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第22話:大いなる忠義
#13
しおりを挟む「ノヴァルナ様!」
タイミングを見計らったランが、対艦ランチャーを投げ渡す。
「おう!」
ノヴァルナの『センクウNX』は、右手でポジトロンパイクをクルクルと二回転させて、ウエポンラックへ戻すと同時に左手でランチャーを受け取り、トリガーを引く。
エネルギーシールド貫通機能のある対艦誘導弾が三発、等間隔に『ギョウガク』を直撃した。後続するランとササーラの『シデンSC』も、散開しながらランチャーを撃つ。その直後、九発の誘導弾を喰らった『ギョウガク』は巨体を震わせた。火柱を噴き出した外殻が明るく照らされ、鯨がのたうつようにあらぬ方向―――ムラキルス星系第八惑星へ向け舵を切る。操舵系が麻痺したのだろう。艦体のエネルギーシールドも喪失したようだ。
『ギョウガク』を航過したノヴァルナは、他艦からの迎撃砲火を躱しつつ、その様子を観察した。
やはりこの戦いに、セッサーラ=タンゲンはいない―――
ノヴァルナは対戦した総旗艦『ギョウガク』の、いやイマーガラ軍全体の脆さからそう感じた。飛び交う味方の通信状況を聞いただけでもそれが分かる。内容のほとんどが、味方の優勢を伝えるものだからだ。
“もしかしたら『ギョウガク』で、俺をおびき出す作戦かとも疑ったんだがな…”
タンゲンが死去、または重篤でこの会戦に関わっていないとしても、専用艦の『ギョウガク』がいるのを知れば、自分が喰い付いてくると踏んで、さらなる罠を用意している可能性も考えたノヴァルナだったが、ここまでの間にそのような動きは見られなかった。
「だったら取りあえず、あれをぶっ潰すか!」
ノヴァルナは独り言ちながら、『センクウNX』に対艦ランチャーを放り出させる。そして超電磁ライフルの弾倉を対艦徹甲弾に交換すると、それを掴み取り安全装置を外した。
「ウイザード02と03は、あのデカブツの迎撃火器を破壊しろ!」
「御意!」
ノヴァルナの命令で、ランとササーラの機体が果敢に『ギョウガク』へ突撃し、反航と同航を繰り返しながらライフル弾を撃ち込む。さらにそれに続いたノヴァルナが、『ギョウガク』が防御用に並べた七枚のアクティブシールドを掻い潜り、宇宙艦のアキレス腱である重力子ノズルに銃弾を浴びせた。すると左舷側のノズルが割れて弾け飛び、『ギョウガク』の制御不能はますます酷くなる。
多数の対艦徹甲弾を撃ち込まれ、さらに針路が変わった『ギョウガク』が向かった先にあったのは、馬蹄形をしたイマーガラ軍の宇宙要塞だ。しかし宇宙要塞と言ってもこれまでのところ、ナグヤ・モルザン・ミズンノッド連合艦隊に対して僅かに対艦誘導弾を撃って来たぐらいで、ほとんど戦闘に参加していない。予想以上に完成度が低いらしい。
漂流同然の『ギョウガク』は六百メートル以上ある長い艦体を、馬蹄形宇宙要塞の右側中ほどに激突させた。宇宙空間の出来事であって実際に音はしないが、『ギョウガク』の艦体がバキバキバキ…と音を立てる感じで、宇宙要塞にめり込んでいく。呆れた事に宇宙要塞はエネルギーシールドすら展張していなかったようだ。
『ギョウガク』は宇宙要塞の一部を押し潰しながら、ぐるりと大きく一回転した。そこに護衛の戦艦や巡航艦が、慌てた様子で群がりだす。明らかにイマーガラ軍は動揺していた。この好機を逃す手はない―――そう考えたノヴァルナは、『センクウNX』の通信回線を全周波数帯に切り替えて、敵味方関係なく言い放つ。
「今だ! 全艦隊突撃!! イマーガラの連中を叩き潰せ!!」
ノヴァルナが全周波数帯で発信したのは、敵に敢えてこちらの意図を聞かせるためだ。動揺しているところにさらに圧力をかける、心理的な狙いがあったのである。
その効果はてきめんだった。総司令官ノヴァルナに扇動されたナグヤ側は、一気呵成にイマーガラ軍へ襲い掛かり、ノヴァルナの言葉で動揺の度合いを深めたイマーガラ軍は、無秩序かつ全面的に崩れていく。
「アッハハハハハ!!」
やがてイマーガラ艦隊は、散り散りに宇宙要塞から離れ始めた。どうやら要塞を放棄するらしく、その不様な光景にノヴァルナは高笑いを投げかける。約三ヵ月前のモルザン星系攻防戦では、皇国暦1589年のムツルー宙域から帰還したばかりだったノヴァルナとノアの活躍、それにミョルジ家の皇都侵攻のタイミングが上手く重なり、辛うじて追い返す事に成功したイマーガラ軍を、セッサーラ=タンゲンがいないとは言え、今回は正面から戦って圧倒したのだから、ノヴァルナの気持ちが高揚するのも当然だ。
「イマーガラの兵は強兵と聞いたが…どうした、この程度かよ!!」
『センクウNX』に立ち向かって来る攻撃艇を、すれ違いざまにポジトロンパイクで両断して、ノヴァルナは傲然と挑発する。
「爺!」
対艦徹甲弾の尽きたノヴァルナは、通信回線で第2艦隊旗艦の『ヒテン』で軍の指揮を補佐する、後見人のセルシュを強い口調で呼び出す。
「はっ!」
「攻撃を敵の第2艦隊に集中しろ。『ギョウガク』だけは逃がすな!」
「御意ッ!」
セッサーラ=タンゲンがここに居ようが居まいが、そして生きていようが死んでいようが関係ない。トーミ、スルガルムそしてミ・ガーワをも支配する、現在のイマーガラ家の隆盛はひとえに、宰相タンゲンの存在にあった。であるならば、タンゲンの専用艦『ギョウガク』を撃破するのは、タンゲンの首を討ち取ったのと同等の意味がある。その象徴的かつ心理的効果を狙ったノヴァルナの主君としての命令である。その点では、セルシュもノヴァルナの意図を正確に理解していた。
「全艦、敵第2艦隊旗艦へ、攻撃を集中せよ!」
セルシュの命令で、混乱の内に敗走を始めたイマーガラ軍の、第2艦隊周辺に砲火が集中する。炸裂する閃光が『ギョウガク』を中心に、無数に花開き、護衛に付く幾つかの戦艦が引き裂かれた。
ここでも特に奮戦したのが、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダ率いるナグヤ第3艦隊だ。足の速い巡航戦艦中心の第3艦隊は、快足をとばして敵の退路に立ち塞がると、ありったけの砲火と雷撃を加えたのである。
無論、逃走を図るイマーガラ軍も、生き延びるために必死に反撃する。双方とも恐ろしい勢いで損害が増大した。ルヴィーロの旗艦『バンカルド』も『ギョウガク』に同航戦を挑み、三発の主砲弾を直撃されて速度を落とす。だがそれで力尽きたのは『ギョウガク』の方であった。後方からセルシュの第2艦隊の主砲射撃を集中され、アクティブシールドの遠隔操作では防ぎきれない量の砲撃を浴びたのだ。
幾ら総旗艦級の巨大戦艦でも、限界を超えた攻撃に耐えられないのは同じであった。総員退艦命令が出たらしく、艦のそこかしこで脱出ポッドの射出が開始された直後、艦腹を喰い破る火柱が四つ、五つと噴き出して『ギョウガク』は大きな閃光に包まれる。イマーガラ家宰相専用艦の最期だ。その光景を見たナグヤの将兵達から、期せずして鬨の声が上がる。
「アッハハハ!」
ノヴァルナの高笑いが再び響くと、勢いづいたナグヤ連合艦隊はさらに攻勢を強め、潰走するイマーガラ軍をムラキルス星系外縁部まで追撃、さらに戦果を拡大させたのであった。
▶#14につづく
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