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第22話:大いなる忠義
#12
しおりを挟むノヴァルナの突撃に対し、三機の『トリュウCB』が超電磁ライフルを撃って来る。だがその照準は的外れで、ノヴァルナ機の左右百メートル程の位置を通過して行った。相手の照準センサーではロックオン出来ているのだが、電子妨害ナノマシンの影響で実際には相当な誤差が生じているのだ。
「駄目だ、当たらん!―――うわぁッ!!!!」
一機の『トリュウCB』のパイロットは照準の誤差の酷さを口にした直後、ノヴァルナ機からの銃撃をまともに喰らって、機体ごと爆散した。さらに残る二機の至近にまで距離を詰めたノヴァルナは、一機の『トリュウCB』の胸板にポジトロンパイクの刃を突き刺し、返し太刀でもう一機、クァンタムブレードを抜こうとしていた敵機を、左肩のショルダーアーマーの付け根から、袈裟懸けに斬撃を浴びせる。二機の『トリュウCB』は、機体の裂けた箇所から眩いスパークと、大量の電子部品の破片を噴き出して漂流を始める。やがて一機が爆発を起こすが、その時にはすでに付近にノヴァルナ機の姿はない。
その間にも、有利な状況を得た『ホロウシュ』達の攻撃で、イマーガラ家親衛隊は相当数を失っていた。
「センサーだけに頼るな。光学機器の測定値と組み合わせろ!」
「弾幕だ。誤差を見越して敵機の予測針路に、弾をバラ撒くんだ!」
無論、イマーガラ家親衛隊もエリートパイロットの集団であり、早くも対抗策を考えだす。しかしそのために数機ずつ固まった事で、戦闘空間に幾つも穴が開いた。その穴を見逃さず、ノヴァルナは『ホロウシュ』に命じる。
「今だ、てめぇら! 各個に突破しろ!!」
そう言うノヴァルナ自身、スロットルを全開にして、イマーガラ家親衛隊との戦闘空間を抜け出した。主君に呼応した『ホロウシュ』達も、各機がバラバラに散らばった状態のまま飛び去っていく。
ノヴァルナと『ホロウシュ』達のこういった所は、ノヴァルナがナグヤの当主となっても変わらない部分だった。ノヴァルナの身を守る親衛隊であると同時に、単独行動をとっても生き抜ける技量が求められているのだ。
「くっ、馬鹿な。統制もなしに! ともかく追え!」
まるで競争でも始めたかのように、散り散りになって離脱を図るノヴァルナ達に、敵の指揮官は慌てた。ノヴァルナを中心に、一団となって離脱しようとするものだと思っていたからだ。
ノヴァルナ達が再び編隊を組み直す僅かな瞬間を狙い、親衛隊ならではの高い技量を生かして逆襲に転じようとしていたのが、肩透かしを喰らう格好になった、イマーガラ軍の『トリュウCB』達は、すぐに追撃に移ろうとする。
しかしそこに今度はノヴァルナのあとを遅れて追ってやって来た、ヨヴェ=カージェスら残りの『ホロウシュ』が到着、即座に状況を理解し、敵を足止めしようと果敢にドッグファイトを挑んだのである。
「行かさんぞ!」
カージェスの『シデンSC』が猛スピードで距離を詰め、超電磁ライフルを撃ち放つ。その一撃はノヴァルナ達を追いかけ始めたばかりの、一機の『トリュウCB』を後方から撃破した。続いて『ホロウシュ』のジュゼ=ナ・カーガのライフルがもう一機を撃破すると、雪崩を打って突進して来た『ホロウシュ』に対して、イマーガラ軍親衛隊も反撃せざるを得ない。
カージェス達の働きで追撃を振り切ったノヴァルナ達は、イマーガラ軍第2艦隊旗艦の『ギョウガク』を遂に視界に捉えた。周囲に配置された戦艦や巡航艦が、猛烈な迎撃砲火を放ち始める。
