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第3話:宗家の陰謀
#07
しおりを挟む座礁していた岩塊ごと破壊された、海賊船の破片が無残に漂う、空洞準惑星アコリスの衛星軌道………
「お見事でした。カダール様」
ヘルメット内のスピーカーが、側近の追従口を伝える。
「なにが見事なものか。動かぬ目標相手に」
青銀色のBSHO『セイランCV』のコクピットで、全周囲モニターの前面を見据え、忌ま忌ましそうに応じたのは、カダール=ウォーダ。イル・ワークラン=ウォーダ家当主、ヤズル・イセス=ウォーダの嫡男であった。
カダールの年齢は22才。ウォーダの一族は美男美女が多いが、カダールの細身で鋭角的な顔立ちは、美男という以上に、どこか酷薄さを感じさせる。
カダールの機体の背後には、重巡航艦クラスの宇宙艦が控えていた。さらにその両側に駆逐艦クラスがニ隻ずつ従っている。
艦隊はいずれも、家紋や艦識番号などを消してはいるものの、『ラーフロンデ2』を護衛していた、キルバルター家の旧型駆逐艦と違い、オ・ワーリ宇宙艦隊の『スラゲン』型重巡航艦と、同じく『ヴァルル』型駆逐艦である事は、宇宙艦に詳しい者であれば一目瞭然だ。
“このようなつまらぬ仕事を、俺に押し付けおって…”
カダールは動けぬ海賊船を、いたぶりながら破壊した超電磁ライフルを、機体のバックパック横にあるハードポイントに納め、「チッ!」と舌打ちした。
このところの、度重なる『クーギス党』の航路便襲撃で、イーセ宙域からオウ・ルミル宙域への、イル・ワークラン=ウォーダ家による水棲ラペジラル人輸送は、特に先月来、予定の60%に届かない事態に陥っている。
無論サフロー行きのどの船に、ラペジラル人を積むかの秘匿には、手を尽くしているのだが、イル・ワークラン内にいると思われる『クーギス党』協力者は巧妙で、その洗い出しに、手を焼いているのが現状であった。
それならば、『クーギス党』を直接殲滅した方が早い…業を煮やしたイル・ワークラン当主のヤズルは、自分の息子のカダールに命じ、無印の艦隊を与えて、中立宙域のベシルス星系へ派遣したのである。
これは勿論、中立条約を結んだオウ・ルミル宙域の星大名、ロッガ家とも合意済みだった。やや遅れて、ロッガ軍からも無印艦隊が到着する手筈となっている。程なくこの宙域は、宇宙海賊狩りの巨大な狩場となるであろう。
海賊殲滅の陣頭指揮。しかしカダール=ウォーダは、その任務に不満たらたらだった。このような事、イル・ワークラン宗家の嫡男が、わざわざ出向くほどのものなのか…という思いが、胸の中で渦巻く。
実はカダールは一年前にも、同様の任務を与えられ、囮を使っておびき出した『クーギス党』と交戦していたのだ。
その時は『クーギス党』の保有していた、数少ないBSIユニットをほぼ壊滅させたものの、『クーギス党』の根拠地が不明であったために、根絶やしにする事は出来なかった。
今回、再び陣頭指揮を執るために派遣されたのは、その時の不始末の処理をさせようという意図が、父親のヤズルにあるのをカダールも理解していた。だがやはりそれでも不満は不満だ。
その不満にはカダールの父ヤズルが、イル・ワークラン=ウォーダ家の後継者を、明確にしていない、という事実も関係していた。
カダールには父ヤズルの『クローン猶子』で、カダールの弟の位置を与えられた、20才のブンカーがいるが、近頃のヤズルは、嫡男であるカダールより、自分のクローンであるブンカーの方を、人物的に評価しているような気配があるのだ。
無論クローンと言っても、生育環境の違いで、ヤズル本人と全くの瓜二つに成長するわけではない。特に性格面では内面はともかく、表向きは全く別人格となる場合も、珍しくはなかった。
それを加味した上で、ヤズルが息子よりクローンを評価しているとなれば、カダールにとっては、なおさら面白くなくて当然だ。
ちなみに、ノヴァルナのナグヤ=ウォーダ家にも、やはり父ヒディラスの『クローン猶子』で、ノヴァルナの兄として位置づけされた28才のルヴィーロが存在する。
そしてノヴァルナ自身にも、すでに『クローン猶子』の子供が三人もおり、“ヴァルターダ”“ヴァルカーツ”“ヴァルタガ”がそれぞれ、12才、11才、10才となっていた。
ただナグヤの場合は継承権は明確で、嫡男優先となっており、ノヴァルナが事実上の長男として第一継承権を持っている。
武功を挙げれば大々的に発表され、周囲に実力を認めさせられる、戦場の任務とは違い、奴隷の中継貿易の障害を、目立たないように排除するという汚れ仕事に、自分は父に軽んじられているのではないか…カダールは、ベシルス星系の恒星である赤色巨星、『スラベラ』に目をやりながら考えた。
カダール率いる海賊討伐艦隊の活動は、ベシルス星系へ転移直後、ロッガ家の『ラーフロンデ2』護衛部隊が海賊船を一隻撃破、一隻拿捕したと通報して来た、空洞準惑星アコリスへ向かい、岩塊にめり込んだ状態で超空間通信を行っていた、別の海賊船を発見したところから始まった。
カダールは、自ら専用BSHO『セイランCV』で発進。任務への不満の腹いせに、動けない海賊船の、まず通信機能を奪い、超電磁ライフルで船体を少しずつ削るように、破壊したのだった。
「海賊船を捕らえた駆逐艦は、今どこにいる?」
カダールは操縦桿を操作し、『セイランCV』を、背後の重巡航艦へ帰還させながら尋ねる。
「はっ。現在、第六惑星サフローの駐屯地に向けて航行中です」
「到着予定は?」
そう言ったカダールが、『セイランCV』からシグナルを送ると、重巡航艦下側の着艦口がゆっくりと開き始めた。
「…あと三時間ほど後かと」
「よし。我々もサフロー駐屯地へ向かう。俺が合流するまで、捕らえた連中を尋問するのは、待たせておけ」
「御意にございます」
カダールの機体が、重巡航艦の中へ姿を消す。やがて艦隊は、斜め右上に緩やかなカーブを描きながら動き出し、惑星サフローの公転軌道へ向けて遠ざかって行った………
「奴らのその企て、俺がぶっ潰してやるぜ!!」
突拍子もないノヴァルナの言葉に、モルタナ達『クーギス党』だけでなく、キノッサやイェルサスをはじめとする、ノヴァルナの仲間達までもが、口をポカンと開けた。
唯一驚かなかったのはランだけだが、その代わり“また始まった…”とばかりに、頭痛でも起きたように首を傾げ、指を額にやる。
「ちょっ!…ちょっとあんた!何言い出すのさ!?」
最初に我に帰ったモルタナが、言葉に詰まりながら問い質した。
「何って、言った通りだぜ。奴らの企みをぶっ潰す!…はい。大事な事なので、二度言いましたっと!」
「いや、だから。いがみ合ってるとは言え、あんたは同じウォーダの一族を、真正面から敵に回して戦うつもりなのかって、話だよ」
“遅かれ早かれ、そうなるけどな…”と、胸の内で言いながらも、ノヴァルナは別の言葉を口にした。
「そいつは成り行き次第さ」
そう言ってノヴァルナは、オリーブグリーン色をしたジャケットのポケットに両手を突っ込み、モルタナに尋ね返す。
「んで、ねーさんはどうすんだよ?さっきの通信だと、奴らは本気でねーさん達を、潰しにかかったみたいじゃねーか?」
ノヴァルナ達のいる船倉に置かれた、水棲ラペジラル人を詰めたコンテナは、およそ二百基。
それぞれのコンテナ一基に六人のラペジラル人が入れられているとして、『クーギス党』は合計で、約千二百人のラペジラル人を、相手から奪った事になる。少なくない人数だ。この人数をどれだけの期間で奪ったかまでは聞いていないが、相手が『クーギス党』壊滅に本腰を入れるには充分だろう。
