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第12話:灼熱の機動城
#07
しおりを挟むノヴァルナとノアが、『ネゲントロピーコイル』に関する重要な手掛かりを入手したその頃、オーク=オーガーの軍を引き付ける役目を担った、ユノーが操縦する『センクウNX』とマルロの操縦する『サイウンCN』は、所定の位置まで後退を完了した。そこは数百メートル西にある地表の裂け目から黒い噴煙が上がっており、それが風に流されて視界を悪くしている。
機動城『センティピダス』を中心に半月陣を組んだオーガー軍は、2機のBSHOに対して射撃を行いながら前進して来た。アッシナ家製の重多脚戦車は正式な軍用であるため、多少視界が悪くとも、各種のセンサーが2機のBSHOの位置は捕捉中だ。
4輌の重多脚戦車の間には、21輌の四人乗り多脚戦車モドキが分かれて追随していた。すると2機のBSHOが後退した前方の数ヵ所から、超電磁ライフルの弾丸が飛来し始める。位置的に見て、明らかに2機のBSHOの射撃ではない。
陣の先頭右側を行く重多脚戦車の内部では、車長が敵の発砲点を解析して、戦術状況ホログラムに投影した。結果はやはり、少なくとも六ヵ所から、超電磁ライフルの射撃が行われている。車長はヘルメットの通信機で、『センティピダス』に報告した。
「機動城、こちら前衛部隊。敵の防衛線に到達。距離約千メートルの前方。複数のBSIユニットが塹壕のような地形を利用して、身を隠しつつ射撃しているものと思われる」
その通信を『センティピダス』で聞いたレブゼブ=ハディールは、それ見た事かとばかりに、大きく頷いてオーガーに告げる。
「思った通りだ。2機のBSIユニットは、焦る貴公を防衛線に引き込むための罠だったのだ。闇雲に“大蜘蛛”を突っ込ませていたら、十字砲火を喰らうところだったぞ」
「へへへ。さすがだぜハディールさん」
軍事的な戦術は素人のオーク=オーガーである。ここは素直にレブゼブに礼を言った。
「それで、次はどうする?」とオーガー。
レブゼブは将軍気取りで言い放つ。
「この城の砲と“大蜘蛛”で防衛線に対し、一斉に制圧射撃だ。敵に反撃の暇を与えず、釘付けにしておいて、“大蜘蛛”“子蜘蛛”の順で突撃させる。至近距離からであれば、“大蜘蛛”のブラストキャノンでもBSIを撃破出来るはずだ」
オーガーは「よし、わかった」と応じ、指令室にいる部下達に命じた。
「聞いての通りだ。すぐかかれ!」
オーク=オーガーの命令一下、『センティピダス』は四百メートル近い巨体を横向きにして停止すると、内部に格納していた副砲を一斉に突き出し、砲撃を始める。攻撃目標はレジスタンスの防衛線だ。
太鼓を乱打するような轟音と共に、爆炎が黒い溶岩台地に列をなして巻き上がった。同時に4輌の重多脚戦車と、21輌の多脚戦車モドキも射撃を行いつつ、おもむろに前進を再開する。レジスタンスが身動き出来なくなるほどに、制圧射撃を加えて距離を詰め、防衛線を寸断するのが狙いだった。
息をもつかせぬ着弾による爆煙のカーテンに案の定、レジスタンスのBSIユニットからの射撃が止まる。頃合いと見た重多脚戦車は、探知と同時に追尾マーカーを付けていた、敵BSIのライフル発砲点に向け、車体上部のVLSから小型汎用ミサイルを立て続けに発射した。巻き上がる大量の砂塵で視認は出来ないが、センサーは反応の消滅を示し、重多脚戦車の車長はニヤリと笑みをこぼす。
ところがレジスタンスに防衛線というものなどは、存在してはいなかったのである。
弓なりになったオーガーの多脚戦車部隊が射撃を継続しながら、五百メートルほど進んだ時にそれは起こった。重多脚戦車の、機動城『センティピダス』との間に無線接続されている、戦術情報共有システムが不意にダウンし、同時に車体を覆っていたエネルギーシールドまでが消失してしまったのだ。
しかもそれだけではない。射撃照準用や対人用といった各センサーまでが、明らかに異常な表示となり、それまでレジスタンスのBSIユニット反応の消失にニヤついていた、重多脚戦車の車長の顔を唖然とさせる。
そしてその直後、レジスタンス達の攻撃が始まった。多脚戦車部隊の前方―――防衛線からではなく背後から。つまり、多脚戦車部隊と機動城『センティピダス』の間からだ。
起伏が激しく、深くえぐれたような窪地の中に潜んでいたレジスタンス兵が、身を乗り出して肩に担いだ対戦車ロケットを発射し、重機関銃を思わせる大口径ブラスターライフルを撃つ。
対戦車ロケットは一輌の重多脚戦車の、脚の一本の付け根に命中して稼働停止に陥らせると、大口径ブラスターライフルは、多脚戦車モドキを下からビームで串刺しにし、爆発によって四人の乗員を空中に跳ね上げた。
