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第11話:未開惑星の謎
#01
しおりを挟むノヴァルナとノアがこのムツルー宙域に飛ばされて来た時、最初に辿り着いた未開惑星。オーク=オーガーから奪い取った武装貨物船の航法データを調べた結果、それは銀河皇国カタログナンバーRZ-14802星系の第三惑星だと判明した。
そしてオーク=オーガー達はこの星を、『パグナック・ムシュ』と呼んでいるらしい。カールセンによると、彼等ピーグル星人の古い言語で“宝の山”という意味だとの事だ。
工作艦『デラルガート』の艦橋から、宇宙に浮かぶ赤茶色と緑色の惑星パグナック・ムシュを眺め、ノヴァルナはあっけらかんと言い捨てた。
「まあ、確かにオーク=オーガーのブタ野郎からすりゃ、あの星は“宝の山”だろうがな」
もうひと月近くも経ったのか…ふとそう考えたノヴァルナは、傍らに佇むノアに視線を移す。ノヴァルナの視線に気付いたノアは、僅かな笑みを含んだ穏やかな表情を返して来た。もしかしたらノアも同じような事を思っていたのかもしれない。
ノヴァルナもノアも敵対するウォーダ家の嫡男とサイドゥ家の姫という立場より、性格的に反りが合わず、事あるごとに口喧嘩をしていた頃が、すでに遠い昔の話に思えていた…もっとも、つまらない意地の張り合いから言い争いに発展するのは、今でもしばしばだが。
そこに艦橋でオペレーターを務めるアンドロイドが、無感情な声で報告した。艦橋といっても工作艦であり、戦闘艦のような広さはない。
「センサーに反応。探知方位215―015、距離約3万。貨物船と思われます」
「来たようね」とノア。
「チッ! おせーぞ。二時間も待たせやがって。ちゃんと仕事しろ!」
舌打ちして文句を垂れるノヴァルナ。と言うものの、別にこの貨物船と待ち合わせをしていたわけではないのであって、遅いと文句を垂れるのは言いがかりに等しい。しかもその目的はこの貨物船を拿捕、もしくは撃破しようというのだから、非難されるなど筋違いも甚だしい。
「左砲戦用意。接近しろ」
ふんぞり返ったノヴァルナが命令を下すと、工作艦『デラルガート』は艦尾の重力子ノズルから、黄色い光のリングを発して加速を開始する。それと同時に左へとゆっくりと回頭をかけて、惑星アデロンから発進した、オーク=オーガーの麻薬原料運搬船へ対する襲撃行動に入っていった。
やがて未開惑星パグナック・ムシュの雲の合間を抜け、一隻の貨物宇宙船が降りて来た。『クランロン』型武装貨物船だ。それは麻薬ボヌークの原料となる植物、ボヌルスマオウの広大な農園の中央にある離着陸用のプラットホームへ、無駄のない動きで一直線に着地する。
フライパンを逆さまにしたような形のプラットホーム上で、貨物船を出迎えた様々な形状の作業用ロボット達に、もし感情があったならば、降りて来る貨物船の動きがいつもより、“ちゃんと”している事を奇妙に思ったかもしれない。なぜならいつも貨物船に乗って来る人間達の操縦は、いい加減で荒っぽく、仲間のロボットが着陸ギアに踏みつけられたり、はね飛ばされて壊されたりする事すらあるからだ。
しかし当然ながら、認識機能でも付加されていない限り、感情を持たない彼等にそのような違いをどうこう考える事は出来ず、ましてや着地した宇宙船から降りて来た人間達が、彼等の支配者オーク=オーガーの一味ではないなどとは知るはずもない。彼等にとってしなければならないのは、宇宙船の再発進の準備と、指示された植物のコンテナへの積み込みだけだからである。
堂々と姿を見せても、ロボットが無反応なのは織り込み済みのノヴァルナを先頭に、ノア、さらにカールセン、そしてユノーと二人の部下が続いて貨物船から、プラットホームを下りる通路に向かう。
カールセンはロボット達の動く様を見回し、無精髭の生える顎を指で撫でながら、思った事を口にした。
「ほんとに、作業のためのロボットだけで、人間は誰もいなけりゃ、警戒装置もないんだな」
「杜撰なもんだろ?」
と応じるノヴァルナ。それにノアがからかい半分で皮肉を突っ込む。
「まあ…そのおかげで、この星から逃げ出す時、あなたの行き当たりばったりが上手くいったんだけどね」
だがノヴァルナはどこ吹く風だ。
「おう、任せとけ」
「なにその適当な返事」と呆れた口調のノア。
一方で三人に続くユノーと二人の部下は、首が可動する範囲目一杯に亘る広大なボヌリスマオウの農園に息を呑んでいた。
「これが全て、ボヌークの原料だと…」
「信じられん…」
二人の部下が呻くように呟き、ユノーは無言で歯を喰いしばる。惑星アデロンと、そして自分が忠義を誓ったダンティス家の領民を苦しめている元凶を目の前に、ふつふつと怒りが込み上げて来るのを覚えたのだ。
ユノーの部下達が言った“これが全て”とは、厳密にはノヴァルナ達が降下したこの農園だけの事ではない。工作艦『デラルガート』から未開惑星パグナック・ムシュをスキャンした結果、ボヌリスマオウの農園は、惑星の南北両半球の亜熱帯地区に千以上も存在し、帯状を成しているのが確認されたのだ。
事実、この農園も、ノヴァルナとノアがパグナック・ムシュから脱出する際に利用した農園とは、別物であった。二人が利用した農園は千五百キロほども東になる。
そしてノヴァルナは、訳もなくこの農園を選んで降下したのではなかった。その理由はプラットホームから降りた彼等が向かった、隣接する巨大なアンテナ塔がそびえたドーム状の建造物にある。その建造物は、ノヴァルナとノアが利用した離着陸場には、存在していなかったものだ。
「相変わらず、壊れかけのロボットばっかだぜ」
ノヴァルナはギシギシ音を立てながらすれ違う、一体の古びたロボットに顔を向けそう言う。するとそれにカールセンが応えた。
「辺境宙域はいびつな社会構造でな。失業者が溢れてる反面、作業用ロボットの数が足りてないのさ。だから中古ロボットがボロボロになるまでこき使われるって寸法だ」
「ふーん…て事は、失業者に技術職の記憶インプラントを施してやりゃあ、もう少し経済が回って、住み易くなるって話だろ? とは言え、銀河皇国が今の有様じゃあ、そう言った植民星支援政策なんざ期待出来ねえしなぁ…そうなるとやっぱ、有力星大名による、宙域の長期安定統治に頼らざるを得ないか」
複雑な話を事もなげに口にするノヴァルナに、カールセンとノアは目を白黒させる。そうするうちに六人は、ドーム状建造物に到着した。それを囲む格子状の柵は、これも杜撰な事に鍵も掛けられていなかったが、さすがに建造物の入口扉はロックされている。
それに対するノヴァルナの対応は単純だった。真っ青なパイロットスーツの腰のホルスターからハンドブラスターを引き抜き、ドアのロック部を二発、三発と撃ち抜いたのだ。空いた穴から紫色の煙が流れ出すと、ノヴァルナはロック部を力強く蹴り付けた。
その衝撃でドアの内部でガクン!とロックが外れる気配がする。そこでノヴァルナは一気にドアを引き開けた。中は薄暗く、外観に比べかなり狭い円形の部屋が一つあるだけ。ただその部屋は、壁一面がコンピューターの端末で埋め尽くされていた。
▶#02につづく
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