銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
131 / 422
第9話:動乱の宙域

#04

しおりを挟む
 
 トクルガル家本拠地、惑星ヴェルネーダ―――

 緩やかな山の斜面に沿って広げられたトクルガル家の居城を望むオルガザルキの街では、通りを行き交う人々が、秋の澄んだ青空を見上げては、不安げな表情を浮かべていた。

 その視線の先には、雲の合間からおびただしい数の、白く霞んだ紡錘状の物体が見え隠れしている。イマーガラ家第3宇宙艦隊の艦艇群だ。
 惑星駐留の際は通常なら、艦隊は衛星軌道上に停泊して地上からは目視出来ない。それがこのように白く見えるのは、各艦艇が反重力フィールドを展開して、大気圏内にまで高度を下げて来ているからであり、惑星の住民に対する示威行動に他ならない。

 およそ二週間前に起きた暗殺事件で、当主ヘルダータを失ったオルガザルキ城…その謁見の間では、イマーガラ家宰相のドラルギル星人セッサーラ=タンゲンの全身ホログラムが、居並ぶヘルダータの遺臣達を前に穏やかに言葉を返した。

「…勘違いされては困る。我等はあくまでもトクルガル家の盟友として、ミ・ガーワ宙域の治安維持に助力しに参っただけである」

 そのタンゲンのホログラムの右隣には、空に浮かぶイマーガラ家第3艦隊の女性司令官、シェイヤ=サヒナンが後ろに手を組み、直立不動でいる。さらにその背後ではサヒナンの参謀達が横一列に並んで立っている。
 ただそのイマーガラ勢の立っている位置が問題であった。彼等が立っているのは玉座がある上座であり、トクルガルの家臣たちがいるのは下座…つまり被支配側なのだ。その不満はトクルガル家臣たちの顔にもありありと映し出されている。

「とは申されましても、千以上もの艦艇…些か、多すぎましょうぞ」

 そう告げたのは、トクルガル家筆頭家老のダグ=ホーンダートであった。息子のダガン=ホーンダートはまだ十代前半の若者ながら、BSIの操縦技術はいずれトクルガル家…いや、戦国最強の名を冠するであろう逸材と注目されている。

「それだけ我がイマーガラ家は、貴殿らへの支援に本気だという事であるよ」

 ダグの遠回しの抗議も、タンゲンはとぼけた振りで老獪に応じて取り合わない。オルガザルキの街から空に見えるのは第3艦隊だけだが、実際には惑星ヴェルネーダは、イマーガラ家の第2から第12までの宇宙艦隊約一千隻によって、完全に包囲されているのだ。トクルガル家にも約二百隻の艦艇があるが、万一戦闘になっても勝ち目はない。

「その甲斐あって、コソコソと動き回っていた者共も、大人しゅうなったではないか」

 タンゲンが追い打つように言うと、ダグは口を“へ”の字に曲げて黙り込む。タンゲンの言った事は紛れもない事実だったからである。

 ヘルダータ=トクルガルには、息子のイェルサスしか有力な後継者がおらず、そのイェルサスがウォーダ家の人質となっている以上、ミ・ガーワ宙域の支配者は現在空位だった。そこで元々独立志向の強いミ・ガーワ宙域の独立管領達が、早くもトクルガル家の支配から脱して自立の道を画策し始めていたのである。
 だがそこへトクルガル家の支援を名目として、一千隻以上のイマーガラ艦隊が進出して来たのだから、一つ、二つの星系を支配するだけの独立管領が、多少同盟を組んで歯向かったところで到底勝負にならない。タンゲンが言ったように数日を待たずして、独立管領達の策動は鳴りを潜めたのであった。

 しかしそのイマーガラ艦隊の大規模戦力は、そのままトクルガル家にとっての脅威でもある。それゆえホーンダートやサークルツ、キルバラッサ、オークボラン、イシカーといった、居並ぶトクルガル家の直臣達が、警戒感をあらわにしているのだ。

 ミ・ガーワ宙域の独立管領達は前述の通り、その名の如く独立心が強く、統治するトクルガル家と時には同調し、時には反目し合う関係であった。それもあってか、逆に直臣達の団結力はひときわ固く、粘り強い。ヘルダータの暗殺により当主を失い、家督を継げる者も不在となれば、空中分解を起こしても当然のトクルガル家が、こうして体制を維持しているのも、ひとえにこの団結心によるものだった。

 そうであるなら、ミ・ガーワ宙域を属領化するためには、この団結心を利用するのが上策というものだ。それがイマーガラ家の戦略であった。タンゲンのホログラムが言う。

「貴殿らのご懸念も分かる…だがご安心めされよ。ここにおるシェイヤ=サヒナンとその艦隊を、我が名代としてここに残すが、我等は程なくこの星系を離れるつもりだ」

 その言葉に怪訝そうな表情を向けるトクルガル家直臣達。タンゲンは緩やかに笑みを浮かべ、親しげに言葉を続けた。

「国境を接するトクルガル家の安定は、我がイマーガラ家にとっても最重要。貴殿らが望むに足るご当主を、我等が用意して進ぜよう。今しばらく待たれるがよい………」
  


▶#05につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...