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第19話:血と鋼と
#16
しおりを挟むノヴァルナのウイザード中隊が、ダイ・ゼン本隊の直掩隊と乱戦を演じている位置からやや離れた戦場では、キオ・スー家のソーン・ミ=ウォーダが指揮する第1機動部隊が、ナグヤ・モルザン連合軍のBSI部隊に取りつかれて、被害を続出させていた。
モルザン星系軍のセロック=アガーゼアが指揮するBSI中隊が、まずソーン・ミ艦隊を襲撃。それを防ごうとしてキオ・スー家のBSI部隊が引き返すと、今度はそれを追跡してナグヤ家BSI部隊が殺到。これに第1機動部隊を追いかけていたヴァルツ=ウォーダの艦隊が加わり、BSI同士の機動戦闘と艦同士の砲撃戦で混戦状態となっている。
「対BSI迎撃防御。敵を近づけるな!」
第1機動部隊の旗艦となっている戦艦『コランドン』の艦橋で、ソーン・ミ=ウォーダが顔を強張らせて命じた。そこへ距離を詰めて来たヴァルツ艦隊の旗艦、『ウェルヴァルド』の主砲弾が命中する。セロックのBSI部隊に重力子ノズルを破壊される事を恐れ、アクティブシールドを艦尾に集中して配置していたために、左舷艦腹のエネルギーシールドにまともに喰らった。ズシンと腹に響くような震動が走り、艦全体が揺れる。
「左舷に被弾!」
「エネルギーシールド負荷率68パーセント。被弾箇所装甲第一層に亀裂発生!」
「回避運動急げ! 主砲、反撃せよ!」
オペレーターの損害報告と艦長の命令が交差する中、ソーン・ミは両手で頭を抱えた。先日のイェルサス=トクルガルを捕えようとしてノヴァルナの罠に嵌り、自分の方が捕虜になった屈辱の光景が頭に蘇る。そのせいでキオ・スー家はナグヤ家の言われるままに、停戦協定に同意しなければならなくなったのだ。怯懦に囚われたソーン・ミは、頬を震わせて艦長に命じた。
「かっ、艦長。急いでこの変光星団の重力圏から離れろ。DFドライヴで転進する!」
「転…撤退されるのですか!?」
振り向いた艦長は咎めるように問い質す。“転進”などと言葉を玩弄して、“撤退”を誤魔化す気はない。その艦長の鋭い視線にたじろぐソーン・ミ。するとその時間の浪費を逃さず、セロック=アガーゼアの『シデンSC』の中隊が突撃を仕掛けて来た。
「勝機!」
短く叫ぶセロック。ここで敵旗艦の一隻を討てば数的不利をカバー出来る。それが敵BSIの母艦艦隊旗艦ならば、敵BSI部隊の精神的動揺を誘う事が可能だ。ところが、セロックの照準センサーがソーン・ミの『コランドン』をロックした直後、左後方を追従していた『シデン』が爆発を起こした。驚いたセロックがその方向を向いた次の瞬間、さらにもう一機の『シデン』が閃光を発して砕け散る。
「散開しろ!!」
敵のBSI部隊からの狙撃である事は確実で、セロックはまず部下達に散開を命じてから、敵の位置を確認した。五機の敵がこちらに向かっている。敵味方入り乱れてのBSI戦に紛れて急速接近して来たのだ。
「この反応…BSHOか!!」
センサーの解析情報から、敵がBSHO一機と親衛隊仕様『シデンSC』だと知って、セロックは部下達に「気をつけろ!!」と告げながら、操縦桿を急角度で引いた。宇宙空間でとんぼ返りしたセロック機が敵の狙撃を回避する。
「ほう、やるな」
そう呟いて薄笑いを浮かべたのは、接近中のBSHO『レイゲツAR』に乗るキオ・スー家第4艦隊司令、ジーンザック=サーガイだ。そして薄笑いを収める前に、こちらも操縦桿を素早く引く。刹那の後、セロックの放った超電磁ライフル弾が、ジーンザック機のいた場所を通過した。二機はそのまま高機動戦闘に入る。
「その機体、キオ・スー家のジーンザック=サーガイ殿とお見受け致す」
全周波数帯で呼び掛けて来るセロックに、ジーンザックは真面目な口調で応じた。
「いかにも。そちらは噂に聞く、モルザンのセロック殿だな」
「いざ!」
「おう!」
双方ともポジトロンパイクを起動して間合いを詰めていく。射撃戦では決着が長引くという思惑が一致したのだ。オレンジ色の恒星を背後に、激しく切り結んでは離脱を繰り返す二機。二度三度、四度五度と刃を打ち合うと、六度目の斬撃をセロックが打ち払った直後、ジーンザックがパイクを半回転させて突き出した石突きに、コクピットの外側を強打され必要以上に間合いが空く。セロックの対処が遅れた一瞬、ジーンザックの振り下ろしたパイクの刃が、セロックの体ごと『シデンSC』を切り裂いた。血飛沫のような赤いプラズマを噴き出すセロックの機体を見詰め、ジーンザックは独り言ちる。
「機体の差が出た…か」
押し出されたセロック機は宇宙を漂い爆発を起こした。その間にセロックの中隊はジーンザックの部下に蹴散らされている。ジーンザックは部下に集合を命じて告げた。
「行くぞ。我等の狙いはノヴァルナ殿下だ」
▶#17につづく
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