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第11話:未開惑星の謎
#02
しおりを挟むノヴァルナ達が降下した離着陸場に隣接したドーム状建造物。この農園にしかないそれは、全ての農園で働くロボット達を、統括管理する自動指令センターであった。
ノヴァルナとノアは、ボヌルスマオウの農園に初めて忍び込んだ時、ロボットの種類が様々どころか、汎用性の低い工業用ロボットまでボヌリスマオウの世話に使用していた点から、最初はこれらのロボットのプログラムを書き換えているのだと考えていた。
しかしマーシャル=ダンティスの元へ向かうまでの間に、オーガー一味から奪った『クランロン』型貨物船のメインコンピューターを調べた結果、ロボット達はこの農園に建てられた“集中統括管理センター”の、形式別行動プログラムクラウドにネットワークでリンクして、個々で活動している事が判明したのだった。
これを基にノヴァルナは、集中統括管理センターの占拠を第一目標として作戦を立てた。ただ問題は、敵の警備体制である。そこで貨物船のコンピューター内にあった、惑星パグナック・ムシュへの原料運搬船の運航予定を調べ、最も近い日時にこの星に来る貨物船を拿捕するか、撃破するかで乗員を捕らえ、その警備状況を聞きだそうとしたのだ。
そして状況はノヴァルナの狙い通り、のこのこと予定より遅れてやって来た、オーガー一味の貨物船を航行不能にして乗員を捕らえ、尋問したわけだが、意外にもと言うかやはりと言うか、他の農園同様、警備は皆無だった。それでノヴァルナは遠慮なく、この農園に降下して来たのである。
コンピューター端末の部屋に踏み込んだノヴァルナは、中央の壁面に向かい、メインと思しきコントロールパネルに手を伸ばし、キーボードを操作しようとした。ところが次の瞬間、チッ!と舌打ちして指を止める。キーに打刻してあるのが、サンクェイの街の入口にあった看板に書かれてあったのと同じ、ノヴァルナには理解不能の文字だったからだ。
「カールセン。この文字、わかるか?」
ノヴァルナは、この宙域で暮らすカールセンに振り返って尋ねる。カールセンは「ん?どれ」と言って進み出た。
「ああ。ピーグル語の文字だな。よし、俺が代わろう」
カールセン=エンダーは、オーク=オーガーをはじめピーグル星人が支配する、惑星アデロンでいわゆる“なんでも屋”を営んでいたため、ピーグル語も普通に話す事が出来る。
カールセンが指の動きも滑らかにコントロールパネルを操作すると、眼前のモニターにピーグル語で書かれた何かのアプリケーションが表示された。
「あんたが来てくれて助かったぜ」
万事に抜け目のないノヴァルナであっても、完全無欠と言うわけではない。オーガー一味の使用するコンピューターシステムであれば、ピーグル語で入力するのも当たり前だと言う事を、ノヴァルナは失念していたのだ。
「大活躍のおまえさんに、そう言ってもらえると光栄だな」
カールセンは陽気な声で応じた。妻のルキナは組織再生パッドの効果ですでにどうにか立てるまでに回復したが、当然、惑星降下に同行させるわけにはいかず、今頃は『デラルガート』の艦内で、歩行のリハビリを行っているだろう。
その『デラルガート』は、ここより東におよそ千五百キロ離れた位置にいるはずだ。その目的は二機のBSHO―――ノヴァルナの『センクウNX』と、ノアの『サイウンCN』の回収である。オーク=オーガーの機動城『センティピダス』と戦うためには、絶対必要な戦力だった。
やがてモニター上に、ピーグル星人のプログラム言語が流れ始める。それを眺めてカールセンはニヤリと微笑んで告げる。
「さーて。始めますか」
カールセンがやろうとしているのは、農園で働かされている全てのロボットへの、指令プログラムの書き換えであった。そんなカールセンのどこか嬉々とした表情にノアは、ルキナの言った「武人としての血が騒ぐ」という言葉を思い起こす。
元は星大名アッシナ家に仕える武官だったカールセンである。妻のルキナとの平穏な生活のためにその地位を捨てはしたが、このような状況で、内に秘めたものが浮上して来るのだろう。
そんなカールセンに、ノヴァルナが声を掛ける。
「あとを任せていいか? カールセン」
カールセンが「ああ。構わんよ」と応じると、ノヴァルナはノアと目を合わせて頷き合い、今度はユノーに告げる。
「少し出掛けて来る。誰も来ねえとは思うが、『デラルガート』が来るまでカールセンを護衛しておいてくれ」
「わかった」
するとノヴァルナはノアと共に指令センターを出る。そして再びプラットホームを上がると、『クランロン』型貨物船に乗り込み、すぐに離陸した。二人が向かったのは、前回この未開惑星を離れる時に惑星の裏側に発見した、青銀色の奇妙な巨大建造物である。
青銀色をした謎の巨大建造物。それはノヴァルナが、自分とノアが時空を超えてこの宙域にまで飛ばされた原因に、関わっているのではないかと疑った建造物であった。確信はないものの、調査の必要があるのを感じたのは二人に共通した認識だ。
すでに『クランロン』型貨物船の操船はお手のものとなったノヴァルナは、無駄のないコース取りで惑星パグナック・ムシュの大気圏外へ一旦飛び出ると、緩やかに高度を下げながら裏側へ回り込んだ。程なく視界に目指す建造物が見えて来る。
高空からだと、全体が円盤型の回路のようで、所々にさっきの離着陸場にあったロボットの統制用のそれとは、比べものにならないほどの高さのアンテナ塔が立てられていた。
建造物は中央部こそある程度の高さをもつ、円形の城郭のような構造となっているが、その他の部分は地表から五メートルほどの高さしかない。その代わり、全体の直径は三十キロメートル以上はあると思われる。
「ノア。センサーを見ていてくれ。こいつはどうにも、薄気味の悪いデカブツだ」
貨物宇宙船の操縦桿を握るノヴァルナは、副操縦士席のノアに言う。その薄気味の悪さは、青銀色の建造物から感じる、テクノロジーの違いから来るものだった。未知の文明とまでは言わないが、少なくともこのような辺境宙域に存在するのは、似つかわしくない存在感があるのだ。
「センサーにも逆探にも、今のところ反応はないわ」
そう応えるノア。『クランロン』型貨物船は、小型だが連装ブラストキャノンを二基装備した武装船であり、センサーの精度は通常の貨物船より感度が高く、逆探知装置も搭載している。それらの反応を見る限り、巨大施設からこちらに対する動きは見られなかった。
「ああ。だが油断は出来ねぇからな。少し接近速度を落とすぜ」
と言うノヴァルナの言葉に、ノアは“へえ…”といった顔をする。
「傍若無人で無神経で、がさつ者のあなたにしては上出来ね」
「うるせえ」
ノアの言ったのは無論、冗談であった。言った方も言い返した方も、笑顔なのがその証拠だ。知り合った当初ならともかく、ノヴァルナに用心深い一面があるのは理解済みであった。
するとその時、奇妙な言葉がノヴァルナとノアの席の航法モニターに点滅表示される。ノヴァルナはその文字を口にした。
「航過用認識コード自動送信中…だと?」
▶#03につづく
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