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第11話:未開惑星の謎
#14
しおりを挟むノヴァルナが指摘した通り、『恒星間ネゲントロピーコイル』の中心は、アッシナ家領域側のダンティス家領域との境目にある、ズリーザラ球状星団の外れであった。惑星アデロンからの距離は直線で約680光年。アデロンでオーク=オーガーを倒すのに使える日は、明日一日がギリギリだ。
状況を確認したカールセンは、ノヴァルナに告げる。
「短期決戦ってヤツだな…明日、決着がつかない時はあとを俺達に任せて、おまえさんとノアはズリーザラ球状星団へ向かえ」
「なに?」と眉をひそめるノヴァルナ。
「いや。本当ならオーガー達には構わず、今すぐこのコイルの中心に向かうべきだ」
カールセンがそう言うと、冗談めかしていたルキナも真顔になって続ける。
「そうよ、ノバくんもノアちゃんも、こんなところで命を賭ける必要なんてないわ。ユノー達には私達から言うから、すぐにその場所に行った方がいいわよ」
不意にオーガー一味との対決を取りやめ、『ネゲントロピーコイル』の中心に向かうように説得を始めるエンダー夫妻に、ノヴァルナはノアと顔を見合わせる。そうだ…せっかく帰る手立てが見つかったというのに、明日のオーガー一味との戦いで、命を落としてしまう可能性だってあるのだ。
「………」
「………」
互いに無言で視線を交わすノヴァルナとノア。するとノヴァルナはおもむろにエンダー夫妻に振り返り、不敵な笑みで告げる。
「やなこった!」
ノヴァルナがそう言い放つと、その向こうでノアが仕方なさそうに、苦みのある笑みを浮かべてエンダー夫妻に、微かに頭を下げた。
「おい、ノバック」
「ノバくん。ノアちゃん…」
名前を呼んで、なおも翻意を促そうとするカールセンとルキナだが、ノヴァルナの言葉がそれを遮る。
「ルキナねーさん、言ったよな。“次は困ってる誰かを、俺達が助ける番”だって―――」
それは以前、ノヴァルナとノアを助けたルキナが、負い目を感じたノヴァルナに告げた言葉であった。
「カールセンも言ったよな。“復讐じゃなく大義のために戦え”って」
「あ、ああ。そうは言ったが…」
「なら、今がその時だ」
言い切ったノヴァルナは傲然と胸を反らし、言葉を続けた。
「死のうは一定…今そうするべきと思った事をやる。それが俺の生き方だ。そして今、俺がするべきと思っているのが、オーガー一味を潰す事さ!」
ノヴァルナの口調が、そして何よりその眼差しが、決意の固さを物語っており、ノアも静かに大きく頷くのを見たカールセンとルキナは、肩をすくめてため息をつくしかなかった。
「オッケー。おまえさん達の思うようにやればいいさ。元々、おまえさんが考えた作戦なんだからな。ただ―――」
飄々とした表情だったカールセンの顔が締まり、真面目な口調で続ける。
「これだけは約束してくれ。最初に言ったように、おまえさんとノアが戦うのは明日一日。決着がどうであれ、明後日には必ずコイルの中心に向かうんだ。おまえさんとノアには、もっと他にやるべき事があるだろうからな」
それは正論であった。ノヴァルナはナグヤ=ウォーダ家の次期当主であり、ノアはサイドゥ家の姫であって、一ヵ月以上も自分達の領地を離れておきながら、本来なら縁もゆかりもないムツルー宙域の問題に、首を突っ込んでいる場合ではないのだ。
「わかった…」
カールセンの気持ちはノヴァルナも充分認めるところである。今の自分とノアの国が自分達の行方不明がもとで、どのような状況に陥っているか気にならないはずはない。
エンダー夫妻との話を終えたノヴァルナとノアは、艦の運用をアンドロイド達に任せて、休養を取るために、艦橋を出てそれぞれに宛がわれた部屋へ向かおうとした。するとノアは、ノヴァルナが自分の部屋に入ろうとするところを呼び止める。
「ノヴァルナ…」
「ん?」振り返るノヴァルナ。
「明日の事、本気なの? 危険過ぎるんじゃない?」
「危険は承知の上だぜ」
心配顔のノアに、ノヴァルナは不敵な笑みを返すが、すぐに真面目な口調で付け加えた。
「だが、コイツは調べとかなきゃなんねぇ事だ。あの『ネゲントロピーコイル』を作った連中が誰で、何のために建造したのかをな。七年間で三ヵ月だけ組み上がるようなデカブツ。そんなもん、どう考えても実験施設じゃないだろう。それにそれだけのものを建造する財力…気になるってもんさ」
「だけど…」
「いいや、譲れねぇ。あんなスゲーもんが存在してるのを、銀河皇国のほとんどの人間が知らないってのは異常だ。出来るだけ情報を持ち帰って、調べる必要がある」
そう言うとノヴァルナは、不納得げなノアに「じゃあな」と言葉を残して、自分の部屋へと向かって行く。その後ろ姿を、ノアは唇を噛んだまま無言で見送った………
▶#15につづく
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