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第17話:道と絆と
#09
しおりを挟む艦長は自分の座席でもホログラムを立ち上げ、貨物船団の画像に指で触れて、拡大させるのと同時に、貨物船の詳細な解析データをピックアップした。10隻全てがイーマイア造船製最新型の『C―52プリーク』である。四角い標準型コンテナを五つ、剥き出しの状態で吊り下げて固定するのが普通だが、この船団の『プリーク型』は、標準型より倍以上長いサイズのコンテナを二つ固定していた。
砲艦『グアナン15』と僚艦が航行しているのは、通常の哨戒航路であり、民間の船が航行していてもおかしくはない。こちらと同じコースを進んでいる事から、おそらく自分達同様、第六惑星ガラブの重力圏を利用したスイングバイを行って、第八惑星ルグラに向かうのだろう。
「船団の速度は?」とオペレーターに尋ねる艦長。
「コンマ12…光速の12パーセントです」
報告を聞いた艦長は、顎を軽く指で撫でて思考を巡らせた。貨物船は通常、燃料節約のため光速の10パーセント以下の速度で航行するものだが、それよりも僅かながら速い。民間企業ゆえの何かの都合だろうが、トクルガル家の次期当主を送り届けるというこちらの任務の重要性を考えれば、用心するに越したことはなかろう…そう判断し、艦長は航宙士官に命じた。
「航宙士、艦の速度を落とし、貨物船団に合わせろ。向こうに先行させてやれ。通信士、僚艦にも伝達」
航宙士と通信士が同時に「了解」と応じ、艦の速度を落とす微かな重力変動と、同行する僚艦へ減速を告げる声が、静かな艦橋に伝わる。
そのまま何事もなく十数分航行を続けると、第六惑星ガラブを回る氷のリングが大きく見えて来た。すると電探士が新たな反応を発見して告げる。
「艦長。前方、ガラブのリングの中に、複数の金属反応があります」
「金属反応?…リングに含まれる、小惑星じゃないのか?」
ガラブの周りをまわるリングの中には、三十を超える小惑星も含まれていた。数千年前に第七惑星サパルと第八惑星ルグラの間にある小惑星帯、フォルクェ=ザマから飛び出したものが、ガラブの引力に捕まったものとされている。鉄などの金属の含有率が高いのがフォルクェ=ザマの小惑星の特徴で、ほぼ同じ金属含有率を持つリング内小惑星の、フォルクェ=ザマ起源説の根拠となっていた。だがオペレーターは否定的な報告をする。
「いえ。データと照合しても、現在の位置に小惑星はいないはずです」
「イレギュラーの小惑星である可能性はないのか?」
艦長の傍らに控える副長が問い質すと、情報分析科の士官が、自らのコンソール上に幾つかのデータホログラムを立ち上げ、その内容を確認しながら応える。
「可能性は低いですね。一番軌道が近い小惑星のGS―013は所定の位置にいますし、その他の小惑星にも、軌道が変わった形跡は見受けられません。それに反応が複数というのは奇妙です」
「ふむ…数は?」
「十です。第六惑星のリングに含まれる小惑星は、三十三ですので、その約三分の一が一箇所に集まるとは考え難いでしょう」
とその直後、艦橋中央の航行用ホログラムの中で、金属反応を探知した対象物に異変が生じた。複数のそれらが氷のリングの中で、次々に大きく一回転すると弾け飛んだのだ。
「対象が連続して爆発を起こしています」
オペレーターの報告に、艦長は「なに?」と言葉を漏らし、副長と顔を見合わせた。それを電探士官が訂正して告げる。
「爆発ではありません。それぞれが四つに分裂した模様…こ、これは!―――」
