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第9話:動乱の宙域
#00
しおりを挟む「ごちそうさま…」
うつむき加減のフェアンは、呟くように昼食の終わりを告げた。
「もういいの? ほとんど食べていないではないの」
落ち着いた口調で言うのは姉のマリーナであった。その白磁のような顔は、口調と同じく落ち着いていて、表情に欠ける感じさえする。ただそんなマリーナも、目の前に出されている昼食には、大して手がつけられていない。
「うん…」
短く応えたフェアンは、そのまま黙り込む。
惑星ラゴンのスェルモル城。その領主用の食堂では恐ろしく長いテーブルの端っこに、マリーナ・ハウンディア=ウォーダとその妹、フェアン・イチ=ウォーダの二人だけが向かい合わせに座っていた。
広い食堂に他にいるのは給仕役のメイドが二名だけで、背の高い窓からは、夏の終わりが近い海の向こうに、大きな入道雲が浮かんでいる。その雲の下がひどく暗いのは、激しい雨を降らせているからだろう。
姉妹の気持ちはまさに、その入道雲が掛かった部分のように暗く沈んでいた。昨日、ナグヤ城からやって来た家老のセルシュ=ヒ・ラティオに、およそ二週間前から、兄のノヴァルナが行方不明となっている事を告げられたのだ。
むごい話であった。二人がノヴァルナをとても慕っているのは、ナグヤの家中で知らない者はおらず、それゆえに二人が暮らすスェルモル城の人間では、ミノネリラ軍が動き出した事だけは姉妹にも知らせたものの、ノヴァルナの行方不明は誰も告げられなかったのだ。
そして父のヒディラスの主力部隊が出撃するにあたり、最終の打ち合わせに来訪したセルシュが、ノヴァルナの行方不明を告げる役目まで背負わされたのである。
泣き出すフェアンの肩を支えながら、マリーナはセルシュが苦衷に満ちた表情で、その時の状況を事細かに報告するのを、内心で歯を喰いしばりながら、一言一句漏らさず聞いた。生存の確率は十パーセント以下で、生きていたとしても、どこにいるか全く探しようもない事も………
だけど………
マリーナは窓の外の入道雲を見詰めながら願い、誓った。
“どうか兄上、ご無事で帰ってらして。私とイチを悲しませるなど、我が兄上に似つかわしくありません。ご無事で帰ってらしたらその代わり、私のこれからの人生全てを、兄上がご支配されましょうウォーダ家に、捧げて参ります………”
▶#01につづく
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