73 / 422
第6話:暗躍の星海
#03
しおりを挟むやがてマリーナのホログラムも立ち去り、食事会が終了すると、ノヴァルナはトレーナー姿のまま執務室へ入った。そこには後見人のセルシュ=ヒ・ラティオと、ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』の筆頭、トゥ・シェイ=マーディンがともに軍服姿ですでに待っている。
「すまねー。朝メシに手間取った」
ノヴァルナは詫びながら執務室の机を回り込み、席に着いた。
「猶子の方々はいかがでしたか?」
セルシュが気遣うように尋ねると、ノヴァルナはいつもの不敵な笑みで応じる。
「まあ、弟が増えたみたいなもんだな。宿題ももらったぜ」
「?」
宿題とはクローン猶子達のために『ムシャレンジャー』の動画を探してやる事だが、当然、事情の分からないセルシュとマーディンは首をひねる。
ただセルシュはノヴァルナの言葉に安堵もしたようであった。自分のクローン猶子に嫌悪感を抱く星大名の嫡子も、珍しくはないからだ。ノヴァルナはまだ眠気が残っているのか、気だるそうに背中側の首筋を右手でさすり、二人に問い掛ける。
「んで? どこの部隊が動いてるだって?」
「キオ・スー家の部隊です」と応えるマーディン。
「イル・ワークラン向けの威嚇じゃないのか?」
かつては合議制による非独裁政体として発足したキオ・スー家とイル・ワークラン家の二つのウォーダ宗家も、今では双方にとって相手が目障りな存在でしかなくなっている。
それがひと月前の騒動で、イル・ワークラン=ウォーダ家とオウ・ルミル宙域のロッガ家との関係が発覚し、水面下で両家の間は険悪さを増していた。
このような一触即発の今の状況なら、キオ・スー家が何かを目的に部隊を動かしてもおかしくはない。だが今回の動きはそれとは違うようだ。その事をセルシュが口にする。
「いいえ。外郭警備部隊の演習の名目で我がナグヤと、イル・ワークラン家にも通達が出ております」
「ふーん…このタイミングで演習ねえ」
父ヒディラスのナグヤ軍がミノネリラ宙域で大敗してから、およそ三か月経っていた。オ・ワーリ内でもゴタゴタしているが、周辺国が動き出すのもそろそろのはずで、迂闊に部隊を動かしていい時期ではない。ヒディラスやマーディンもその辺りを怪しんで、起き抜けで食事会に向かう前のノヴァルナに、予め声を掛けておいたのである。
「―――確かに胡散臭せぇな。その演習…どこでやるって?」
眠気も晴れてきたらしいノヴァルナが、視線を鋭くし始めて問い質す。
「それが…中立宙域付近です。ミノネリラ近くの」
マーディンが困惑気味に応えると、ノヴァルナは眉を吊り上げた。
「なに?」
ミノネリラ近くの中立宙域といえば、ひと月前にノヴァルナがクーギス家残党と手を組んで、イル・ワークラン=ウォーダ家とロッガ家の合同部隊と戦った辺りである。距離的にはDFドライヴで丸一日といったところだ。
“あの中継はキオ・スー家の連中も見てたはずだが…まさか自分らでもMD-36521星系の戦場跡を調査するわけでもねーだろし、第一、それならわざわざ演習名目で部隊を出す必要もねーし…こいつは、ますます怪しくなって来たぜ”
どういうわけか脅威の香りを嗅ぎ付けるとニヤついてしまう、ノヴァルナの口元が歪む。
「演習実施日は?」
「明日となってございますが…」
と、慎重に告げるヒディラス。こちらはこちらでノヴァルナがまた、突拍子もない事を始めそうなオーラを感じ取ったらしい。そしてその懸念は、次の瞬間には現実となってヒディラスを呆れさせた。
「よし!」
ひっぱたくような口調で声を上げて、ノヴァルナは席を立つ。
「その演習、俺達も見物に行くとすっか!! 支度しろ、マーディン!」
「は、あ…支度と仰せられるは、どのような?」
戸惑うマーディンに、ノヴァルナは“なにを分かり切った事を”とばかりに言い放った。
「足の速い重巡…『ヴァルゲン』型が一隻でいいだろ。護衛の駆逐艦は二隻だな。重巡搭載は俺の『センクウ』に、ランとおまえの『シデンSC』の合わせて三機…って、ランは当然もう城に来てるよな? じゃ、二時間後に出発するぜ。爺、今日明日、明後日の予定は全てキャンセルだ」
「に、二時間後でございますか?」声を揃えるヒディラスとマーディン。
「たりめーだ。なんだっておまえらは毎回そんな顔しやがる? 敵に奇襲喰らったら、二時間なんてもんじゃ済まねーだろが!」
見物と言いながら、BSHOやBSIまで搭載した重巡と駆逐艦で出掛けるなど剣呑この上ない。そしてノヴァルナが命じた通り、およそ二時間後には、この危ない見物客達は惑星ラゴンを離れ、星の海に滑り出して行った………
▶#04につづく
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる