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第20話:新たなる風
#13
しおりを挟むそして葬送の聖歌は終了し、ついにノヴァルナによる弔辞読み上げの時間となった。進行役の声が静かに告げる。
「続きましてナグヤ=ウォーダ家、次期当主よりの弔辞が行われます。弔辞読み上げは…新当主ノヴァルナ・ダン=ウォーダ様のご都合により、次男カルツェ・ジュ=ウォーダ様であります」
それを聞き、中央通路左側の外部招待者席を主として、静かなざわめきが起きる。外部の者には当然、カルツェの代理の話は初耳だからだ。「カルツェ様?」「弟君の…?」とひそひそ言葉を交わす中で、皇国貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナは穏やかな表情のまま、僅かに目を見開いて「ほう…」と呟いた。
筆頭家老のシウテは自席で小さなホログラムキーボードを立ち上げ、素早く指を動かして次席家老のセルシュへの指示を打ち込む。それを読んだセルシュは再び、SPの指揮官に連絡を取った。
「よいか。ノヴァルナ様の所信演説は、式の一番最後に回された! 残り時間は約30分である。それが最後のタイムリミットとなる! もう一度場内を虱潰しに捜索しろ!!」
弔辞読み上げを指名されたカルツェは慌てる様子も全く見せず、おもむろに席を立つ。イベントホールの特徴の一つである、フレキシブルフォーミングパネルが数十枚、床から浮かび上がって、祭壇のある舞台上へ続く階段を作り上げた。祭壇上のヒディラスのホログラムに呼び掛ける形で弔辞を読み上げるため、カルツェは舞台へ続く階段の一段目に右足を乗せる。
と、その時だった―――
暗い会場に大きく響き渡る若者の声、ノヴァルナ・ダン=ウォーダの声だ。
「ちょおっと、待ったぁあああ!!!!」
会場にいる誰もが頭を左右に振り、何事かと戸惑う中でドーム型の天井の最上部から、小型円盤の反重力ドローンが八機舞い降りて来て、中央通路に白いビームを浴びせた。すると地の底から湧き上がるような音楽が聞こえ始める。いつも落ち着き払っている印象のカルツェも、これには意表を突かれたようで、階段を上がろうとした状態のままドローン達を見上げた。
すると突然、会場中央の通路になっている部分に敷かれた、フレキシブルフォーミングパネルが一斉に空中へ浮き上がる。高さ1メートル半ほどの位置で静止したパネルは、中央通路の幅そのままに、会場出入口から祭壇までを一直線に繋いだ。それはまるで架け橋…いや、歌舞伎の花道のようであった。
次の瞬間、音楽のトーンが跳ね上がり、浮き上がった“花道”を上空の反重力ドローンが様々な色の光で、華やかにライトアップを始めた。さらに桜吹雪のホログラムまでがそこに加わる。呆気にとられる参列者は誰もが、何が起きているかを理解できない。そこにまるでボクシングかプロレスのリングアナウンス同然の、独特な節回しの男の声が響き渡る。それまでの進行役のオペラ歌手とは別の声だ。
「我等が新たなるナグヤ=ウォーダ家当主! ノヴァルナ・ダン=ウォーダ!! 花道からの入場です!!!!」
その直後、白いスモークが後方の会場出入口から噴出され、両開きの扉が開け放たれると、中から輝く眩い光を背に、腕組みをしてふんぞり返る男のシルエットが浮かび上がった。誰あろう今まで姿を消していた、ノヴァルナ・ダン=ウォーダだ。
ノヴァルナの登場を知ったセルシュだったが、着ているものを目にして、あんぐりと開いた口が塞がる事なくその場で凍り付く。
正装に着替えて来ると言って雲隠れしたノヴァルナだが、実際に着ているのは正装などではない。赤い髑髏が胸に大きく描かれた、黒とグレーの迷彩柄のTシャツに黒革のパンツと黒革のロングブーツ。そこに同じく黒革製で襟の高いロングコートを着込んでいる。そのロングコートは銀の鋲が大量に打たれており、両肩には銀色に輝く三本の大きな棘が取り付けられていた。しかも首には無骨な銀の鎖を三重に巻いて掛けていて、ピンク色のメッシュの入った長い髪と合わせて、衣裳的には悪役プロレスラーを彷彿とさせる。
全員の茫然とした視線が集まる中で、ノヴァルナは天井を見上げると、両腕をやや広げて真っ直ぐに突き上げた。花道の両側からホログラムのレーザー光が放射線状に放たれ、それに合わせて音楽がよりアップテンポのものへと差し変わる。オ・ワーリ宙域で流行りのロックバンドの曲だ。
待ってましたとばかりに、花道を祭壇へ向かって歩きだすノヴァルナ。するとそれに続いて、開かれた扉の中から十人の若い男女が現れた。ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』である。全員が主君と同じような、黒づくめの刺々しい着衣を身に着けている。いやそれだけでなく、『流星揚羽蝶』の家紋や、蛇が巻き付いた水牛の髑髏、双頭のドラゴン、銀河系を十字に刺し貫く二本の剣がデザインされたペナントを掲げて、ノヴァルナのあとをついて来たのだ。
▶#14につづく
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