銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第22話:大いなる忠義

#07

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 翌皇国暦1556年三月一日、ノヴァルナ率いるナグヤ=ウォーダ家宇宙艦隊は、惑星ラゴンを出港。ミズンノッド家の支援へ向かった。その編成は以下の通りである。

■第1艦隊:司令官ノヴァルナ・ダン=ウォーダ 計83隻 総旗艦ゴウライ

 第1戦隊:戦艦7隻 第2戦隊:戦艦5隻 第5戦隊:戦艦5隻

 第9戦隊:重巡6隻 第10戦隊:重巡6隻 第12戦隊:重巡6隻

 第1宙雷戦隊:軽巡4隻・駆逐艦10隻 第2宙雷戦隊:軽巡4隻・駆逐艦10隻

 第4宙雷戦隊:軽巡4隻・駆逐艦10隻 

 第1機動戦隊:打撃母艦(宇宙空母)6隻 第3機動戦隊:打撃母艦6隻

 

■第2艦隊:司令官セルシュ=ヒ・ラティオ 計72隻 旗艦ヒテン

 第3戦隊:戦艦6隻 第6戦隊:戦艦5隻

 第11戦隊:重巡6隻 第13戦隊:重巡6隻 第15戦隊:重巡5隻

 第3宙雷戦隊:軽巡4隻・駆逐艦10隻 第5宙雷戦隊:軽巡4隻・駆逐艦10隻

 第7宙雷戦隊:軽巡3隻・駆逐艦7隻

 第2機動戦隊:打撃母艦(宇宙空母)6隻

■第3艦隊:司令官ルヴィーロ・オスミ=ウォーダ 計41隻 旗艦バンカルド

 第7戦隊:巡航戦艦6隻 第8戦隊:巡航戦艦5隻 第14戦隊:重巡5隻

 第6宙雷戦隊:軽巡3隻・駆逐艦7隻 第8宙雷戦隊:軽巡3隻・駆逐艦7隻

 第6機動戦隊:巡航母艦(軽空母)5隻

 ※なお第3艦隊には輸送艦等の遠征補給部隊20隻も随伴する。

 ここで興味深いのは、第3艦隊の司令官にルヴィーロ・オスミ=ウォーダが就いている点だった。前当主ヒディラスのクローン猶子であるルヴィーロは、昨年イマーガラ家に捕らえられ、深層心理にまで及ぶ洗脳を受けて、ヒディラスの殺害に及んだ人物だ。

 そのヒディラスの葬儀の日、ルヴィーロと面会したノヴァルナは、処刑を望むルヴィーロをあえて許し幕閣に加えていた。そしてルヴィーロにとって怨敵の対イマーガラ戦に、早くも投入して来たのだ。

 ところがこの人事に異を唱えた者達がいた。筆頭家老のシウテ・サッド=リンとその弟ミーグ・ミーマザッカ=リンだ。熊のような容姿のベアルダ星人のこの兄弟は、ともにノヴァルナの弟カルツェの支持派だった。二人の言い分は、第2艦隊もしくは第3艦隊の司令官にはカルツェが就くべきだと、出港間際になって抗議し始めたのである。

 ただノヴァルナは、カルツェ・ジュ=ウォーダを軽く扱っていたわけではない。それなりに戦力を整える事が出来たとはいえ、敵宙域深くまで進攻する今回の作戦が危険なものである事実に変わりはなく、自分が戦死する可能性もあるわけで、次席家督継承者を本国に残しておきたかったのだ。この事からもノヴァルナの方は、カルツェを敵視しているのではないのが分かる。

 だがシウテやミーマザッカの考え方は、やや被害妄想的だった。カルツェをスェルモル城に残し、自分達が惑星ラゴンを離れている間に、ノヴァルナが呼び寄せた衛星軌道上のサイドゥ軍、アンドア艦隊がスェルモル城へ攻撃を仕掛けて来るのではないか、と懸念したのだ。単純に考えれば、ノヴァルナが目に入れても痛くないほど可愛がっている、二人の妹の住むスェルモル城へ攻撃を仕掛けさせるなど有り得ないのだが。

 ともかく、当然そのような抗議をノヴァルナが受け付けるはずはなく、出港直前に「気に入らねぇなら、ついてくんな!」と、シウテ・サッド=リンとミーグ・ミーマザッカ=リンを追い返してしまったのだった。

 シウテは第2艦隊司令として『ヒテン』に乗り組み、ミーマザッカは第2艦隊に所属する第4戦隊戦艦5隻を指揮する予定だったのだが、ノヴァルナが追い返したため、総参謀長として『ゴウライ』に、ノヴァルナと共に乗るはずであったセルシュを急遽第2艦隊司令に移動。さらにミーマザッカの第4戦隊を欠いた状況で出港する結果となった。ノヴァルナが正式にナグヤ家当主となって、最初の対外作戦だが、つまらぬ事でケチがついたものである。

 しかし当のノヴァルナはそんな諍いを引きずる事無く、まずは叔父のヴァルツ=ウォーダの艦隊と合流するため、モルザン星系へ向けて艦隊を超空間転移させていった………

「ナグヤ=ウォーダ家の艦隊が、惑星ラゴンを離れたそうです」

 側近の報告に、内側を薬液で満たした生命維持スーツを着るセッサーラ=タンゲンは、寝ていたベッドからおもむろに上半身を起こした。大昔の宇宙服のような大袈裟な生命維持スーツのスピーカーから、タンゲンの言葉が電子音声で発せられる。

