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第5話:逆転! 海賊討伐(後編)
#18
しおりを挟むオートモードにした『センクウNX』を起動させて、戦闘可能状態まで持って行く素早さは、先日の惑星ラゴン上空で傭兵と戦った際にも見受けられた、ノヴァルナが人知れず訓練を繰り返して会得した特技の一つだった。
ノヴァルナはさらに切っ先鋭くポジトロン・パイクの斬撃を放ち、カダールは怯懦の表情を浮かべて、Qブレードでどうにかそれを受け止める。するとノヴァルナは一気に『セイランCV』との間合いを詰めて出力を上げ、その胸部に肘打ちを喰らわせた。
「ぬがぁあっ!」
叫び声を上げて吹っ飛ばされるカダールの『セイランCV』。ノヴァルナはパイクを構えた『センクウNX』を、ランのASGULに寄り添わせて映像通信を送った。
「ケガはねぇか!?!」
「ノヴァルナ様…」
画面の中でランを横目に見るノヴァルナは、いつもと変わらぬ不敵な笑みで語りかける。
「俺のために命を捨ててくれるってんなら、ラン。それは今じゃねえし、こんな場所でもねえ」
それは愛の告白といったロマンティックな言葉ではない。だがラン・マリュウ=フォレスタにとっては、ノヴァルナを想う自分という存在の全てが満たされていく言葉であった。
「おまえの死に場所はちゃんとした…後世に残るようなヤツを、俺が用意してやる!」
「…は………はい!!!!」
四つ年下の主君の横顔を見詰めるランは、細めた目に光るものを湛えながら頷く。とその時、満を持していたかのように、『ヒテン』からノヴァルナに連絡が入った。
「殿下。準備完了です」
それに対しノヴァルナは「よし。やれ!」と応じ、その笑みを悪だくみをする時の人を喰ったものへと変化させる。そして『センクウNX』の通信回線を『ヒテン』とリンクした。すると同時に『ヒテン』から、若い女性の声で奇妙な放送が始まりだす。
「はぁーーーい。みなさん、おはようございますの、こんにちはの、こんばんは。銀河を結ぶ大人気NNLサイト、ニヤニヤ動画の超空間ニュースのお時間でーす!」
少々軽妙過ぎる言い回しで始まったその放送は、一国の総旗艦となるだけの能力を持つ『ヒテン』の電子戦及び通信機能を活用し、この戦場にいる個々の機体の通信回線にまで割り込むと、強制的に映像を送りだした。どうやら放送自体を『ヒテン』の中から発信しているらしい。
呆気に取られるカダール達をよそに、割り込んだ映像通信の画面に、見た目はヒト種と変わらないが、金髪で頭に蟻のものと似た二本の触覚を持つ、アントレム星人の若く可愛らしいい女性が、どこかの広い指令室のような場所をバックに姿を現した。おそらく『ヒテン』の艦橋だ。
「はい! というわけで本日はNNL超空間ニュース、オ・ワーリ支局の人気レポーター、わたくしプリム=プリンが、ナグヤ=ウォーダ家の全面協力のもと、宇宙戦艦『ヒテン』に同乗させて頂いておりましてですね。特別企画として、オ・ワーリ宙域辺境部をこのところ荒らし回る、宇宙海賊の殲滅作戦を今から生中継いたしまーーーす!!!!」
それを聞いた討伐部隊だが、放送が何を言っているのか全然理解出来ない。敵であるはずの戦艦『ヒテン』が海賊討伐とはどういう意味なのか…ただ、放送自体は確かに生放送中であるようだ。その証拠に、ニヤニヤ動画特有の視聴者からのリアルタイムの書き込み文字が、画面の上を走り始めた。
はじマタ!……プリムちゃんキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!……ちょ、海賊てマジ?……
プリムたん(*´Д`)ハァハァ……生プリプリや……生中継?……それよりプリンの生脱ぎはよ…
そしてレポーターのプリム=プリンは、『センクウNX』に乗るノヴァルナを紹介する。
「この作戦はですね。今回なんと、あのナグヤのノヴァルナ殿下が、ご自分のBSHOで出撃されて、指揮を執っておられてましてですね―――」
カラッポ殿下wwww……カラッポwww……WWWWW……イミフ王子じゃねーかw……
一気に嘘臭くなったwww……え?妹たんと遊びに行ってるんじゃ……また道楽かよ!……
「―――それではカメラを切り替え、BSHOに乗っておられるノヴァルナ殿下に、お言葉を頂きましょう。ノヴァルナ殿下ーー!!!!」
呼び掛けられたノヴァルナは、待ってましたとばかりに『センクウNX』で、戦艦『ヒテン』を背後に大見栄を切り、コクピットの中の映像と組み合わせて芝居じみた口上を述べ始めた。しかもいつも間にか、ちゃっかりとヘルメットまで脱いでいる。
「おうおう! オ・ワーリの宇宙を荒らす悪党ども恐れ入れ!! この俺ナグヤのノヴァルナが、シズマの恒星群はクーギス一族の助力を得! いずくの者とも明かさず暴れるてめえらを、今宵一網打尽にしてやるぜ! さては身の終わりと、覚悟しな!!」
