銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第17話:道と絆と

#11

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 一斉に襲撃行動に入るキオ・スー家のBSI部隊に対し、ノヴァルナは背後に守るナグヤ家の砲艦『グアナン15』に振り返った。

「イェルサス。約束通り、見送りに来たぜ!」

「ノヴァルナ様!!」

 ノヴァルナからの通信は届かないが、救援に来たのはノヴァルナに違いないと、直感的に分かったイェルサスは一気に笑顔を蘇らせる。間合いを詰めて来る敵のBSI。ノヴァルナは超電磁ライフルを構えながら、部下の『ホロウシュ』達に命じた。

「013から015は『グアナン15』を、016から020は『レガーラ07』を防衛しろ。残りは敵と直接戦闘だ!」

 部下達が「了解!」と応答する。そこにノヴァルナの両脇へ二機の『シデンSC』が駆け付けて来た。紫色を基調にした機体はラン・マリュウ=フォレスタ、白いラインを所々に入れた機体はナルマルザ=ササーラだ。

「殿下。敵は狙いを殿下に切り替えたようです。ご注意を!」

 そうササーラが告げると、ランも続く。

「今日の殿下の機体はマーディンの機体ですので、無理なさらないでください」

「おう、任せとけ!!」

 と口では言いながら、ノヴァルナは超電磁ライフルを立て続けに撃ち放つや否や、敵に向かって急発進した。ランもササーラもやれやれといった表情をして、ノヴァルナの操縦する青色基調の『シデンSC』の後を追い始める。

 普段ノヴァルナが乗る専用機体の『センクウNX』は、先日のトランスリープによってムツルー宙域へ飛ばされた事件の際、ほぼ一ヵ月の間、たいして整備も受けないまま戦闘を繰り返した結果、大幅なオーバーホールが必要となり、メーカー預かりで解体同然の状態にされ、点検整備を受けている最中だった。ダンティス家の工作艦『デラルガート』で整備は受けたものの、カスタマイズ機ゆえの細部の規格の違いから、基本的な整備しか受けられなかったのだ。

 このような理由で今日のノヴァルナは、『ホロウシュ』筆頭を辞したばかりのマーディンの機体を臨時で使用していた。ただ親衛隊仕様機はBSHOほどではないが、専属搭乗者に合わせてカスタマイズ化されており、NNLのサイバーリンク深度もマーディンが操縦している時ほど深くはない。つまりは今のノヴァルナは、『センクウNX』に乗っている時ほどの技量を発揮出来ないのである。ランが懸念したのはその辺りの事情だった。

 だが、そんなランの主君への心配は、いい意味で裏切られた。先頭切って敵のBSI部隊へ突っ込んで行ったノヴァルナは、『センクウNX』に乗っているわけでもないのに、敵からの射撃をスルリスルリと見事にかわし、距離を詰めて二発、三発とライフルを撃ち返していく。
 するとノヴァルナの放った二発目までを回避した敵の親衛隊仕様機は、的確な未来予測で放たれた三発目の着弾点に、どんぴしゃりのタイミングで移動して被弾、爆散した。

 閃光に包まれ、「ギャッ!!」という悲鳴と共に砕け散った同僚のリ・ブーン機に、驚いたのはズーナン=ザバである。親衛隊仕様機同士の戦いとは言え、このような短時間で味方の一機を失うとは考えていなかったのだった。出鼻を挫かれるとはこの事だ。ザバは緊張した面持ちで残った二機に告げる。

「バグート、サナジュ! 気をつけろ、手強いぞ!!」

 そしてさらに周囲にいる、量産型『シデン』に乗ったパイロット達に命じた。

「ノヴァルナについて来る二機を、引きつけろ!」

 その命令に応じて七機の『シデン』が、ランとササーラの元へ殺到して来る。

「ラン。こっちへ向かって来るぞ」とササーラ。

「我等の務めは殿下の護衛。殿下のお側にいるのが第一だ」

 ササーラの言葉にランはピシャリと言い切った。およそ二ヵ月前の『ナグァルラワン暗黒星団域』で、サイドゥ家のノア姫と交戦した際、ランはマーディンと共に、ノア姫の親衛隊の高い技量に手を焼いた結果、ノヴァルナの元を遠くまで離れてしまい、命に代えても守らねばならない主君を、失ってしまうところだったのだ。

 奇跡的に生還したノヴァルナは、詫びに来た自分に笑顔を向け「アッハハハ。かえって面白れぇ経験が出来たってもんだ。気にすんな!」と、簡単に許してくれたが、あんな思いはもうしたくない…ランはそう考えて、ヘルメットの中で唇を噛んだ。

 ところがそのノヴァルナからランとササーラに通信が入る。

「ササーラ、ラン。おまえらはあの七機を頼むぜ。俺はあっちの三機を叩く」

「で、殿下。それでは―――」

 慌てて引き留めようとするランを尻目に、ノヴァルナは「いいから任せとけ!」と言って機体をさらに加速させていった。みるみる遠ざかっていくノヴァルナ機に、ササーラが仕方なさそうに言って来た。

