銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第11話:未開惑星の謎

#03

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 航過用認識コード―――ただこれはノヴァルナには、全くの意外というものでもなかった。前回オーガー一味の貨物船に潜り込んで、この惑星から脱出した時も、目の前の巨大施設の上空を掠めて飛んで行ったのだ。そうであれば、あの施設とオーク=オーガーの間で何らかの取り決めがあっても、不思議ではない。

「な。ヤツらの船を使って、正解だっただろ?」

 そう言って不敵な笑みを向けるノヴァルナに、ノアは「え、ええ…」と戸惑い気味に笑みを返した。ノヴァルナがマーシャル=ダンティスに対して、オーク=オーガーの貨物船にはまだ使い道があると言ったのは、こういった事も踏まえての話だったのである。確かにもしこれが『デラルガート』で、認識コードの存在も知らずに施設へ接近していたなら、何が起きていたか分からなかった。この辺りもノヴァルナの持つ、用心深さの賜物といったところであろうか。

「それで? どうするの?」とノア。

「航過用って事は、逆に言ゃあ、あまり近くまで来るなって事だろうからな。その先辺りで着陸して、バイクで近付いてみようぜ」

 ノヴァルナの言ったバイクとは、五つある内、一つだけ船体に提げたままのコンテナに積んである、反重力バイクの事であった。あとの四つのコンテナは、さっきの離着陸場のプラットホーム上に置いて来ている。

 ノヴァルナ達が使用している『クランロン』型武装貨物船は、惑星アデロンを脱出する際の高速砲艦との戦闘で、本来搭載していたコンテナを、対艦誘導弾に対するデコイ代わりに、投棄してしまっていた。
 そのため今搭載しているコンテナは待ち伏せて攻撃し、航行不能にした貨物船から移し替えたものである。コンテナなしで降下し、ロボット達におかしな反応でも起こされては困るからだ。
 そしてその貨物船が搭載していたコンテナの中にあったのが、反重力バイクとブラスターライフルだった。おそらく前回の時のように、あの爬虫類系原住民の、近郊にあると思われる別の部落を襲うなり、無辜の動物を狩猟するなりするつもりだったのだろう。ノヴァルナはこのコンテナだけを船から外さずにいたのだ。

 やがてノヴァルナは貨物宇宙船を小高い丘の頂上に着陸させた。そしてコンテナから一台の反重力バイクを降ろすと、ブラスターライフルを肩に掛けて跨り、タンデムシートにノアを乗せて走り出す。謎の巨大建造物までの距離は10キロメートルほど。貨物船を着陸させた丘の上から見ると、白い霞の向こうで青白く、鈍い光を放っている。

「ノア。飛ばすぞ、しっかりつかまってろ!」

 ノヴァルナは陽気な声で一気に加速を掛けた。ナグヤの城を抜け出しては、バイクで走り回っている日常を思い出したかのようだ。

「きゃ!…ちょっと!」

 だが一方、ノアはバイクなどといったものに乗るのは初めてである。急な加速に驚いて、思わずノヴァルナの背中にしがみつく。

「う…」

 背中に感じるノアの胸の感触に、ノヴァルナは肩をビクリと跳ねさせた。その反応に、今度はノアが自分のした事への羞恥心で顔を赤らめる。

「あなた、まさかわざと―――」

「そ、そんなんじゃねーって!!」

 二人とも声を荒げてその場を取り繕うと、ノアは今しがたより遠慮がちに、ノヴァルナの背中へ上体を預けた。そしてふてくされた口調で告げる。

「わ…わかったから、急いでよ!」

「お、おう」

「………」

「………」

 以前ならそれでプィッ!とそっぽを向いたまま、しばらくは口も利かなくなる二人であった。それが今では無言でいると、“怒らせたのかなぁ…”と互いに意識してしまう。
 赤茶けた大地は以前にいた地方と同じだが、こちらはよく見ると、地表とよく似た色の茶色い草が、広範囲に辺りを覆っていた。その風景の流れる向こうの方では、小型のキリンのような動物が群れを成して歩いている。

「……ねえ」

 気まずい雰囲気を解消しようと口を開いたのは、ノアの方が先だった。

「なんだ?」

「もし…元の世界に帰れなかったら、どうする?」

「そうだなあ…」

 ノヴァルナが回答しようとする前に、ノアはさらに言葉を続ける。

「あのマーシャルって人の誘いを受けて、ダンティス家で働く?」

「それも面白ぇかもしれねーな」

 ノヴァルナは前を見据えたまま応じた。クェブエル星系を陥落させれば、場合によってはこれを領地にする約束をマーシャルから得ている。

「やっぱり、そう思うの?」

「ああ。何もねえとこから始めてどこまで行けるか、試してみたいとは思うぜ…なんせ俺はたまたまウォーダの家に生まれて、他人様より初期設定ってヤツが高けぇご身分だからな」

「…そんなふうに思ってたんだ」

 思わぬところでノヴァルナの内面を知り、ノアは意外そうに言う。


 だけど―――とノアは胸の内で、ノヴァルナの背中に問い掛けた。


“あの時…私に言ってくれた言葉は?”

 それは惑星アデロンの、タペトスの町での仮屋住まいをしていた時、星大名サイドゥ家の娘として、家の発展のため政略結婚という生き方しかない自分を嘆いたノアに、ノヴァルナが告げた言葉である。



「星大名の勢力争いとは無縁の片田舎の星で、なんもかんも捨てて、俺は機械の修理屋。おまえは次元物理学の研究者…それも悪くねえだろ?」



 ただノアは、そのノヴァルナの言葉が、自分に対する気遣いの範囲を越えないものである事も承知していた。第一、破天荒なノヴァルナにそのような地味な生活が、実際には長続きするはずもない。

 そんなノアの気持ちを察したのでもなかろうが、ノヴァルナは後を振り返り、肩越しにあっけらかんと言い放った。

「ま、俺が何をするにせよ、おまえも一緒に来るよな? ノア!」

 それを聞いたノアは、不意に腹立たしさを覚えて「知らない!」と言い返す。

 臆面もなく美人だの綺麗だのと言いきって褒めそやかしたり、ついて来いだの行くぞだの強引に引っ張ったり、そのくせそんな言葉を聞きたい時に限って放置したり…そんな身勝手で生意気な年下の若者の、当たり前のような物言いを、受け入れるようになってしまった、自分への苛立ちなのかもしれない。

「アッハッハッ!」

 ノアの反発を冗談と受け取ったのか、ノヴァルナは高笑いだけを返して、反重力バイクを巨大施設へと急がせた………




▶#04につづく
 
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