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第22話:大いなる忠義
#06
しおりを挟む紆余曲折はあったものの、セルシュの説得でナグヤ家はノヴァルナの指示に従い、第1と第2宇宙艦隊、さらに残りの艦で定数に満たない臨時の第3艦隊を編成し、総戦力をミズンノッド家の支援に向ける事を決定した。
これに今回もモルザン星系からノヴァルナの叔父、ヴァルツ=ウォーダの恒星間打撃艦隊が加わり、ミズンノッド家の保有する艦隊と合わせれば、どうにかイマーガラ家の五個艦隊に対抗出来るはずである。
そしてノヴァルナからの要請により、ナグヤ家防衛のために派遣されて来たサイドゥ家の艦隊が、オ・ワーリ=シーモア星系に到着。惑星ラゴンの衛星軌道上に展開した。艦隊司令官はモリナール=アンドア―――サイドゥ軍の中核を成す三人の勇将、“ミノネリラ三連星”の一人だ。その人選に、ドゥ・ザン=サイドゥの本気度が窺い知れる。
このアンドア艦隊の到着に青ざめたのは、キオ・スー家であった。ノヴァルナらの予想通り、キオ・スー家はノヴァルナの留守中にナグヤ城を攻略し、ノヴァルナの追放とカルツェ・ジュ=ウォーダのナグヤ家当主継承を目論んでいたのだが、逆にアンドア艦隊からの艦砲射撃をキオ・スー城が受ける恐れが出て来たのである。
キオ・スー家筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイは、こちらも再建中のキオ・スー艦隊を緊急招集し、キオ・スー家所属の星系防衛艦隊と合わせて、領地のアイティ大陸上空を固めると、アンドア艦隊と睨み合いを始めたのだった。
衛星軌道上の総旗艦『ゴウライ』に上がり、出撃準備の状況を監督していたノヴァルナは、アンドア艦隊が到着するとノアとセルシュを連れ、すぐに自らシャトルを操縦して、アンドアの乗る旗艦へ出向いて行った。この辺りの身軽さは当主となっても変わらない。
そのノヴァルナの身軽さにアンドアは驚き、恐縮して自分も旗艦のドッキングベイまで足を運んで、ノヴァルナを出迎えた。
シャトルのタラップを降りて来たノヴァルナに足早に歩み寄ったアンドアは、片膝をついて挨拶を述べる。
「サイドゥ家家老、第6艦隊司令モリナール=アンドアにございます。ノヴァルナ殿下御自らご来訪とは恐縮至極。すぐにこちらからご挨拶に伺うが筋でありますのに、申し訳ございません」
モリナール=アンドアはこの時四十歳。黒髪で丸顔の容姿は、実際の年齢より若く見えるが、その立ち居振る舞いには誠実さと落ち着きが感じられた。対するノヴァルナも少々着崩した感はあるものの、きちんと紫紺の軍装を身に着けて、当主らしい言葉遣いでアンドアの挨拶に応じる。
「よく来てくれたアンドア殿。噂に高い“ミノネリラ三連星”のお一人に、来て頂けるとは心強い限り。宜しく頼む」
やはり正しく言動を取った時のノヴァルナの、大名としての威光は本物らしく、アンドアも表情を硬くして「勿体無きお言葉」と頭を下げた。そこにすかさずノアが穏やかな物言いで、緊張を解きほぐそうと声を掛ける。
「お久しぶりですね、モリナール。どうぞ頭を上げてください」
「ノア姫様」
そう言って上げたアンドアの顔が、柔和なものとなった。ナグヤ家においてノヴァルナの妹のフェアンやマリーナがそうであるように、サイドゥ家の者にとっては、ノアは今もマドンナ的存在であるのだ。
「私のお父様と、お母様は息災ですか?」
「はっ。ご両人とも恙なく。特にドゥ・ザン様におかれましてはこのアンドア、『此度《こたび》の派兵、婿殿の役に立つまたとない機会。しかと務めを果たすように』と、きつく仰せ付かりましてございます」
「まあ…」
アンドアの伝えたドゥ・ザンの言葉―――まだ婚儀の日取りも調整中であるのに、早くもノヴァルナを“婿殿”と呼んでいるらしい父親の様子に、ノアはノヴァルナを振り向いて頬を染め、苦笑いを浮かべる。そして当の“婿殿”のノヴァルナはノアを見返して、面映ゆそうに指先で耳の後ろをガシガシ掻いた。
そんなノヴァルナとノアの姿を少し下がって眺めるセルシュは、何度か微かに頷きながら目を細める。やはり我等が若き主君は、この姫がいれば心配なさそうだった。
“この遠征が終わったら、早く日取りを決定せねばなるまいて…”
ノヴァルナとノアの婚儀。それを見届けて次席家老の職を辞す。後継をショウス=ナイドルに託し、それをクルツとヒロルドの二人の息子に補佐させるのが、セルシュの構想であった。無論、自分も引退したからといって遊んで暮らすつもりはなく、自由な隠居の立場を利用し、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ辺りの、カルツェ派でも比較的公正で、物分かりの良さそうな者達を、ゆっくりと切り崩していく算段だ。
こういった考えに至れたのも、サイドゥ家との同盟が成ったからであり、セルシュは改めて、ノヴァルナを我が良人にと認めてくれたノア姫の背中に頭を下げた………
▶#07につづく
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