すると再び、ヨッズダルガが割って入り、がなり立てた。
「てめぇ!さっきから、好き放題言いやがって!!図に乗るんじゃねぇ!!!!」
「ふふん!だったら、どうするってんだ!?」
「決まってんだろ!てめぇは人質だ!!てめぇの命と引き換えに、俺達に手を出さねぇよう…」
「そいつは無意味だ!!」
ノヴァルナはヨッズダルガが言い終わらないうちに、ピシャリと告げる。
「むさいオヤジのくせに、とんだ甘ちゃん海賊だぜ!!イル・ワークランの奴らが、そんな交換に応じるわきゃ、ねーだろ!」
「なんだと、このガキ!命が惜しくねぇってのか!?」
そう問われたノヴァルナは、幾分胸を反らせて、傲然と言い放った。
「いーや!! 惜しいね!!!! 惜しいから、そんなつまらねー交換に使われるのは、ご免だって言ってんだよ!!!!」
「こっ!このクソガキがぁっ!…だったら今すぐ、ぶっ殺してやるぜ!!!!!!」
そう怒鳴って殴り掛かろうとするヨッズダルガに、モルタナが立ちはだかるが、その目は異様に座っている。そして開いたその唇から放たれた声は、近付きつつある遠雷を想わせた。
「親父…あんた、本当にいい加減にしないと…」
「う!!」
モルタナの様子の変化に、ヨッズダルガが明らかに怯んだ表情になり、カーズマルスも、冷たいものが背中を流れたような顔になる。おそらく彼等には、モルタナを本気で怒らせてはいけない、という共通認識があるのだろう。
モルタナは一つ大きなため息をついて、ランに振り向き、意味深な目をしつつ表情を和らげた。
「ったく…これだから男どもは。ねえぇ?」
「…は?…え、ええ」
モルタナから、単なる好意以上のものを寄せられているランは、僅かに後ずさりしながら作り笑いをする。
続いてモルタナはノヴァルナに向き直り、真顔で確認した。
「ところで、にーさん。本気なんだね?」
「おう!」
イル・ワークラン=ウォーダ家が、ラペジラル人奴隷の中継貿易で得た資金で、傭兵惑星サイガンから、先日のキオ・スー城を奇襲しようとした傭兵部隊を雇い入れた事を、カーズマルスから聞かされた時点で、ノヴァルナの腹は決まっていた。
モルタナ達『クーギス党』が、故郷の海洋惑星ディーンに暮らす、ラペジラル人を見捨てた事への、落し前をつけるというなら、自分は身内がいたキオ・スー城を襲撃された、落し前をつけなければならない。尤も、キオ・スー=ウォーダ家自体は、すでにノヴァルナにとって滅びようとも、守る価値のないものだったが。
「わかった。ここは一つ、手を組もうじゃないの!」
思いのほか軽く言うモルタナに、ヨッズダルガが血相を変える。
「おいモルタナ!ウォーダのガキなんかを、信用する気か!?」
するとモルタナは前を向いたまま、人差し指を立てた腕を、斜め後ろにいるヨッズダルガに突き出し、黙らせた。そしてノヴァルナに人の悪い笑顔を向ける。
「もちろん。百パーセント、にーさんを信用したワケじゃあない。あんたらの中の誰か一人を、人質に預けてもらおうじゃないか!」
それを聞いてニヤリと白い歯を見せたノヴァルナは、ランの手をとった。赤面したランを引っ張ると、前面に送り出す…モルタナの目の前に。
「え?」と目を丸くしたランは、自分が人質に出された事に気付き、「えええーっ!!」と、普段は出さないような声を上げると、困り顔でノヴァルナに振り返った。
「あ、あのっ!ノヴァルナ様…」
「コイツで文句ねーだろ?」
ノヴァルナは訴えるような目のランを放置し、モルタナに告げる。
「ああらぁ~!よく分かってるじゃないの~!」
大喜びのモルタナは急に女性的な声になり、“こっちにおいで”とばかりに、ランに向けて両腕を広げた。
「よし、ラン。命令だ。行け」
