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第8話:悪代官の惑星
#20
しおりを挟む「やめろ、オーガー!!!! そんな事になんの意味がある!!!??」
蒼白になって叫ぶカールセンを、オーガーが嘲笑う。
「グハハハハ。意味ならあるぞ。見せしめって意味がな!」
「見せしめだと!?」
「レジスタンス共をかくまう奴が住む町がどうなるか、記録画像を残すいい機会だからなあ。サンクェイに比べれば、こんな町は何の価値もねえ。むしろ焼き払われる事で、他の街の住民共がレジスタンスへの協力をやめ、俺達の支配下で平和に暮らせるようになるなら、役に立つってもんだ。グハハハハ!」
邪悪そのもののオーガーの物言いに、カールセンは傍らのレブゼブに振り向く。
「ハディール! こいつの馬鹿な真似をやめさせろ!! 貴様も武官なら、人民統治の在り方ぐらい理解しているだろう!?」
だが、かつてアッシナ家でカールセンの上司だったというレブゼブは、冷めた目を向けて取り合おうとしない。
「俺はアッシナ家の参事官としてこの星に赴いているだけだ。この惑星は奴のもの…どのような判断を下そうが、俺が責任を負う事ではない」
「ハディール!!」
そこにオーガーが面白がるように言い放つ。
「もちろん、俺にも慈悲の心ってヤツはある。町の建物を焼き払うだけだ。レジスタンス共は見つけ次第ぶっ殺すが、逃げ出す住民達には手を出さねえぜ!…もっともぉ、攻撃に巻き込まれて死ぬ奴や、レジスタンスと間違われて撃ち殺される奴がいても、不運だったと諦めてもらうしかねえがなあ! グハ、グハ、グハ!」
「く…下衆が」
歯を喰いしばって睨み付けるカールセン。その視線の先にいるオーガーは蔑んだ目を返す。
「カールセン。てめえには俺達と来てもらうぜ。てめえがレジスタンスをかくまったせいで、この町が焼き払われる。そのさまを見物させてやる―――」
そう言ってオーガーはカールセンを捕らえる兵士に命じた。
「カールセンと嫁を、『センティピダス』へ連れて行け!―――」
そしてさらにオーガーは、路上に立ち尽くしている住民達へ振り向き、大声で告げる。
「聞いての通りだ、てめえら!! 攻撃まで五分間だけ猶予をやる! せいぜい生き延びるられるよう、準備するんだな!! そうら!!!!」
掛け声とともにオーガーは、腰のベルトのホルスターから実弾式の拳銃を抜き放ち、住民達の目前の路上を威嚇射撃した。
銃撃音と、えぐれて弾ける石畳の欠片が連続し、住民達はパニックを起こして一斉に逃げ散り始める。血塗りの金属棍を振り回し、グハハハハッ!と天を仰いで哄笑するオーク=オーガー。「やめろ、オーガー!!!!」と怒鳴るカールセンと怯えるルキナを連行する兵士達。傭兵の一団が地下のインフラ通路に潜るため、二列縦隊で路上を駆け抜ける。通りを両側で封鎖する多脚戦車モドキが動き出す。
ただそんな混乱と恐慌と喧騒の中、逃げ惑う住民達の間にノヴァルナとノアの姿は見えない。オーク=オーガー達の出現からこちら、油断なく神経を集中させていたノヴァルナは、カールセンがミニコントローラーを使ってランドクルーザーを操り、レジスタンスが逃走する隙を作った際に、騒ぎに乗じてノアを連れ、気付かれないまま仮住まいへ戻っていたのだ。
「ノア。支度できたか?」
自分用の青いパイロットスーツに着替えたノヴァルナが、リビングの窓から外の様子を探りながら呼び掛ける。その手には拳銃型ブラスターが握られていた。ノヴァルナに呼び掛けられたノアは、自らもパイロットスーツに着替え、サバイバルバッグを肩に担いで寝室から出て来る。そのもう一方の手には、やはり拳銃型ブラスターが握られていた。二人ともパイロットスーツ姿なのは、金属繊維で作られているぶん、通常の着衣より多少なりとも防御力があるからだ。
「ええ。できたわ」
「よし。行くぜ」
ノヴァルナは裏口へ向かい、用心深くドアを開けた。外を素早く確認し、両手で握る銃を下段に構えて住居をあとにする。それに続くノアは、後ろを振り返ってリビングを見渡した。
「………」
少し名残惜しそうなノアの目に、僅か一週間ではあったがノヴァルナと暮らした光景が甦る。とても裕福とは言えない、辺境の植民星での暮らしだったが、星大名の一族の肩書から離れた一般人の生活は、これまでにない奇妙な解放感があった。
「ノア」
「あ…うん」
ノヴァルナの呼ぶ声でノアは我に返る。そのノヴァルナはノアを一瞥しただけで、家に振り返りはしない。
“ノヴァルナはこの家の暮らしが終わるのを、何とも思ってくれないんだ…”
とノアが寂寥感に包まれたその時、ノヴァルナは前を向いたままポツリと言う。
「そういや、おまえの朝メシ…食い損ねちまったな」
微笑んだノアは明るく応えた。
「また今度ね」
