銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第20話:新たなる風

#05

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 ヤヴァルト銀河皇国星帥皇ギーバル・ランスラング=アスルーガの長男、テルーザ・シスラウェラ=アスルーガは、かねてよりBSIユニットの操縦技術に天才的であるという話が伝わっていた。

 しかしナーグ・ヨッグはいくら天才的技量を持つと言っても、次期星帥皇の地位にいる第一皇子のテルーザが、自らBSHOを駆って出撃して来るとは思いも寄らなかったのである。無論それはナーグ・ヨッグの部下達も同様で、総旗艦『リュウゲン』の艦橋にいる人間全てが、意外そうな顔を見合わせた。

 司令官席で上体をやや前に倒して、ナーグ・ヨッグは探るような目で命じる。

「ウーサー艦隊と画像情報をリンク。戦闘状況を映せ」

「はっ! 映像回線、開きます」

 すぐに艦橋中央部に大型のホログラムスクリーンが立ち上げられ、ハル・モートン=ホルソミカの脱出部隊を追跡中の、周辺宙域連合艦隊からのリアルタイム映像が送られて来る。そこでは皇都惑星キヨウの青い昼の面を視界の端に、黒い宇宙に爆発の閃光が無数に起こっていた。どうやら最前線にいる巡航艦からの映像らしい。
 画面の後方から八機のBSIユニット―――ウーサー軍主力BSIユニット『サギリ』が、爆発の閃光の中心へ向かって飛んで行く。

 だがその直後に一機の『サギリ』が、爆発の中心から放たれたらしい超電磁ライフルの一撃で、粉微塵に砕け散った。

 映像を送っている巡航艦がその発射点を拡大する。人型機動兵器を捉えた。さらに拡大する。陽光を反射するそのBSHOの姿に、ナーグ・ヨッグは目を見張って呟いた。

「白銀の機体だと?」

 映像の中のBSHOは全体が白銀色で、肩や脚部のアーマーに金色の蔓草模様が施してある。一見すると典礼用だが、両手に連装の超電磁ライフルを持ち、バックパックに長大なポジトロンランスを刺し、腰の裏側には水平に固定した対艦ランチャー。さらに四本のQブレードと重装備を見れば、実戦仕様機である事が分かるはずだ。機体そのものも通常のBSHOより大きいようであった。BSHOの解析データがホログラムスクリーンに重ねられ、オペレーターが報告する。

「星帥皇家専用機、『FCT-13ライオウXX』です」

 さらに『ライオウXX』で特徴的なのは、機体の周囲をゆっくりと回る、直径2メートル程の七つの金属製球体だった。

「あれは何だ?」

 参謀達に問い掛けるナーグ・ヨッグ。

 ナーグ・ヨッグの問いに答えたのは、BSI戦などを担当する機動戦参謀だったが、その口調は歯切れが悪い。

「アクティブシールドの一種のように思われますが…」

 アクティブシールドは通常、重巡航艦以上の大型艦に装備される、遠隔操作式のエネルギーシールドだが、小型サイズのものも作る事は当然可能だった。ただシールドの出力面を考えるとあまり小型では、敵の対艦系高出力ビームや徹甲系誘導弾を防御出来ない。

 するとその直後、『ライオウXX』の周囲を回る七つの金属球から、赤い曳光色のビームが放たれた。七本のビームは『ライオウXX』へ向かっていた七機の『サギリ』を直撃し、その機体を撃ち抜いて爆発させる。金属球はアクティブシールドなどではなかったのだ。しかも超高速で飛行するBSIに命中させ、その機体を撃ち抜くとなると、艦載砲並みの出力を持っている事になる。

「あ、あれは攻撃兵器なのか!?」

 唖然として告げるナーグ・ヨッグの見る映像が、急に移動速度を上げた。針路も『ライオウXX』を目指している。映像を送って来ている巡航艦が、直接攻撃に向かい始めたのである。動きからすると映像を送って来ているのは、軽巡航艦クラスのようだ。さらに増援の宇宙攻撃艇が六機、今のビーム兵器の攻撃を警戒して、小刻みな旋回を繰り返しながら接近した。攻撃艇が牽制攻撃を仕掛け、その間に急速に距離を詰めた軽巡の艦砲射撃で叩く腹積もりらしい。

