには、火力が圧倒的に足りなかった。

 十個の爆炎が立て続けに『センティピダス』の頭部を焼き払うが、その煙が晴れぬうちに、外殻に十個の焼け焦げた凹みを作っただけの、機械仕掛けの巨大ムカデの頭部が姿を現す。レブゼブ=ハディールが告げたように、エネルギーシールドがなくとも『センティピダス』の外殻は、多少の対戦車ロケットでは破壊出来るような薄さではなかったのだ。

「馬鹿な!」

 射撃を指示したリーダーの男が、目を見開いてたじろいだ次の瞬間、『センティピダス』の頭部の下側から、紅蓮の炎が猛烈な勢いで百メートル以上も噴き出した。その光景に身をすくめてしまったレジスタンスのリーダーは、頭からまともに炎に呑まれる。

「ギャアアアアアア!!!!」

 生きたまま生身の体を焼かれる焦熱地獄に、リーダーの男は獣のような叫び声を上げて地面を転げ回った。それに炎に巻かれたのはその男だけではない。近くにいたレジスタンス兵も、十人程が焼殺される。しかもその炎は、溝の底に置かれていた装填前のロケット弾まで炙って、誘爆を引き起こした。焼け死んだレジスタンス兵達の四肢が、爆風でちぎれ飛ぶ。

「に、逃げろ!」

 『センティピダス』が引き起こした凄惨な展開に、恐怖に駆られたレジスタンス兵の一部が、逃走を始める。レジスタンス兵達はダンティス軍の残党が中心だが、オーク=オーガーの支配を拒絶する惑星アデロンの市民も相当数参加しており、中には戦場の死に対する覚悟の浅い者もいた。そういった者達が怯懦に囚われたのだった。

 次々に逃げ出し始めるレジスタンス兵達に、『センティピダス』が再び火炎放射を浴びせた。壕を飛び出したところに背中から火炎を受け、数名の兵士が炎に纏わりつかれて隣の窪みに落下する。
 巨大なムカデ型ロボットはまさにレブゼブの想像通り、口から炎を噴くムカデ怪獣よろしく、レジスタンス兵達を追い立てていた。それでも踏みとどまって対戦車ロケットを撃つ者がいる。だがやはり、『センティピダス』の外殻は撃ち抜けない。指令室で仁王立ちとなっているレブゼブは、オーガーの手下達に命令を下す。

「敵は浮足立っているぞ。残存する“子蜘蛛”を、この機動城の両翼で横列させろ。レジスタンス共を、この先の火口の縁まで追い込め!」

 レジスタンスとの戦闘で、“子蜘蛛”―――四人乗り多脚戦車モドキは21輌あったものが、10輌にまで減っていた。だがそれらは機会を逃さず反撃に転じて、ガトリング砲を乱射しながら『センティピダス』と動きを合わせて前進を開始する。

「いけぇ! レジスタンス共をぶっ殺せ!」

 一輌の多脚戦車モドキの操縦席で、オーガー配下のならず者が扇動の叫び声を上げた。



 同じ頃、機動城の薄暗いシャトル格納庫の壁に、銃撃の火花が繰り返し飛び散る。格納庫は約20メートル四方の広さで、ノヴァルナとレブゼブ=ハディールの親衛隊員は、短い翼のついた楔形の連絡用シャトルを挟んで銃撃戦を続けていた。

「チッ! マズいな…」

 ハンドブラスターを右手に、シャトル固定台のアームの陰から敵の様子を探るノヴァルナは、舌打ちを交えて小声でひとりごちた。その言葉が漏れた理由は言うまでもなく、こんなところで時間を喰っている場合ではないという事だ。

 目は格納庫の薄暗さに慣れ、敵の位置もほぼ把握出来ている。だが二人の間にあるシャトルとその固定台が、障害物となって射撃を妨げていた。それは無論、ノヴァルナ自身を守る盾となっているのは事実だが、必要以上の時間を消費しているのも事実である。言い方は悪いが、囚われていた女性達さえいなければ、ノヴァルナとノアはとうに脱出し、今頃は『デラルガート』からの艦砲射撃で、『センティピダス』はオーク=オーガーごと破壊されていたはずだ。そしてそういう言い方になってしまうのは、時間が経つほどノヴァルナ達とレジスタンスの戦況は、悪化の一途を辿る事になるからであった。

“間合いを詰めて、白兵戦に持ち込むしかねぇか…”

 ノヴァルナはそう考えて、ベルトに差したアーミーナイフのホルダーに左手を回した。だが敵は特殊部隊上がりと思われる、アッシナ家の親衛隊員である。一般兵相手なら白兵戦にも自信はあるノヴァルナだが、さすがにこれは分が悪い。例えばこれまで訓練で一度も勝てた事のない、『ホロウシュ』のラン・マリュウ=フォレスタやナルマルザ=ササーラと、本気で殺し合うようなものであった。

“とは言え、ビビッてる場合じゃねぇ!”

 カールセンとルキナ夫妻にレジスタンス兵達、囚われていた女性達…そして、ノアのためにも躊躇っている暇はない!―――自らを叱咤し、ノヴァルナはハンドブラスターを撃ちつつ、敵兵に向かって駆け出そうとした。
 だがそう思ってノヴァルナが身を起こした次の瞬間、格納庫の床に埋め込まれていた照明が、突如として一斉に点灯する。強力な白い光が輝き、それまでの薄暗がりに慣れていたノヴァルナの視界を埋め尽くした。敵兵がノヴァルナの目の、暗がりに対する慣れ具合を見計らって点灯させたのだ。

「!!!!」

 反射的に目を背けたノヴァルナは危険を感じ、咄嗟に床に倒れて転がった。その判断は正解であり、敵の狙撃したビームがノヴァルナの立っていた空間を貫く。敵兵はゴーグルを遮光モードにしていたに違いない。
 すると白系の迷彩服を着た親衛隊員は、シャトルの翼の下をノヴァルナに向け、腰を屈めて駆けて来た。相手も白兵戦を挑むつもりらしい。やはり敵は手練れで、先手を取られた上に視力が回復していないノヴァルナには、圧倒的に不利な展開となった。

 どうにか起き上がり、視界がぼやけた状態で迫って来る敵兵に銃を向けたノヴァルナだが、一気に間合いを詰めて来た親衛隊員は、両手で振り抜いたライフルの銃床で、ノヴァルナのハンドブラスターを弾き飛ばす。ノヴァルナの手を離れたブラスターは、格納庫の壁にぶつかり、暴発した。そのビームはシャトルの翼端に命中して火花を上げ、焼け焦げを作り出す。

 さらにその間に親衛隊員は容赦なく、ノヴァルナの腹部に膝蹴りを喰らわせた。

「ぐふゥッ!!」

 激痛と嘔吐の衝動がノヴァルナの胃から込み上げ、仰向けに倒れるノヴァルナ。親衛隊員はすかさずライフルの銃床を振り上げ、ノヴァルナ頭を殴打しようとする。だが今度は倒れたノヴァルナが相手の腹を蹴り上げた。




▶#15につづく
 
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