銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
345 / 422
第19話:血と鋼と

#16

しおりを挟む
 
 ノヴァルナのウイザード中隊が、ダイ・ゼン本隊の直掩隊と乱戦を演じている位置からやや離れた戦場では、キオ・スー家のソーン・ミ=ウォーダが指揮する第1機動部隊が、ナグヤ・モルザン連合軍のBSI部隊に取りつかれて、被害を続出させていた。

 モルザン星系軍のセロック=アガーゼアが指揮するBSI中隊が、まずソーン・ミ艦隊を襲撃。それを防ごうとしてキオ・スー家のBSI部隊が引き返すと、今度はそれを追跡してナグヤ家BSI部隊が殺到。これに第1機動部隊を追いかけていたヴァルツ=ウォーダの艦隊が加わり、BSI同士の機動戦闘と艦同士の砲撃戦で混戦状態となっている。

「対BSI迎撃防御。敵を近づけるな!」

 第1機動部隊の旗艦となっている戦艦『コランドン』の艦橋で、ソーン・ミ=ウォーダが顔を強張らせて命じた。そこへ距離を詰めて来たヴァルツ艦隊の旗艦、『ウェルヴァルド』の主砲弾が命中する。セロックのBSI部隊に重力子ノズルを破壊される事を恐れ、アクティブシールドを艦尾に集中して配置していたために、左舷艦腹のエネルギーシールドにまともに喰らった。ズシンと腹に響くような震動が走り、艦全体が揺れる。

「左舷に被弾!」

「エネルギーシールド負荷率68パーセント。被弾箇所装甲第一層に亀裂発生!」

「回避運動急げ! 主砲、反撃せよ!」

 オペレーターの損害報告と艦長の命令が交差する中、ソーン・ミは両手で頭を抱えた。先日のイェルサス=トクルガルを捕えようとしてノヴァルナの罠に嵌り、自分の方が捕虜になった屈辱の光景が頭に蘇る。そのせいでキオ・スー家はナグヤ家の言われるままに、停戦協定に同意しなければならなくなったのだ。怯懦に囚われたソーン・ミは、頬を震わせて艦長に命じた。

「かっ、艦長。急いでこの変光星団の重力圏から離れろ。DFドライヴで転進する!」

「転…撤退されるのですか!?」

 振り向いた艦長は咎めるように問い質す。“転進”などと言葉を玩弄して、“撤退”を誤魔化す気はない。その艦長の鋭い視線にたじろぐソーン・ミ。するとその時間の浪費を逃さず、セロック=アガーゼアの『シデンSC』の中隊が突撃を仕掛けて来た。

「勝機!」

 短く叫ぶセロック。ここで敵旗艦の一隻を討てば数的不利をカバー出来る。それが敵BSIの母艦艦隊旗艦ならば、敵BSI部隊の精神的動揺を誘う事が可能だ。ところが、セロックの照準センサーがソーン・ミの『コランドン』をロックした直後、左後方を追従していた『シデン』が爆発を起こした。驚いたセロックがその方向を向いた次の瞬間、さらにもう一機の『シデン』が閃光を発して砕け散る。

「散開しろ!!」

 敵のBSI部隊からの狙撃である事は確実で、セロックはまず部下達に散開を命じてから、敵の位置を確認した。五機の敵がこちらに向かっている。敵味方入り乱れてのBSI戦に紛れて急速接近して来たのだ。

「この反応…BSHOか!!」

 センサーの解析情報から、敵がBSHO一機と親衛隊仕様『シデンSC』だと知って、セロックは部下達に「気をつけろ!!」と告げながら、操縦桿を急角度で引いた。宇宙空間でとんぼ返りしたセロック機が敵の狙撃を回避する。

「ほう、やるな」

 そう呟いて薄笑いを浮かべたのは、接近中のBSHO『レイゲツAR』に乗るキオ・スー家第4艦隊司令、ジーンザック=サーガイだ。そして薄笑いを収める前に、こちらも操縦桿を素早く引く。刹那の後、セロックの放った超電磁ライフル弾が、ジーンザック機のいた場所を通過した。二機はそのまま高機動戦闘に入る。

「その機体、キオ・スー家のジーンザック=サーガイ殿とお見受け致す」

 全周波数帯で呼び掛けて来るセロックに、ジーンザックは真面目な口調で応じた。

「いかにも。そちらは噂に聞く、モルザンのセロック殿だな」

「いざ!」

「おう!」

 双方ともポジトロンパイクを起動して間合いを詰めていく。射撃戦では決着が長引くという思惑が一致したのだ。オレンジ色の恒星を背後に、激しく切り結んでは離脱を繰り返す二機。二度三度、四度五度と刃を打ち合うと、六度目の斬撃をセロックが打ち払った直後、ジーンザックがパイクを半回転させて突き出した石突きに、コクピットの外側を強打され必要以上に間合いが空く。セロックの対処が遅れた一瞬、ジーンザックの振り下ろしたパイクの刃が、セロックの体ごと『シデンSC』を切り裂いた。血飛沫のような赤いプラズマを噴き出すセロックの機体を見詰め、ジーンザックは独り言ちる。

「機体の差が出た…か」

 押し出されたセロック機は宇宙を漂い爆発を起こした。その間にセロックの中隊はジーンザックの部下に蹴散らされている。ジーンザックは部下に集合を命じて告げた。

「行くぞ。我等の狙いはノヴァルナ殿下だ」



▶#17につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...