銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第17話:道と絆と

#13

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 ザバの最期の言葉を聞き、爆散する機体を見遣ったノヴァルナは、“主君を誤ったか…惜しい奴”と内心で呟いた。綺麗事とわかってはいるが、敵であっても忠勇の士を、このような陰謀まがいの作戦で死なせるのは残念に思うのである。そしておそらく、今の最期の言葉をディトモス・キオ=ウォーダやダイ・ゼン=サーガイが伝え聞いたとしても、真に受けずに一笑に付するであろうと思えば、尚更哀れに感じられる。

 そこに駆けつけて来たランとササーラの呼び掛ける言葉で、ノヴァルナの思考は現実に引き戻された。

「ノヴァルナ様!」

「殿下、ご無事ですか?」

 二人の呼び掛けに、ノヴァルナは「おう」と言って機体を振り向かせる。「お見事でした」とランが言い、ササーラも「また腕を上げられましたなぁ」と続いた。それをノヴァルナは「まあな」と軽く流し、付け加える。

「親衛隊仕様の『シデン』なら、普段からおまえら相手に訓練してるからな。機体自体のクセは端からお見通しってもんよ…んで? おまえらは怪我なかったか?」

「は。ありがとうございます」

 ランとササーラが声を合わせて礼を言うと、部下の『ホロウシュ』達から報告が次々と入って来る。まずは砲艦の護衛を指揮していた、ヨヴェ=カージェスだ。

「こちら003、撤退する敵BSI部隊を追尾し、キオ・スー家の宇宙空母を発見。第六惑星のリングの隙間に浮かぶ小惑星の裏側に潜んでおりました。取り囲んで降伏を勧告。敵はこれを受諾し、すでに武装解除させております」

 次に報告を入れたのは、ヨリューダッカ=ハッチである。

「こちら004、『ホロウシュ』全機、損害無し」

 さらに二隻の砲艦の警護を続ける『ホロウシュ』からも、若い女性の声で連絡がある。ランの他にも三人いる女性『ホロウシュ』の一人、キスティス=ハーシェルだった。

「こちら020、砲艦二隻、間もなくスイング・バイに入ります」

 それらの報告を聞き終えたノヴァルナは、全周囲モニターに表示される十九機の部下のマーキングを見渡し、満足そうに告げる。

「こちら001、全て了解。ご苦労おまえら。よくやった」

 その言葉を聞いた部下達が安堵で一様に大きく息を吐くのを、ノヴァルナのヘルメット内のスピーカーが伝えて来る。新世代の『ホロウシュ』達にとって、初の全力出撃にによる宇宙での実戦に、誰もが緊張を隠していたのだ。

「ノヴァルナ様のお言葉通りでしたね」

 そう言ったのはノヴァルナの傍らに来たランであった。今回の囮作戦をキオ・スー家が見抜いており、囮に引っ掛かった振りをして、イェルサスの乗った砲艦を別動隊が待ち伏せしている事を『ホロウシュ』に告げたのは、誰あろうノヴァルナ自身だったのだ。

「ああ。けど氷のリングの中に強襲降下用カプセルを浮かべて、そこに潜んで待ち伏せしてたとは、俺も思わなかったぜ。母艦から直接出て来るもんだと思ってたからな。おかげで初動が遅れちまった」

 とノヴァルナが応じると、そこへササーラが唸るような声で独り言ちる。

「しかしキオ・スーの連中…どうやってヒディラス様の囮作戦を知ったんでしょうな」

 するとノヴァルナは驚くべき人物の名を、事もなげに言った。

「ん?…それなら、カルツェんとこに最近入ったクラードとかいうヤツが、ダイ・ゼンの野郎に情報を漏らしたのさ」

「なっ!?…」

 あまりに簡単に言ってのけたノヴァルナに、ササーラは“なんですと”と言いたかったはずの言葉を、喉に詰まらせた。ランもヘルメットの中で目を丸くしている。カルツェとはノヴァルナ実弟カルツェ・ジュ=ウォーダであり、クラードとはそのカルツェのお気に入りの側近、クラード=トゥズークの事だ。つまり今回の情報漏洩は、当主ヒディラスの親近者から出たというのである。

「まぁ、やったのはクラードで、カルツェの奴は知らねぇ話だろうがな」

 そうノヴァルナは続けたが表情は明るくない。部下の行動に責任を負うのが上に立つ者の為すべき事だ。“クラードが勝手にキオ・スー家へ情報を漏洩したのです。私は知りません”では済まないのだ。

「どういうつもりでしょう?」

 ランが口調から怒りの成分を滲ませながら、疑念を口にした。ノヴァルナは努めて平静に応じる。

「クラードとかいうヤツ、俺よりカルツェをナグヤの次期当主にしたがっている事、ミーマザッカやゴーンロッグ以上と聞くからな。何をどう考えて、情報漏洩したのかまでは知らねぇが、たぶん結果的にはその件と関りがあるんだろうよ」

 それを聞いてササーラが「いかがいたします?」と尋ねる。無論、ラゴンへ帰ってからの、スェルモル城にいるカルツェ一派に対する対処についてだ。ところがノヴァルナは、またもやあっさりと言う。

「何もしねーよ」

 想定外のノヴァルナの言葉に、ササーラは「は?」と眉をひそめた。





▶#14につづく
 
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