同時に『ギョウガク』は右舷へ回頭を行った。退避行動に入ったらしい。ノヴァルナは迎撃砲火の激しさに、ひゅう!…と軽く口笛を吹いて操縦桿を右へ左へ忙しく動かす。
「てめぇら、当たるんじゃねぇぞ!!」
不敵な笑みでそう言い放ち、機体をロールさせながら、連続して超電磁ライフルを撃つノヴァルナ。その全弾が、『ギョウガク』を庇う形で回頭していた、戦艦の重力子ノズルに穴を開ける。重力子放出出力に異常をきたしたその宇宙戦艦は、『ギョウガク』よりも緩い回頭角度になって距離を開いた。突入ポイントだ。
「来い!」
言うが早いか、ノヴァルナは『センクウNX』を最大加速させる。その行き足の速さについて来られるのは、機動性重視のラン・マリュウ=フォレスタの機体ぐらいだった。ランは出遅れたササーラ機を振り返って、強い口調で言う。
「ササーラ、遅いッ! それでもマーディンを継ぐ者か!」
親友でありライバルでもあった元『ホロウシュ』筆頭の、トゥ・シェイ=マーディンの名を出すランの叱咤に、ササーラは厳めしいガロム星人の顔を険しくし、負けじと機体を加速させた。三機は他の『ホロウシュ』に先行して、イマーガラ軍の『ギョウガク』へ肉迫して行く。
『ギョウガク』は君主のギィゲルト・ジヴ=イマーガラの専用艦『ギョウビャク』と並び、イマーガラ家宇宙艦隊の総旗艦を務めるだけあって、その迎撃砲火には苛烈なものがあった。急接近するノヴァルナの『センクウNX』、ランとササーラの『シデンSC』に対して、ビームや誘導弾が土砂降りの雨のように放たれる。
だが至近を掠める青い曳光ビームが機体を照らし、近接信管で炸裂した誘導弾の破片が装甲板を叩いても、ノヴァルナ達は怯まなかった。NNLと接続した機体のサイバーリンクが、敵艦からの迎撃砲火の予測飛来コースを意識の中に送り込んで来る。それを反射的に回避するノヴァルナ。
「ウイザード02、03。対艦ランチャー用意!」
ノヴァルナは自らも『センクウNX』に、バックパックのウエポンラックから対艦誘導弾ランチャーを取り外させ、後続するランとササーラに命じた。対艦誘導弾ランチャーは通常、中距離で使用するものだが、七階建てビルの表面ほどもあるアクティブシールドを八枚も遠隔操作する、大型艦相手では弾かれる可能性がある。そのため、至近距離から叩き込もうというのだ。
するとその巨大なアクティブシールドの一枚が、『センクウNX』の前方に猛然と滑り込んで来た。展張した陽電子のフィールドに『センクウNX』を激突させるつもりか。
操縦桿を引こうとするノヴァルナだったが、いや、違う!―――と瞬時に判断した。敵艦はこちらが回避したコースを狙い、弾幕を集中させる作戦だ。
「ラン!」
ノヴァルナはランに呼び掛けると『センクウNX』を振り返らせ、自分の機体が持っていた対艦ランチャーをランの『シデンSC』に投げ渡す。そして機体を半回転させながらポジトロンパイクを掴み、アクティブシールドの中心にあるセンターコアに突き刺した。激しくスパークを放ったセンターコアは、小爆発と破片の飛散を起こして機能を停止する。『センクウNX』はそのまま、残骸となったアクティブシールドを盾代わりにして、『ギョウガク』へ突進した。
想定外のノヴァルナの行動に、『ギョウガク』の迎撃砲火が慌ててアクティブシールドの残骸を撃つ。だがほんの十数秒の時間では破壊は不可能な話だった。直前で『センクウNX』が蹴り飛ばした残骸が、『ギョウガク』の艦体に衝突して爆発し、艦体のエネルギーシールドごとCIWSのビーム砲群を押し潰す。
▶#13につづく
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