姿勢を低くして裏口から住居をあとにしたノヴァルナとノアは、路地裏を回り込み、オーク=オーガー達が通りを包囲する多脚戦車モドキの隊列の裏側へ出た。そしてちょうどオーガーが町を焼き払う事を宣言し、住民達に威嚇射撃した場面に遭遇する。
「あの豚野郎、町を焼き払うだと…」
雪を被った丸い看板の陰から様子を見ていたノヴァルナは、そう呟いて噛み締めた奥歯をギリリと鳴らした。その憤怒の反応を見てノアはある事を脳裏に思い起こす。それはあの未開惑星でノヴァルナが語った、自分の初陣の際に敵が罠を張り、キイラという植民星の住民五十万人を焼き殺したという話である。その時ノヴァルナが垣間見せた自虐的とさえ思える懊悩に、今のオーガーの“焼き払う”という言葉が触れたに違いない。
「ノヴァルナ…」
感情的になりそうなノヴァルナの腕に、ノアはそっと手を置いて静かに呼び掛けた。
「ああ…」
ノヴァルナは怒りを飲み込むように短く応じて銃を握り直す。威嚇射撃に怯えた住民達が散り散りに逃げ出し、状況が動いたこの隙に、カールセンとルキナだけでも奪い返して脱出を試みるのが、いま出来得る限界である事はノヴァルナ自身も理解していた。列を成す足音の接近に気付いて路地に滑り込むと、通りを二列縦隊の傭兵が駆けて行く。
それをやり過ごしたノヴァルナは、身を隠した路地を形成する建物を見上げた。二階建てのアパートのような建物が通りに沿って伸びている。それに何かを思いついたらしいノヴァルナは、ノアに身振りで“行くぞ”と促した。
「オーガー、焼き払う手順はわかっているな?」
レブゼブはオーク=オーガーを招き寄せて、反重力モジュールに向かいながら尋ねる。カールセンには自分には何の責任もないと言っておきながら、無関係とは程遠い発言だった。
「わかってるぜ。町を包囲している四台の“大蜘蛛”に、町の一番外側にあるインフラ通路網の出口を全部潰させ、あとは周囲から地上の建物を砲撃で焼き尽くす。そして出口を塞がれたレジスタンス共を、地下に降りた傭兵達に追い詰めさせる寸法だろ」
オーガーがそう応える背後で多脚戦車モドキが動き出し、捕らえたエンダー夫妻を運ぶためのトラックが通りの向こうからやって来る。
するとその直後、道路に面したアパート型の建物の、二階の窓が開き、中から勢いよく飛び出す人影があった。ノヴァルナである。
【改ページ】
二階の窓から飛び出したノヴァルナは、間近にいた多脚戦車モドキに無言で飛び乗る。そしてオープンデッキの操縦席にいた二人の兵士が、足音と気配に振り向いたところに駆け寄ると、一人の顔面を靴底で蹴り付けて失神させた。
残る一人は仲間を気絶させたノヴァルナの足首に掴みかかったが、ノヴァルナは倒れるに任せて突き出した膝の先で相手の顎に打撃を加え、こちらも意識を奪う。
適応力の高いノヴァルナにしてみれば、多脚戦車モドキの乗っ取りはサンクェイの街で一度経験済みで、早くも手慣れた感じさえあった。操縦席で気を失ったままの二人の兵士の間に、素早く割り込んだノヴァルナは、車体下部に取り付けてあるガトリング砲の照準器と、トリガーに手を伸ばす。
その時になってようやくオーガーが部下の一部が、多脚戦車モドキの一輌の不審な動きに気付きだした。だがその動きに警戒の声を上げようとした次の瞬間、不審な動きをする一輌―――ノヴァルナが乗っ取った多脚戦車モドキは、隣で後ろを向こうとしていた一輌に向け、ガトリング砲を発射する。
回転する銃身の束から吐き出された弾丸は、敵車輌の六本脚の片側、三本を全て破壊して横転させた。突然の出来事に、ノヴァルナ以外のその場にいる全員が度肝を抜かれて、体をすくませる。無抵抗の住民相手とタカをくくっていては尚更だ。
さらにノヴァルナの放つガトリング砲は、もう一輌の多脚戦車モドキの車体に無数の穴を穿って打ち倒す。その多脚戦車モドキは、通りの向こう側の住宅を突き崩しながら転倒した。
「敵だ! “子蜘蛛”を奪いやがった!」
「なんだ! まだ他にレジスタンスがいたのか!!」
不意を突かれた兵士達が我に返り、右往左往して逃げ回る。レブゼブは二名の護衛兵に連れられて、住居の一つに素早く身を隠した。一方オーク=オーガーは、自分達が乗っていた反重力モジュールの手摺を掴んで怪力で引き倒し、六角形のベース部分を盾代わりにして、巨体を這いつくばらせながらその裏に潜り込む。
自分の横にいた二輌の多脚戦車モドキを屠ったノヴァルナは、その勢いでガトリング砲のトリガーを引いたまま、奪った車体を半回転させた。銃弾が通りの民家の屋根近くをミシン掛けし、命中個所の壁を崩落させる。そして通りの反対側にいる三輌の多脚戦車モドキに向け、ノヴァルナは車体後部のロケットランチャーから、ロケット弾を発射した。
▶#21につづく
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