思わず言葉の端々に拍子を入れたくなるような、小気味のいいノヴァルナの口上であった。だがその中身はつまり、ノヴァルナ側こそがこの宙域で宇宙海賊を討伐している、という真逆の話である。
「馬鹿め。なにがオ・ワーリの宇宙だ! 中立宙域に家紋を描いたまま、艦を入れ―――」
そう言い放ちかけたカダールだったが、ハッ!と何事かに気付いて、コクピット内に戦術ホログラムを立ち上げた。そして今、自分達のいる位置を確認して愕然となる。
いつの間にか自分達は中立宙域ではなく、オ・ワーリ宙域の中にいるではないか!!!!―――
いや…いつの間にかではない。失念していたのだ。何が起きたのか理解したカダールの、操縦桿を握る手がわなわなと震える。
彼等のいるMD-36521星系は中立宙域の端、オ・ワーリ宙域との境界面ギリギリの位置にあり、一部の惑星…つまり外側を回る第5惑星と、第4惑星は公転軌道の一部が、オ・ワーリ宙域の中に食い込んでいた。これはこの星系に来る前にカダールも宇宙地図で指摘していた事である。
それが第5惑星圏でノヴァルナ達と戦っている間に、公転している惑星はオ・ワーリ宙域内に進入していたのだ。第5惑星との相対位置を基準に行動していたカダールは、ノヴァルナの繰り出すデタラメな作戦にばかり気を取られ、オ・ワーリ宙域の中に入った時の事を考えていなかったのであった。
そしてノヴァルナの戦艦はオ・ワーリの家紋を描いて、同家の識別信号を出しており、中立宙域での活動を想定していた自分達は何の家紋も描いておらず、識別信号も出していない!!!!―――
するとそれを思い知らせるかのように、カダールの目の前に浮かぶ戦術ホログラムで、まずノヴァルナの『センクウNX』に『流星揚羽蝶』の家紋が表示され、次いで海賊達の船や攻撃艇と、『ホロウシュ』の乗るASGULの全てに、中心に一つとそれを円形に囲む六つの星を示すクーギス家の家紋、『七曜星団紋』が一斉出現した。識別信号を発信しだしたのだ。
今の放送でノヴァルナがクーギス家と協力していると宣した事で、もはや彼等がオ・ワーリ宙域で素性を隠す必要はない。その一方でカダールの元に、『ジルミレル』の側近から狼狽した声で通信が入る。
「カッ! カダール殿下! 我等はいったい、どうすればよろしいのですか!!??」
何か対策を―――、そう思いかけたカダールだが、ノヴァルナはそんな猶予を与えなかった。
「いくぜ!! 海賊野郎!!!!」
少々わざとらしく叫ぶと超電磁ライフルを構え、カダール機目がけて二発、三発と撃ち放つ。その照準は微妙にずらされており、カダール機に命中はしないが、傲慢な宗家の嫡男に宇宙空間で無様なダンスを踊らせた。
「むぁ! 馬鹿な、我等は海賊ではないぞ!!」
全周波数帯で呼び掛けるカダールだがノヴァルナは応じない。カダールが『クーギス党』のモルタナの降伏申告を拒絶した事の、意趣返しのようでさえある。
そしてノヴァルナからの返信の代わりに、通信回線に割り込んだままのレポーターのプリム=プリンが実況を始めた。
「おおーっと! ここでノヴァルナ殿下、海賊のBSHOと思われる敵に攻撃開始です!」
そうだ!この女に話せば!―――そう閃いたカダールは、ヘルメット内の通話マイクに、「おい。女! 聞け!」と喚くように言う。しかしプリム=プリンからは何の反応もなく、その間にノヴァルナの『センクウNX』が吶喊して来てQブレードを起動させ、斜め下から斬り掛かる。
「ぐく!!」
反射的にポジトロン・パイクで受け止めたカダールだったが、ノヴァルナの剣圧に押され、思わず後ずさった。そして戦場で相手のそんな怯みを見逃さないのがノヴァルナである。さらなる斬撃を連続して放ち、それを防ぐのが精一杯のカダール機を前蹴りで突き放す。
「ぐはッ!!!!」顎を上げ、呻くカダール。
「ノヴァルナ殿下、お強い!! 敵はフルボッコです!!!!」
とプリム=プリンの実況。画面ではそれに視聴者の無責任な書き込みが被さる。
馬鹿息子つえーwww……カラッポやるなあ……殺し合いしてるのに不謹慎すぎるだろ……
殿下大暴れww……ヤラセだろ……いいぞもっとやれ……それよりプリンの生脱ぎはよ……
引っぺがして距離を開かせたカダール機に、ノヴァルナは素早く超電磁ライフルを向けて射撃した。超高速の弾丸は、カダール機の手にしていたポジトロン・パイクを弾き飛ばし、宇宙の彼方へ奪い去る。
“いかん! このままではいかんぞ!!―――”機体のスペック的には同程度のはずが、一方的に攻め込まれてカダールは顔を引き攣らせた。まるで死神にでも撫でられたかのように、背中に冷たいものが流れる。
▶#19につづく
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