 だが今度は金属球のビームではなく、『ライオウXX』が両手に握る連装超電磁ライフルが火を噴いた。その技量は凄まじく、『ライオウXX』は滑らかな動きで左右の腕の超電磁ライフルを別々の敵機に照準させ、たちまち六機全ての攻撃艇を破壊する。

 ただその戦闘行動の間に、ウーサー家の軽巡は着実に距離を詰めていた。一方『ライオウXX』では、機体の周囲を回る七つの金属球が回転速度を次第に早めている。先手を取ったのは軽巡だ。前部主砲を『ライオウXX』へ発射する。

 ところが次の瞬間、『ライオウXX』の周囲を回転している金属球が、大きな一つのエネルギーシールドを作り出して、軽巡の主砲ビームを弾き飛ばした。そしてそのエネルギーシールドは再び攻撃用のビームへ切り替わる。色もこれまでの赤ではなく、黄色に変化した七本のビームが一点に集中し、太いビームとなってこちらに―――撮影している軽巡へ放たれた。

 正面からビームを喰らい、画面を激しいプラズマのスパークが覆い尽くす。軽巡がエネルギーシールドを喪失したのだ。そこで『ライオウXX』は、両手の連装超電磁ライフルを放して無重力の宇宙に浮かせ、腰部背後に水平固定していた対艦誘導弾ランチャーを取り出した。

 素早く照準を合わせた『ライオウXX』は、画面に向けて即座にトリガーを引く。撮影中の軽巡はこの一撃に緊急回避を行った。画面は大きくパンし、都市に埋め尽くされた皇都惑星キヨウの青と白灰色の地表を、全面に映し出したところで激しく揺れる。誘導弾が命中したのだ。
 画面はゆらゆらと漂って、いきなりブツリと消えた。艦が重大なダメージを受けたに違いない。するとナーグ・ヨッグの総旗艦『リュウゲン』のオペレーターが告げた。

「本艦でも映像が取得出来る距離に到達しております」

 その報告にナーグ・ヨッグの指示を待たず、『リュウゲン』の艦長が命じる。

「よし。拡大映像を出せ」

 すぐにホログラムスクリーンの映像が切り替わり、銀河皇国皇子テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの操る白銀の大型BSHO、『ライオウXX』が映し出された。斜め左後方には先ほどまで映像を送って来ていた、ウーサー軍の軽巡航艦が大破した状態で浮かんでいる。
 そして『ライオウXX』は戦っていた。映像回線を切り替えるまでに、ウーサー軍BSI部隊主力が到着していたのだ。だがここでも『ライオウXX』の戦闘力は圧倒的だった。三十機以上のウーサー軍BSI『サギリ』と、二十機以上のASGUL『ブラングェス』、さらにこれも二十機以上の宇宙攻撃艇を、機体の周りを回る七つの金属球が放つ艦砲級のビームと、両手で握った大型ポジトロンランスで、片っ端から撃破してゆく。

 しかも『ライオウXX』にウーサー軍が手間取っている間に、星帥皇ギーバル・ランスラング=アスルーガを伴った皇国宰相ハル・モートン=ホルソミカの脱出艦隊は、キヨウの重力圏を離脱しようとしていた。

「ウーサー殿は何をしている!」

 この状況にナーグ・ヨッグは焦りの表情も隠さず、不満を口にする。皇子のテルーザを捕えるなり弑逆しいぎゃくする事も重要だが、星帥皇と皇国宰相を隣国宙域のオウ・ルミルまで逃がす事は何としても避けねばならない。不満なのはウーサー艦隊と行動を共にしている、周辺宙域勢力の部隊に対しても同様だ。



▶#06につづく
 
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