『ホロゥシュ』のラン・マリュウ=フォレスタにとって、主君ノヴァルナの命令は絶対である。
そのランは誰が見ても“トホホ…”と、彼女の心の声が聞こえて来そうな浮かない顔で進み出て、モルタナに両肩を抱きとめられた。“さっきは俺のだって言って下さったのに…ノヴァルナ様の嘘つき”と、恨めしげにノヴァルナを横目で睨む。
褐色の肌のモルタナは、黒いスカートスーツ姿のランを、ノヴァルナ達に振り返らせて、後ろから抱き留めたまま、その白い首筋に唇を近づけ、誘うような流し目が妖艶な表情をノヴァルナ達に向ける。
「ふふ…もし、にーさんがあたいらを裏切ったら…この子は、あたいの好きにさせてもらうよ」
挑発的なその妖しい情景に、ノヴァルナの背後にいた純朴なイェルサスは、顔を真っ赤にして棒立ちとなり、ハッチは「やべ、鼻血が…」と手で鼻をつまみ、キノッサも「こりゃマズい…」と上体をかがめて、背中を向けた。
一方のノヴァルナは動じる事もなく、不敵な笑みで、当たり前のように応じる。
「おう!煮るなり焼くなり、嫁にするなり、好きにしろ!」
そう言いきるノヴァルナに、モルタナは「あんたにゃ、負けたよ」と肩をすくめた。
「で、どうすんだい?あたいらにゃ、貨物船や旅客船を襲撃出来ても、正直、奴らとまともに戦えるだけの戦力なんて無いよ。裏をかく手を考えないとね」
聞けば『クーギス党』の全戦力は、海賊船として使用している、旧シズマ恒星群防衛隊の宇宙魚雷艇が9隻(ただしノヴァルナの妹達が奪った1隻と、撃破された2隻が抜け、実数は6隻)に、数光秒離れた位置にいる中型宇宙タンカーを母艦にした、簡易BSIユニットのASGUL(Aerospace Strategy General Unit of Legionnaire)が8機と、宇宙攻撃機6機だけであった。
「何はともあれ情報でしょうな。奴らがどれだけの戦力を投入して、誰が指揮を執ってるのか、探る必要がある」
そう言ったのはカーズマルスである。寡黙気味な男だが、ノヴァルナと手を組むのには前向きのようだ。ノヴァルナはカーズマルスの言葉に同意して告げる。
「おそらく奴らは、作戦前にサフローの駐屯地に集まるはずだ。俺達はまず情報収集と仲間の救出に、駐屯地に向かう」
「でも、どうやるんスか?」
ヨリューダッカ=ハッチが、緊張気味に尋ねた。ランを人質に差し出したために、ノヴァルナを守れる『ホロゥシュ』は、自分一人だと気負い込んでいるようだ。
「その前にモルタナのねーさん…あんたら、外の旅客船をどうするんだ?」
「いつも通りさ。コンテナはこっちに移したし、ベシルス星系へ送り返すよ。乗員乗客に危害を加える気はないからね」
問われて応じたモルタナの言葉に、ノヴァルナは訝しげな顔で首を傾げる。
「いつも通り?それでなんで、大きな事件にならねーんだ?普通、捕まった客達が話を広めるだろ」
ノヴァルナが疑問に思うのも、当然であった。
船倉に来るまでにモルタナから聞いた話では、イル・ワークラン=ウォーダ家が、水棲ラペジラル人を眠らせたコンテナの輸送に使用している宇宙船は、貨物船から旅客船まで様々で、『クーギス党』がそれらを襲撃して成功するのは、3割ぐらいの確率らしい。
しかし3割程度とはいえ、捕らえた船には今回のように乗員や乗客が、少なからずいる。彼等をそのまま送り返していれば、海賊の話が広がっていていいはずである。
それがニュースになるどころか、噂にすらならないとは不思議な事だ。事実、ノヴァルナも旅行前に、ベシルス星系についての情報は集めたのだが、宇宙海賊の出没情報は全く無かったのだ。
その疑問に対し、モルタナは明解に答えた。
「ああ、それなら…連中、乗客達の記憶を消してるのさ」
「記憶を?」