「駄目だ、ラン。ああなると殿下は、もう止められん」

 一方でザバは、バグート機とサナジュ機と共に、ノヴァルナの乗る『シデンSC』へライフル射撃を繰り返していた。すると宇宙空間を大きく回り込んだノヴァルナの機体は、第六惑星ガラブの氷のリングの中へ突っ込む。戦場全体の相対位置が、惑星ガラブに近付いたためだ。
 ノヴァルナを追尾してライフルを射撃する、三機のキオ・スー家BSIの弾丸がリングを構成する氷塊に立て続けに命中し、砕け散った氷の破片が、連鎖反応的に周りの氷塊を割っていくと、リングの形状に乱れが起きた。コクピット内に浮かぶ後方監視用ホログラムで、その光景を目にしたノヴァルナは、僅かに苦笑を交えて呟く。

「やべぇな…あとで星系環境局が怒鳴り込んで来んぞ、あれ」

 とは言え自分も油断できない状況だ。超高速でまともに激突すれば、氷の塊であっても大きなダメージを受ける事になる。全周囲モニターには、赤いフレームで囲まれた衝突の危険性が高い氷塊が無数に迫り、ヘルメットの中では警告音が鳴り止まない。しかも専用機の『センクウNX』ではないため、サイバーリンク深度が深くなく、機体と自分の体が一体化したような感覚を感じない。

 だがそれでも、いや、それゆえノヴァルナの不敵な笑みは大きくなる。

“はん…この前マーシャルのヤツと、訓練用BSI使って艦隊の中で模擬戦した時より、チョイ厳しい程度ってもんさ!”

 そう自分に強がってみせたノヴァルナは、眼前で真正面から突っ込んで来る大きな氷塊を、ギリギリで機体をひねり込ませて回避した。三機の敵BSIはさすがにそこまで無茶をする事は出来ず、リングの外側からノヴァルナ機を狙撃しようと並走している。

 だが、ノヴァルナの氷塊を回避する巧みな動きに、照準が全く定まらない。とその時、恐るべきことが起きた。リングの中を激しい機動で飛行するノヴァルナ機から逆に、超電磁ライフルの狙撃が行われたのだ。しかもその一撃はザバの僚機、サナジュの機体の頭部を吹き飛ばした。

「わぁッ!!!!」

 損害以上に驚きが大きかったサナジュは、全周囲モニターの半分が死んだ状態で、慌てて回避行動を取る。だがその方向には惑星ガラブの氷のリングが広がっていた。心理的恐慌に陥ったまま、闇雲に突入する事になったサナジュ機は、無数の氷塊に次々に激突し、手足がもげ、閃光を放って爆散する。驚愕の事態に蒼白になったザバは叫んだ。

「サナジュっ!!」

 恐るべきノヴァルナの技量だった。氷塊を回避しながらも、リングの外で自分を追尾して来る三機のキオ・スー家のBSIが、直線的な動きしかしていない事に気付き、逆撃の機会を窺っていたのだ。
 二対一となったところで、ノヴァルナは氷のリングの中から飛び出した。すかさずザバがライフルを撃つが、素早く躱《かわ》したノヴァルナは、自分からもライフルを放つ。しかもノヴァルナが撃ったのはザバだけではない。流れるような動きでライフルを握る機体の右腕を後ろに回し、後方から回り込もうとしていたバグートの機体へ、牽制射撃をも行った。機先を制されたバグートは、狼狽した様子で機体に距離を取らせる。

「くっ!…強い!!」

 ズーナン=ザバもキオ・スー家ではエースパイロットである。ここに来てようやく、ノヴァルナ・ダン=ウォーダがキオ・スー家や世間で言われているような、“大うつけ”などではない事を思い知った。そして敵として、次期ナグヤ家当主として生かしておくと、主家であるキオ・スー家にとって、危険な存在になる事も見抜く。

“これは…殺しておかねばならん!”

 功名を上げる事以上に、主家にとっての脅威をここで排除しなけれなならない…武人の眼になったザバは、ノヴァルナ機と対峙した自分の機体のスロットルを全開にした。

「殿下。お覚悟!!」

「おう! やれるもんなら、やってみやがれ!!」

 白く輝く氷のリングの上空でともに複雑な軌道を描き、相手の超電磁ライフルを回避しながら間合いを詰める。ライフルと持ち替えたポジトロンパイクを、すれ違いざまに双方が薙ぎ払うと互いの刃がぶつかり合い、青いプラズマのスパークが飛び散った。



 ノヴァルナが四機の敵に一歩も引かず、むしろニ機を撃破し、残りの二機相手に優位に戦闘を進めている状況に、自らも敵機を超電磁ライフルで仕留めたラン・マリュウ=フォレスタは、称賛の視線を送った。

「ノヴァルナ様…前よりお強くなられている」

 ナグヤ家に逗留していたカールセン=エンダー氏の妻、ルキナ氏が『ホロウシュ』達に殿下のムツルー宙域での行動を話してくれたのだが、生き延びるためとノア姫を守るために、向こうでも大暴れだったらしい。それが殿下をより強くさせたのだろう…ランは自分で思い浮かべた“ノア姫”という言葉に微かな葛藤を感じたが、今はそんな場合ではないと、すぐに意識の中から追い払った。




▶#12につづく
 
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