オーガー、いや実質的に戦術を立てたレブゼブ=ハディールが、レジスタンスの防衛線だと誤解したのは、単に地面に置かれていた六丁の超電磁ライフルであった。
これらは補給機能も有する工作艦『デラルガート』に搭載されていた、ダンティス軍の量産型BSI『ショウキ』のものを、『センクウNX』と『サイウンCN』と共にに降ろしたのである。
それを敵が指定距離に到達したと同時に、自動的に発砲するように細工をして、噴煙に隠れる位置へ横一列に並べておき、ユノーとマルロにそこまで誘導させたのだ。
二人の動きはBSHOの操縦に慣れていない事もあって、誰が見ても罠があるようにしか見えないあからさまなものだったが、超電磁ライフルを置いただけの防衛線そのものが、罠のための罠であるから、むしろ敵に罠を気付かせるのには好都合だった。
その一方で攻撃の本隊となるレジスタンス二個中隊は、見せ掛けの防衛線より前で待機、皺だらけに見えるサーナヴ溶岩台地の激しい起伏の間に身を潜め、多脚戦車部隊をやり過ごしたのである。
これに対して、重多脚戦車はBSIユニットの待ち伏せに警戒し、作業機械を改造した多脚戦車モドキは、まともな対人センサーもないため、足元に潜むレジスタンスに気付く事なく通り過ぎた。
そして、地面に置かれた超電磁ライフルの射撃を、BSIユニットを含む防衛線と勘違いし、全力射撃を始めた直後、『センティピダス』に潜入したノヴァルナとノアが、元の世界への帰還に必要な『航過認証コード』のコピーを終え、汎用コンピューターに保存していたウイルスプログラムを、メインコンピューターに流し込んだのだ。
このウイルスプログラムが『センティピダス』のエネルギーシールドと、副砲の射撃照準センサーを停止させ、さらに戦術情報共有システムに侵入すると、重多脚戦車のシステムにまで感染したのである。
「敵だ! 敵だ! 後ろにいるぞ!!」
「反転しろ! 撃ちまくれ!」
突然の背撃に、多脚戦車モドキ―――武装多脚式歩行機に乗るオーガーの配下達が狼狽し、叫び声を上げ、統制も取れないまま個々が機体を反転させようとする。そこに今度は横合いからも対戦車ロケットや、大口径ブラスターライフルが発射された。少人数に分かれて潜むレジスタンスに部隊の、真っ只中に踏み込んでしまっていたのだ。多脚戦車モドキがまた一輌、炎を上げて崩れ落ちる。
オーク=オーガーの軍は宇宙マフィアのならず者と、周辺の星系から招いた傭兵の寄せ集めであり、この奇襲攻撃に対して大混乱に陥った。
脚を爆発でへし折られ、横転する多脚戦車モドキから投げ出される、四人のオーガーの手下。一人は黒い溶岩台地のゴツゴツとした岩で頭蓋骨を砕かれ、一人は頸椎を破壊されて事切れる。あとの二人は軽傷で済んだが、どうにか立ち上がったところを、噴煙に紛れて背後からレジスタンス兵に狙撃され、すぐに仲間のあとを追った。
別の一輌の多脚戦車モドキは乗員がパニックを起こし、命令もないのに煙幕弾投射器を発射、辺りを煙幕でさらに混乱させた挙句、視界を遮られて焦った仲間の多脚戦車モドキにガトリング砲を喰らい、乗員ごと爆散してしまった。
無論、レジスタンス側も被害が出る。
逃げそこなった兵士が多脚戦車モドキの脚に踏み潰され、手榴弾を投げようとした兵士は、その手首を打ち抜かれて、落とした自分の手榴弾で爆死する。
胴体下部に三基のガトリング砲を備える重多脚戦車は、やはり特に脅威で、弾幕を張られると歩兵では近寄る事も出来ない。煙の合間から身を晒した兵士が、腹部をボディアーマーごと引きちぎられる。仇とばかりに放たれたロケット弾だが、正面装甲に命中しても、爆煙を伴って黒い煤を放射線状に落書きしただけで終わる。
「関節だ。脚の関節を狙え!」
レジスタンスの悲痛な声が、塹壕代わりの岩の狭間に響く。エネルギーシールドを消失したとはいえ、その機体装甲は半端ではなく、“大蜘蛛”というより分厚い甲羅を纏った“大蟹”で、対戦車ロケットでも歯が立たない。
だがその時、ユノーが操縦する『センクウNX』の放った超電磁ライフル弾が、一輌の重多脚戦車の機体をぶち抜いた。
ロケット弾には耐えうる装甲を持つ重多脚戦車も、エネルギーシールドが無ければ、BSIの超電磁ライフルには敵わない。ライフル弾はその重多脚戦車の、本体やや左を貫通。大量の金属片と部品をバラ撒いて、重多脚戦車は大地に崩れ落ちる。
穴が開いただけで爆発などなく、まだ行動可能のようにも思えたが、その内部では超音速で弾丸が貫通した衝撃で、コクピットにいた四人の乗員は、全員がミンチになっていたのだ。
それはBSHO『センクウNX』が、本来の所有者であるノヴァルナ・ダン=ウォーダ以外の操縦の元で挙げた、初めての戦果であった。
▶#08につづく
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