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第22話:大いなる忠義
#09
しおりを挟む「よし。そろそろおっ始めるぜ。全艦戦闘態勢!」
凛とした声で命令を発したノヴァルナは、組んでいた脚を下ろし、やや前屈みに座り直した。日頃尊大な態度を取ってはいても、複数の艦隊…しかもウォーダ一族以外の他の独立管領の部隊まで加えた連合艦隊の指揮は、今回が初めてであり、十七歳の少年がそのような大役に緊張しないはずがない。指揮下の艦隊がそれぞれの司令官の指示に従って展開し、前方に見える群青色の第八惑星へ向かい始めるのを見ると、ノヴァルナの指先はBSHOで出撃する時のように、熱を纏ったように思える。
とそこにノヴァルナが座る司令官席のコムリンクが鳴り、ナグヤ第2艦隊旗艦に居るセルシュからホログラム付きの通信が入った。
「若殿。肩の力をお抜きあそばせ」
セルシュのホログラムがそう告げると、ノヴァルナは眉をひそめて応じる。
「は? なに言ってんだ、爺」
「今の戦闘態勢のご命令、些かお声が上擦っておられましたので」
僅かな語気の変化を見逃さず、気遣いの通信を入れて来たセルシュに、ノヴァルナは舌打ちして言い返す。
「んな事ねーって!」
だがセルシュはお構いなしに続けた。
「見事に敵を片付けて、ノア姫様に褒めて頂かねばなりませんですからな」
「余計なお世話だ!」
顔を赤らめて抗議するノヴァルナだったが、このやり取りでリラックス出来たのも確かである。ふん!と鼻を鳴らして言い放つ。
「てゆーか、爺。これが終わったらマジ、BSHOで模擬戦すっからな!」
それに対しセルシュは、この謹厳実直な後見人には珍しく「ハハハハハ…」と笑い声を上げて返答を曖昧にし、通信を終了した。その直後、オペレーターが敵艦隊の移動開始を報告する。
「敵艦隊が僅かに前進を開始。敵艦の間隔が広がります」
艦砲による迎撃態勢を敵がとったのだっだ。これもオーソドックスな行動だ。
「よし、かかれ!」
ノヴァルナの命令で宇宙空母の部隊を残し、各砲戦部隊が速度を上げて敵守備隊へ接近し始める。戦艦と重巡航艦は、それぞれが装備するアクティブシールド発生器を射出し、陽電子の盾を艦の周囲に並べる。敵味方の双方で「攻撃開始!」が下令され、無数のビームが放たれだした。さらに大量の対艦誘導弾が発射されると、周辺の宇宙をたちまち、まばゆい爆発の光芒が埋め尽くしてゆく。ムラキルス星系攻防戦の幕開けだ。
「攻撃艇、宙雷艇、BSI部隊の出撃のタイミングは、各空母部隊の司令官に任せる。戦艦部隊は戦隊ごとに、敵陣の一点に砲撃を集中させて、敵の防御陣に穴を開けろ―――」
参謀達に指示を出したノヴァルナは、『ホロウシュ』のリーダーであるナルマルザ=ササーラを振り向いて告げる。
「俺の『センクウ』も発進準備だ。他の『ホロウシュ』の連中にも用意させとけ」
「お出になられるのですか?」
そう声を掛けたのはササーラの隣に控える、ラン・マリュウ=フォレスタだった。
「ナグヤのご当主となられて、大戦力の指揮を執られる身になられたのですから、御自らご出撃になるのは、緊急事態の場合に限られても…」
そう続けるランにノヴァルナは不敵な笑みを向け、「やなこった!」と言い放つ。
「覚えとけ、ラン。このノヴァルナは、たとえ百万の軍を指揮するようになっても、BSHOでその身を戦場の真ん中に置く。それが俺のやり方だ」
それを聞いたランは無言で頷いた。その顔を艦橋の外で輝く爆発光が、明るく照らす。後方で指揮を執り、戦場全体を冷静に見渡し、的確に指示を出すのが将の在り方であるならば、常に最前線に立ち、自らの勇戦をもって付き従う兵達の士気を高め、戦いを勝利に導くのもまた、将の在り方である。そして自分達の主君が後者であるならば、自分達『ホロウシュ』も常に最前線に在り、主君の身を守る事だ。難しく考える事は何もない。
「出撃準備にかかります」
そう言ってランはササーラと共に、艦橋をあとにした。
はじめは一進一退の攻防であった戦況が動いたのは、やはりウォーダ家の猛将、ヴァルツ=ウォーダの攻撃を受けた要塞右側であった。イマーガラ軍の複数の戦艦が立て続けに爆発を起こし、その開いた防御陣の穴に向けて、宙雷戦隊とBSI部隊が突撃を始めたのである。慌てて穴を塞ごうと移動して来たイマーガラ重巡航艦に、五機のウォーダ軍のBSI『シデン』が素早く纏わり付き、超電磁ライフル弾を撃ち込んで仕留める。
「相変わらず強ぇな、叔父御《おじご》は」
素直に称賛の言葉を口にするノヴァルナだったが、戦場の動きは見逃さない。ヴァルツ艦隊の攻勢に対応しようと、ノヴァルナと対峙するイマーガラ軍正面の一部が、右側へ間延びし始めたところへ宙雷戦隊の突撃を下令する。さらに今が機会と席を立って告げた。
「俺も『センクウ』で出る!」
▶#10につづく
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