「あたいらが船を襲った時から、惑星サフロー付近までの記憶を全てね。中立宙域にあるサフローの観光施設は、皇国直営の貴重な収入源だから、変に刺激して、朝敵に認定されたくはないのさ」
「なるほど。朝敵に認定されりゃあ、皇国の敵として権利を全て奪われ、普段は認められない暴行略奪も、戦って勝った者の、思いのままだからな」
「ま、その点じゃあたいらも同様だし、変な話…そこら辺は奴らと、暗黙の了解って事になっててね。用が済んだ船は、すぐに送り返してるんだよ」
「しかし記憶消去とはまた、大掛かりな話だな」
「そうでもないさ。簡単な検査とか言って乗員と客を何人かずつ並ばせ、予め消去時間をセットした、消去デバイスのビームを当てるだけらしいからね。『ラーフロンデ2』クラスの船には三百人ほど乗ってるようだけど、一時間ほどもあれば完了してるみたいだよ」
するとノヴァルナとモルタナの話に、キノッサが「そりゃ変だ」と、不意に口を挟んで来た。
「ベシルス星系外縁から第六惑星サフローまでは、『ラーフロンデ2』の重力子ドライヴで、五時間半ほど掛かるんスよ」
「それがどうした?」
「いや、だから…船が襲われてから、もう二時間は経ってるっス。今から送り返して単に乗客達の記憶を消しても、時間の経過の誤差に矛盾が生じて、気付く人間が出そうなもんスが」
「む………」
キノッサにそう言われて、ノヴァルナは考える目をした。
確かにキノッサの疑問は正しい。消去された時間分の記憶が抜けたまま、再び星系外縁部から五時間半かけてサフローに着いても、現地の時間と誤差が生じて、不審を抱く者が続出するはずで、それが元で大きな騒ぎになれば、銀河皇国も動き出さざるを得ない。
「その辺は、あたいらもよく分からなくてね…情報統制とか…まさかねぇ」
モルタナもそう言って首を捻り、キノッサが言葉を続ける。
「星系内で超空間航法なんて、出来ないっスからねぇ…」
重力場の影響を受け易い、超圧縮重力子転移航法…いわゆるDFドライヴは、多くの惑星が公転し、重力場均衡を保つ星系内で使用は出来ない。航路が歪み、予測不能の宙域にランダムで転移してしまうからだ。
しかも最悪の場合、DFドライヴを使用した星系内の惑星の、公転軌道まで変えてしまう事すらある。
このためDFドライヴは、星系外縁部間に限られていた。超空間ゲートが星系外縁部に設置されているのも、これが理由だ。
そして星系内の目的惑星へは、通常の重力子航法による、光速の30パーセントまでの速度で、移動するのが決まりだった。そのせいで恒星間転移は数秒で済むが、惑星間航行は長時間かかるという、奇妙なシステムとなっているのだ。
その“光速の30パーセントまで”と言うのは、それ以上の速度を出すと、重力子フィールドが緩和していた、『相対性理論における、加速と時間のズレ』が、時間の波となって突然始まるからである。
ノヴァルナは腕組みして、思考を巡らせた。その辺りに乗員乗客に対し、単純に記憶消去のみで済ませられる、ヒントがあるように思えるのだ。
その時イェルサスが、ふと冗談で思い付いた事を口にする。
「タイムマシンでも、作ってたりして」
無論タイムマシンなど、実際に開発は不可能だ。しかしその言葉を聞いたノヴァルナには、脳裏に閃くものがあった。
「ふふん!そういう事か…」
自分の推理が正しければ、妹達を助け出し、敵の情報を探る手段にも使えるはずだ。全員の視線が注がれる中で、ノヴァルナは胸を反らせて言い放つ。
「どうやら…イル・ワークランどもを出し抜く手が、見つかったみたいだぜ!」
やがて『クーギス党』の母船である、巨大な宇宙タンカーは、ゆっくりと移動を始めた………
▶第4部につづく
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