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第19話:血と鋼と
#07
しおりを挟むそれからおよそ二十時間後、こちらはナルミラ星系を発進した独立管領ヤーベングルツ家の当主、ノルディグ・サマーズ=ヤーベングルツ率いるナルミラ恒星間打撃部隊の二個艦隊である。
ノルディグ直率の第1艦隊は戦艦『ガルドロ』を旗艦として、他に戦艦6、重巡6、軽巡10、駆逐艦16。筆頭家老ザーゴン=ダリの第2艦隊が戦艦5、空母6、軽巡10、駆逐艦20の強力な部隊編成となっていた。
この時ノルディグは四十六歳。ナルミラ星系を嫡男ノルゾルトに任せての外征である。赤い色の髪は頭髪から顎髭までぐるりと繋がり、赤髪の獅子のような印象を受ける。
ヤーベングルツ家はこれまでに述べられた通り、オ・ワーリ宙域内のミ・ガーワ宙域境界近くのナルミラ星系を領地とし、ウォーダ家の同盟星系として協力して来た。中でもヒディラスが治めていた頃のナグヤ家との繋がりは深く、ヒディラスがアージョン宇宙城を占領し、ミ・ガーワ宙域に占領地を得た戦いにおいて、艦隊を派遣してその支援を行ってもいる。
ただこれはナルミラ星系の地政学的立場からの行動で、ヤーベングルツ家にすればナグヤ=ウォーダ家への忠誠というより、自分達の生き残りと勢力拡大が目的であった。であるからナグヤ家に味方したのも、当時のナグヤ家が周囲の勢力の中で躍進著しかったゆえの同調だったのだ。
それがヒディラスのミノネリラ宙域侵攻の失敗で衰退の兆候が見え始めると、ヤーベングルツ家も戦略の変更を考えるようになった。ヤーベングルツ家はウォーダ家と従属的同盟関係を結ぶ一方、ミ・ガーワ宙域を事実上勢力下においていたイマーガラ家とも、かねてより外交チャンネルは維持しており、しかもその関係は密かに強まっていたのだ。
そして約一ヵ月前の、ナグヤ家のアージョン宇宙城の失陥を機に、セッサーラ=タンゲンの艦隊がオ・ワーリに侵攻した際、これを黙認した事でヤーベングルツ家のウォーダ家からの離反は時間の問題となった。
そこに今回のヒディラスの死である。
イマーガラ家の重臣、モルトス=オガヴェイを通じてヒディラス暗殺の計画を告げられたヤーベングルツ家当主ノルディグは、すでにキオ・スー、イル・ワークランの両ウォーダ家も、イマーガラ家と結託している事を合わせて知り、正式にイマーガラ家側へ寝返る事を決めたのであった。
旗艦『ガルドロ』の司令官席に背中を預けているノルディグは、目の前に小ぶりな星図のホログラムを浮かべ、赤い顎鬚を指で撫でていた。
星図には自らの領地ナルミラ星系からノヴァルナの本拠地、惑星ラゴンのあるオ・ワーリ=シーモア星系周辺までの、各恒星系が映し出されている。その中でキオ・スー家からもたらされる哨戒情報が、ノヴァルナのナグヤ第2宇宙艦隊とモルザン星系領主ヴァルツの艦隊の位置を示す。
「やはりナグヤの後継者は阿保だな」
ノルディグはノヴァルナとヴァルツの艦隊の配置を見て、嘲笑混じりに言った。今回のノヴァルナ艦隊討伐は宗家であるキオ・スー家と連携したものであり、オ・ワーリ宙域の至る所に設置されたウォーダ家の哨戒プローブから情報が、逐一ノルディグ部隊に送られて来る。そのためノルディグはノヴァルナ艦隊がオ・ワーリ=シーモア星系へ戻らずに、ヴァルツの艦隊をモルザン星系へ残したまま、単独でこちらと戦おうとしている状況が丸わかりとなっているのだ。
ノルディグの言わんとしている事を理解した筆頭家老、ザーゴン=ダリのホログラムが傍らで同意の言葉を口にする。ザーゴンはオオアリクイのような頭のメルキア星人だ。
「さよう。ノヴァルナ殿は自分達の艦隊の展開状況が、キオ・スー家を通して我等に手に取るように分かっているという事に、気付いておりませぬ」
ノルディグにすればイマーガラ家への寝返りの手土産に、ノヴァルナの首をセッサーラ=タンゲンが所望している事もあり、単独で立ち向かって来るのは願ってもない。はじめからその動きが分かっていれば、こちらも対処は容易というものである。
「となれば話は簡単だ。ノヴァルナめは一個艦隊、我等は二個艦隊と、さらにキオ・スー家の部隊もシーモアから向かって来るはずだ。まずはノヴァルめを撃滅し、しかるのちにモルザン星系を攻略しようではないか」
ノルディグがそう言うと、ザーゴンは「かしこまりました」と応じ、さらに問うた。
「会敵予定地はどこに設定致しましょうや?」
するとノルディグはすでに決めていたらしく、間を置かずに星図ホログラムの一点を指差して告げる。
「ここだ。アーク・トゥールカー星雲」
そして考えが一つ閃いたらしく、最後に付け加えた。
「どうせなら阿保に決闘状を送りつけてやるか。その方が手っ取り早い」
▶#08につづく
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