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第12話:灼熱の機動城
#08
しおりを挟むオーク=オーガーの軍の中核を成す重多脚戦車の一輌を撃破した事で、戦況の天秤は大きくレジスタンス側に傾いた。戦力バランスもあるが、それ以上に、これまでの抵抗活動で苦しめられていた重多脚戦車が屠られるところを、自分達の実際の目で見た事で、兵士達の士気が一気に跳ね上がったのである。
一方の重多脚戦車の乗員達は、仲間の一輌が一撃で仕留められた事に、パニックを起こした。乗員は周辺星系から集められた傭兵で、ある程度実戦経験を持つ者もいる。だがそれ故に僚機の喪失が衝撃となって広がったのだった。エネルギーシールドが機能しなくなった以上、BSIの超電磁ライフルは重大な脅威である。そのため残った三輌の重多脚戦車は、てんでバラバラに行動を開始し、足元のレジスタンスを放置して、噴煙の向こうのBSIにブラストキャノンを連射する。
ただし実情から言えば、『センクウNX』を操縦するユノーが、同じ重多脚戦車を集中して放った一弾が、半ば運良く命中しただけだ。その証拠に別の一輌に照準を変えると、また命中しなくなる。それにノアの所有機である『サイウンCN』に乗った、マルロの方は相変わらず全く当たらない。
しかしオーガーの軍の連携体制が、この一撃で崩壊したのも確かであった。混乱した多脚戦車モドキは操縦を慌てるあまり、溶岩台地の起伏の激しい地形に歩行脚を引っ掛け、転倒するものが続出し始める。さらに隊列が乱れた状態で、闇雲にガトリング砲を乱射するものも現れ、レジスタンス兵だけでなく、味方の多脚戦車モドキの脚まで撃ち砕いた。
その味方の脚を破壊した多脚戦車モドキも、横合いからレジスタンスのロケット弾を受け、殴り飛ばされたように転倒する。
「攻撃の手を緩めるな! 一気に押し込め! あの大型戦車に攻撃を集中しろ!!」
レジスタンスのリーダーの一人が指を差して指示したのは、一輌の重多脚戦車だ。それは先に脚の関節部にロケット弾を喰らい、一本が動かなくなっている。十人程の兵士が一斉にロケットランチャーを肩に担いで、天然の塹壕から身を乗り出した。そして白煙と共に撃ち出された十発のロケット弾は、三発が外れたものの、まだ機能していた残りの五本の脚の付け根にあとの全てが命中する。
その結果、重多脚戦車は脚をもがれた蟹のようになって、胴体部分が地面に落下。下にいた多脚戦車モドキを圧し潰して爆発した。
混戦がレジスタンスに有利に傾いていく様子は、やや後方にいる『センティピダス』でも把握していた。そしてもちろん、オーク=オーガーは怒り狂っている。
「何をしてやがる! 射撃システムの復旧はどうした!? まだなのか!!」
噛みつかんばかりの形相で詰め寄るオーガーに、システムの修復を命じられた配下の男は、顔を強張らせて弁解した。
「そっ! それが…これはただの故障じゃねえです。どうやらシステム全体がウイルスに感染したようで―――」
しかしオーガーはその男にみなまで言わせず、怒鳴り声を上げる。
「ウイルスだぁ!!?? そんなもん、対抗ソフトぐらい入ってるだろうが!!!!」
「だ、駄目です。この城のメインコンピューターは、地質調査基地だった頃の、百年ほども昔のなんで、今のウイルスプログラムには通用しねえです」
「なんだとぉ!!!!」
何とかしろと喚くオーガーを前に置き、アッシナ家参事官のレブゼブ=ハディールは、護衛役の親衛隊員から意見具申を受けた。その親衛隊員は、タペトスの町でノヴァルナを殺害しようとして、ノアに倒された一人の相方だった男だ。特殊部隊に準ずる技能を持った、本物の兵士である。
「ハディール様。このウイルスプログラム…機動城の外部から注入されたものでは、ないように思われます」
雪上迷彩服を着たその男は片手にデータパッドを持っていた。独自にメインコンピューターの状況を、解析していたらしい。オーク=オーガーの部下ではなく、アッシナ家の兵士であるから当然、報告等はレブゼブ=ハディールのところに上げる。
「外部ではないだと?…つまりこの城に侵入者がおり、そ奴がメインコンピューターにウイルスを直接注入したというのか?」
「そうように考えるのが筋かと」
「むう…」
レブゼブは唸り声を漏らして、喚き続けるオーガーを見遣る。
「だいたい、武装貨物船のヤツらはどうしたってんだ!!!! 手筈じゃ上空から援護する事になってんだろが!!!!…ええい、もういい!! 目測でレジスタンス共を砲撃しろ!! 主砲も使え!!」
「で、ですが! レジスタンス共がいる位置には、“子蜘蛛”部隊も一緒に…」
「構わねえから、ぶっ放せ!!!!」
そんなオーガーの姿を見て、レブゼブは頭の中で呟いた。
“こいつもそろそろ、見切り時か…”
レブゼブ=ハディールは親衛隊員を振り返って囁くように尋ねる。
「確かこの機動城には、準恒星間航行能力のある小型シャトルが1機、搭載されていたな?」
「はっ…この頭部より、二区画後方の上部デッキに」
「うむ。では、万が一に備えて、確保しておけ」
レブゼブがそう指示すると親衛隊員は「御意」と応じ、目立たぬように指令室を出て行った。そしてそのレブゼブ自身は、再びオーク=オーガーに向き直って大声で告げる。
「オーガー! 我が配下の報告では、この城に侵入者がいるらしい。メインコンピューターにウイルスプログラムを注入したのも、そいつらの仕業だという話だ!」
それを聞いて振り返ったオーガーは、まるで仁王像のような憤怒の顔になり、黒い金属棍の両端を握って、へし折らんばかりの勢いで力を込めた。
「なんだとぉ!!!! ふざけやがって!! 城に残ってるヤツの中で手空きの者は全員、コンピュータールームに向かえぇ!!!!」
そう叫んでおいて、オーガーも自らコンピュータールームに向かおうとする。
「ハディールさんよ、ここは任せるぜ! おまえとおまえ、ついて来い!!」
「ま、待て。今から行っても、もうコンピュータールームにはおらんだろう。ウイルスプログラムが発動した時点で、この城から脱出を図っているはずだ」
呆れたように告げるレブゼブ。
「だったら、城の中をしらみつぶしにしてでも、探し出すまでだ!」
「いや。だから、すでに城から脱出していると―――」
だがオーク=オーガーは、もはや聞く耳を持たない。一度興奮が頂点に達すると、一種のヒステリー状態になる悪癖がもろに出ているのだ。鼻息も荒く黒い金属棍を握りしめ、ついて来るよう命じた二人に言い放つ。
「行くぞ! 絶対見つけ出して、生きたまま体を1センチずつ、切り刻んでやる!!」
まさかオーガーが、自分から侵入者掃討に行くとは思っていなかったレブゼブは、唖然とした表情になった。ここまで目先の事しか見えない男だったとは…という、暗澹たる目である。一方のオーガーは、二人の幹部を引き連れて指令室から出る直前、残る部下達を振り向き、強い口調で命じた。
「いいな! 『センティピダス』でレジスタンス共を砲撃しろ!! 俺の命令が聞けねえヤツは、この六角棍で頭をカチ割るからな!!」
▶#09につづく
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