「指揮官はノヴァルナであろうな?」

 側近は頷いて応じる。

「キオ・スー家のダイ・ゼン殿、サイドゥ家のギルターツ殿、双方から同じ連絡が入っております。ノヴァルナめの陣頭指揮にて間違いございません」

 キオ・スー=ウォーダ家の筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイ、サイドゥ家の次期当主ギルターツ=サイドゥは、共に裏でこのセッサーラ=タンゲンと手を組んでいた。そのためノヴァルナが艦隊を指揮して出撃した事や、サイドゥ家からナグヤ防衛に、モリナール=アンドアの部隊が送られた事など、逐一報告を手に入れられる。

 側近の報告に「ならばよい」と言葉を返したタンゲンは、二つ三つと激しく咳き込んでから続けた。

「艦隊に発進を命じよ。我等もムラキルス星系へ移動する」

 タンゲンの命令からおよそ三十分後、ヘキサ・カイ星系のアージョン宇宙城に横づけされていた、のっぺりとした形状で不気味な雰囲気を纏う黒色の宇宙艦―――潜宙艦とも呼ばれる高々度ステルス艦が九隻、滑るように動き始める。

 光を吸収する塗装がなされた潜宙艦は、ヘキサ・カイ星系の主恒星の光をも反射する事無く、その先頭を進む旗艦の格納庫に、漆黒の金属繊維製マントを着たBSHO『カクリヨTS』を収め、決戦場を目指して宇宙の闇の中に溶け込んでいった………

 六日後、ノヴァルナのナグヤ家と、途中のモルザン星系で合流したノヴァルナの叔父、ヴァルツ=ウォーダとの連合艦隊は、ミズンノッド家の本拠地、オグヴァ星系第三惑星のケーヴに到着した。

 予定では五日で到着のはずだったのだが、国境地帯に位置し、今回の航路では付近を通過する事になっていた、ティラモルドラ星系を領有する独立管領ハ―ナイン家が、ナグヤ連合艦隊の接近にタイミングを合わせ、イマーガラ家への寝返りを宣したため、針路の変更を余儀なくされたためである。

 苛烈果断だという印象が強いノヴァルナだが、戦略・戦術についての判断は冷静そのものだった。今回の戦略目標はあくまでも同盟国ミズンノッド家の救援であり、ティラモルドラ星系を討伐している時間的余裕はない。そうであれば、一日の遅延を考慮しても迂回するのが道理であった。

 一方、ナグヤ家の若き新当主自らが指揮する救援部隊の到着に、ミズンノッド家が感激しないはずがない。そしてサイドゥ家との同盟を果たしたとは言え、国内に幾多の問題を抱えるナグヤ=ウォーダ家のほぼ全力出撃による来援は、ノヴァルナの狙い通り、周辺の宙域や独立管領に対してこののち、大きな宣伝効果をもたらす事になるのである。

 ただノヴァルナ達にとって国内が不安定なままの遠征である事は事実で、ティラモードラ星系の迂回で一日を費やしたのも事実である。そのため、ミズンノッド家の首脳部を加えた作戦会議では、ムラキルス星系の攻略を即日行う事が決定した。これにはムラキルス星系のイマーガラ家の宇宙要塞が、完全に稼働していない今の内に叩きたいという意図もある。

「破壊しちまって構わねぇ…そういうこったろ? 爺」

 ミズンノッド家の恒星間打撃艦隊に先導される形で、惑星ケーヴを発進したナグヤ、モルザン連合艦隊の総旗艦『ゴウライ』では、第2艦隊旗艦『ヒテン』に座乗するセルシュ=ヒ・ラティオからホログラム通信に、ノヴァルナは言い放った。破壊して構わない…とは、ムラキルス星系に建造中のイマーガラ家宇宙要塞の事だ。

「そういう事になりましょうな」

 立体映像のセルシュは、小さく頷いて同意した。占領目的の宇宙要塞攻略戦となると、より多くの血と時間が必要となる。そしてその後の戦略的意味を考えても、ミズンノッド家側が防衛拠点にするには位置が悪い。つまりは占領してミズンノッド側がする価値は、薄いと判断すべきであった。

「なら話ははえぇな」

 とノヴァルナはどこか陽気な声で応じる。無論、口で言うほど容易くはないのは、充分理解していた。だがミズンノッド家に迎えられ、作戦会議に入ったところで、ミズンノッド家当主シン・ガンがイマーガラ家に放ったスパイから得た情報を伝えたのが、ノヴァルナの心を前向きに動かしていたのだ。

 シン・ガンが伝えた情報とはノヴァルナの宿敵、イマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンが数か月前、SCVID(劇変病原体性免疫不全)に感染している事が判明。それ以来、消息がようとして知れず、死亡している可能性が高いというものだった。

 事実SCVIDは、その罹患が発覚した時には手遅れである場合がほとんどで、数日内の余命となっている事からも、すでに死亡していて、イマーガラ家が秘匿していると考えるのが妥当である。

 そしてまた、タンゲンが行っていた宰相職を現在、その後継者と目されるシェイヤ=サヒナンが代行しているのも、その裏付けとなっていた。

 無論、実際にはタンゲンは生命維持スーツを着用してまだ生きており、今回の作戦の指揮を陰から執っているのだが、ノヴァルナにも全てが見通せるわけではない。




▶#08につづく
 
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