不審そうに状況を見定めていた電探士官は、解析結果が出ると、報告が急に緊迫した口調に変化した。実際の氷のリング内では、楕円形をした金属製カプセルが分解し、中から四機の人型機動兵器が飛び出している。
「分裂した四つは、すべてBSIユニット! キオ・スー家所属の『シデン』です。強襲降下用カプセルに潜んでいた模様!! こちらに向けて接近を開始!!」
それを聞くや否や、艦長は命令を下す。
「戦闘配置! 対BSI戦用意!!」
艦橋内に警報が鳴り響き、さらに報告と発令が矢継ぎ早に続く。
「アクティブシールド射出。外殻エネルギーシールド出力最大で展開!」
「敵機数40…『ECN―50シデン』親衛隊仕様機4、量産型36」
「速度上げ、最大戦速! コース024プラス14」
「敵機群コース変更。こちらの頭を押さえるつもりです!」
「電子妨害戦、はじめ!」
「貨物船団に連絡し、退避を促せ。近いと巻き込まれるぞ!」
「接敵までおよそ3分!」
こちらは重巡並みの性能を持つ砲艦だが、40機のBSI相手に2隻では、明らかに分が悪い。メインスクリーンが距離を詰めて来るキオ・スー家の、BSI部隊を映し出す。艦長は忌々しげに副長に告げた。
「奴等、こちらの囮に喰い付いたのではなかったのか」
「そう連絡が入っていますが…明らかに航路上で待ち伏せしていたところを見ると、最初からこちらの作戦を知っていたとしか、考えられません」
副長が見解を述べると、艦長は「馬鹿な―――」と首を振った。
「ナグヤの誰かが、手引きしたとでも言うのか」
「そうは申しませんが…」
艦長の詰るような言葉に応じる副長が、語尾を濁したその時、電探士官が叫んだ。
「敵機、来ます!!」
「迎撃戦闘、はじめ!!」
艦長の命令一過、砲艦『グアナン15』の迎撃用火器が一斉に火を噴いた。青い色を放つ曳光ビームが矢を射かけるように撃ち放たれ、迎撃誘導弾が立て続けに暗黒の宇宙へ飛び出してゆく。随伴している同型艦、『レガーラ07』も負けじと火箭を開いていた。
その二艦に襲い掛かったBSI部隊は編隊を解くと、一斉に散開して迎撃砲火の第一撃を回避にかかる。先行する一部の機体が回避間際、銀の砂を撒いたように見えたのは、電子妨害用のICチャフを散布したのだ。追尾が甘くなり、緩慢な動きをする誘導弾を、BSI部隊は易々と振り切った。
このような状況の中、超電磁ライフルで誘導弾を次々に撃破し、最短距離で砲艦へ接近する機体がある。親衛隊仕様の『シデンSC』を駆る指揮官、ズーナン=ザバだ。今回の任務のため、キオ・スー家当主ディトモス・キオ=ウォーダの直属部隊から派遣された、二十代後半の黒褐色をした肌の男である。先日の対サイドゥ家迎撃戦にも参加し、苦戦を強いられたキオ・スー艦隊の中で、単独で敵のBSIを八機撃破する戦果を挙げた、エースパイロットだった。
ザバは親衛隊仕様機に乗る三人の同僚に命じる。
「バグート、リ・ブーン、サナジュ、打合せ通りだ。部下にノズルは狙わせるな。迎撃火器を潰して戦闘力を奪い、停船させる。いいな」
二人が「了解」と応じ、一人だけが確認を求めた。
「本当にあれのどっちかに、トクルガル家のガキが乗ってるんだろうな? 囮の御用船についてた砲艦は、あと二隻いたんだぞ」
「その二隻ならラゴンにとどまって、ウチの砲艦部隊との睨み合いに戻ったという話だ。なんにせよサナジュ、俺達はサーガイ様が入手された情報を、信じるしかあるまい?」
「わかった、了解だ」
サナジュという名の同僚はそう言って通信を終える。ザバの右で並走していた一機の搭乗者であったらしく、大きくバンクをかけて離れて行った。
▶#10につづく
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