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第7話:隣国の姫君
#00
しおりを挟むミ・ガーワ星系第二惑星ヴェルネーダ。その緩やかな丘陵地帯にそびえる、堅牢そうなオークブラウンの外壁を持つ城が、ミ・ガーワ宙域を支配する星大名トクルガル家の本拠地、オルガザルキ城である。
オルガザルキ城は大天守と副天守が少し距離を置いて前後に並び、強力なエネルギーシールド発生機でもある塔屋が、その大小二つの天守を六方から囲んでいた。
城からは三方向に広い道路が伸びており、一本が宇宙港。もう一本がオルガザルキの市街地。そしてもう一本が、工業地帯とそれに付随する港湾都市に向かっている。
暮れなずむオルガザルキの空は茜色で、オレンジ色と紫色を染め分けた雲の群れの下を、秋の訪れを告げる渡り鳥が列をなし、南へと翼を急がせる。
城の中庭で乾いた銃声が響いたのは、その時であった。
二回、三回と銃声は起こり、四回目の銃声には複数の女性の悲鳴がそれに重なる。
「きゃあぁっ! ヘルダータ様ッ!!」
身なりの良い若い女が三人、蒼白となった顔を引き攣らせて、銃弾を受けた人物の名を叫ぶ。ヘルダータ=トクルガル―――撃たれたのは現トクルガル家当主だった。ヘルダータは中庭の池のほとりで、三十代半ばの端正な顔の額に開いた穴から、刈り揃えたばかりの芝生の上に脳漿をぶちまけて死んでいた。
「待てぇッ!!!!」
「生かして捕らえろ! 尋問するんだ!!」
「絶対に逃がすな!!」
口々に言いながら警備の兵達が追っているその先には、庭師の姿をした小柄な男が背を見せて逃げて行く。すると男は突然立ち止まって振り返り、銃を乱射した。咄嗟に身を伏せる警備兵。弾が尽きて男は弾倉を交換するがその直後、別方向から来た警備兵が銃撃し、男の右太腿を撃ち抜いた。もはやこれまでと思ったのか、男は叫ぶ。
「 全てはイーゴンの理(ことわり)とともに!!」
そして男は銃口を自分の口にくわえ、引き金を引いた。
自分が撃ち殺した相手同様、脳漿をぶちまけて自ら命を絶った男を見下ろし、警備兵達は言葉を交わした。
「こいつ、最期に何を言った?」
「イーゴン教の教えだ」
「イーゴン教徒か…」
イーゴン教とは、ヤヴァルト銀河皇国内で野火の如く広がり始めている新興宗教だが、犯人が自殺してしまっては、関与の真相は不明である。ただ星大名トクルガル家が当主を失ったという事だけは、その場に残された紛れもない事実であった………
▶#01につづく
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