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第9話:動乱の宙域
#13
しおりを挟む一方、『センティピダス』の指令室では、レブゼブ=ハディールが苛立ちもあらわに、オーク=オーガーに食って掛っていた。
「オーガー! 貴様、もっとマシな砲撃は出来んのか!! あまつさえこんな遠くから砲撃を始めて、こちらの接近を教えてしまったというのに。これでは逃げられてしまうではないか!!」
「しょうがねえだろ! この機動城の主砲には、精密射撃センサーがねえんだから!」
怒鳴り返すオーガーの言葉に“所詮は移動式地質調査基地の違法改造品か…”と、レブゼブは腹の内で蔑んだ。
機動城『センティピダス』の素性は、百年ほども前にこの惑星アデロンに到達したヤヴァルト銀河皇国の、最初期の植民団が運用していた移動式の地質調査基地だったのだ。海洋がほとんどないこの惑星で、有用な地下資源の在処を調べながら全土を動き回るために、このようなムカデ型の巨大ロボットの姿になったらしい。オーク=オーガーは放棄されていたこの基地を改造し、武装を施したのである。
ただしその武装は当然、純正のものではないために、星大名の正規軍が使用するような精度は望むべくもない。現在続行中の宇宙港に対する砲撃もノヴァルナが指摘した通り、射撃と着弾観測を繰り返して修正を繰り返す、大昔の砲撃のやり方であった。
「第三射。てーッ!」
砲術長役と思われるオーガーの幹部が命令を下すと、『センティピダス』の頭部に取り付けられた、三連装の主砲が火を噴く。そして着弾。だが宇宙港の離着陸場に上がる火柱は、またもや四隻の貨物宇宙船から、ひどく離れた位置だ。
その状況を暗視装置を通した映像で見詰めるオーガーは、「うぬぅ…」と唸り声を漏らす。
「右に五。上げ四…」
と報告するのは、潜水艦の司令塔にある潜望鏡のような観測スコープを覗き込む手下だった。この男が着弾観測員で、次の射撃の際の修正角度を指示しているのである。自動化された火器管制システムどころか、まるで、レーダーの登場以前の海洋艦船の砲撃術に見える。
「修正完了」と主砲の担当オペレーター。
「第四射。てーッ!」
再び轟音とともに主砲が火を噴く。ところが今度の砲撃は貨物宇宙船の列の上空を通り越し、その向こう側に着弾した。レブゼブにはああ言ったが、オーガー自身も命中の気配のなさに我慢が出来なくなる。
「てめえら! いったい何をやってやがる! 全然じゃねえかッ!!」
そもそも『センティピダス』頭部の360ミリ三連装主砲は、威嚇に使うために設置された性格のもので、使えるには使えるがセンサー照準システムと規格が合わず、連動ができないのだ。
そのような代物をを強引に使用したのは、一番破壊力があったのと、動かない状態の標的なら当たるだろうという楽観。そしてすでにレジスタンスの残党に、宇宙港への侵入を許し、宇宙船を奪われているという連絡を得た事への焦りが、オーガーの胸中で交錯していたからである。
しかしこれでは埒が明かない。レブゼブは大きく首を振って告げた。
「だめだオーガー。せめて城を停止させて撃て。動いていては余計に当たらん!」
レブゼブの言う通りで、向こうが動かない標的でも、こちらがずっと動いているのでは低い命中率がさらに下がるのは当然だ。オーク=オーガーはイノシシのような顔をしかめて命じた。
「仕方ねえ。機動城を止めろ! その代わりてめえら、もっと正確に狙わねえと、コイツで頭をカチ割るぞ!―――」
オーガーはそう言って、右手の黒い金属棍をバチリと肩に置き、さらに続ける。
「それと、“大蜘蛛”も出せ!」
その命令で停止した『センティピダス』は主砲の他にも、機体の横側に並ぶ副砲群で砲撃を始めた。タペトスの町を火の海にした100ミリ砲だ。こちらには精度は低いが、射撃用センサーがあるので、初弾からノヴァルナ達の奪った貨物船の付近に着弾する。
そして『センティピダス』の後部から、例の重多脚戦車が2輌分離して宙に浮かんだ。あとの2輌はボヌーク工場へ先行させて、そのまま置いて来たのでここにはいない。重多脚戦車には反重力機関も装備されてはいるが、自重による機体への負荷を軽減するのと、『センティピダス』との発進/収容に使用するためのもので、飛行出来るのは最大でも2キロメートル程度である。
2輌の重多脚戦車は積雪の中に降りると、宇宙港に向かって雪を掻き分けながら進み始めた。
「ユノー!! 急げ!!!!」
カールセンは奪った貨物船の搭乗ハッチの前で、砲撃音に掻き消されまいと、あらん限りの声でレジスタンス達を呼び、左腕全体で大きく手招きする。五人のレジスタンス兵は投降したオーガーの手下達を、格納庫の一つに閉じ込めて電子ロックを銃で破壊し、奪った貨物船へと駆けて来る途中だ。距離にして残りおよそ150メートルといったところであろうか。
とその時、並べて置かれていた貨物宇宙船の、一番手前の『プリーク』型貨物宇宙船が、『センティピダス』の副砲弾を一発喰らって、後部のコンテナを吹っ飛ばされた。ノヴァルナの奪った貨物宇宙船からは二百メートルほどだ。金属が引き裂かれる大音響と爆風で、走って来るレジスタンス達が一斉に転倒する。
煙を上げだす『プリーク』型貨物船と、よろめきながら立ち上がって走り始めるレジスタンスの光景を、操船室の窓から見詰めながらノヴァルナは呟いた。
「マズいな…」
それを聞いたノアも「ええ…」と頷く。タペトスの町を『センティピダス』が砲撃した時は、ノヴァルナ達はすでに地下に退避していたため、その砲戦能力を見るのは初めてなのだが、主砲ではなく副砲群が行った今の射撃は、照準が主砲より大幅に改善されていた。そこからおそらく副砲には、まともな照準システムがあると判断できる。そしてこの一弾で相当有効な射撃データを得たはずだ。
案の定、少し間を置いて再開した副砲射撃は、最初に命中した『プリーク』型貨物船に立て続けに着弾し、粉々に粉砕すると、さらにその隣の型式不明の貨物船にも火柱を上げた。その衝撃にレジスタンス達は吹っ飛ばされて再び倒れる。しかも先程より近くで爆発したため、全員がすぐには立ち上がれない。
さらに重多脚戦車までが射撃を開始した。こちらに近付く爆炎の数が増す。ノヴァルナ達の乗る貨物船までは、その間にもう一隻の『プリーク』型貨物船がいるだけとなる。搭乗ハッチのところで、レジスタンス達を待っているカールセンも危険な状況だ。ノヴァルナは船外スピーカーで呼び掛ける。
「カールセン! 先に中に入れ!」
ところがカールセンはその時には、なかなか起き上がってこないレジスタンス達を手助けするため、彼等の元へ駆け出してしまっていた。
「カールセン! 聞いてるか、カールセン!!」
返事がないカールセンを、ノヴァルナがもう一度呼び掛けた直後、操船室の窓からの視界に、離着陸場を駆けて行くカールセンの後ろ姿が入って来る。
「カールセン!」
無茶すんな!…という言葉を飲み込み、ノヴァルナは奥歯を噛み締めた。すると後ろの席にいたルキナが、小さな声で「やっぱり…血が騒ぐのね」と言う。それを聞いて振り向くノヴァルナとノアに、ルキナは哀しそうな笑みを向けて告げた。
「カールは今も、武人の心を失ってないのよ」
▶#14につづく
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