銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第16話:回天の大宣言

#19

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「ノア!!」

「分かってるわ!!」

 短く言葉を交わしたノヴァルナとノアは、包囲しようとするイマーガラのBSI親衛隊に対し、『センクウNX』と『サイウンCN』を背中合わせにした。互いの死角をカバーする形で、二人のBSHOは超電磁ライフルを撃ちまくる。その狙いは正確無比で、手練れであるイマーガラ軍の親衛隊さえも寄せ付けない。

 回避しきれずに次々と爆発しては砕け散る敵の親衛隊機。敵の最後の二機が向かって来るところで、ノヴァルナもノアもライフルの弾が尽きる。すると二人は同時に超電磁ライフルを敵機に向けて投げつけた。敵の親衛隊機は咄嗟にQブレードを起動させて、そのライフルを真っ二つにする。超電磁ライフルは爆発して粉々に消し飛んだ。未来のムツルー宙域から持ち込んだ超電磁ライフルであるから、むしろ破壊された方がいい。

 その間にノヴァルナの『センクウNX』はQブレードを、ノアの『サイウンCN』はポジトロンパイクを手にして起動させた。そして重力子の黄色い光のリングをバックパックから発すると、猛スピードで敵に向けて突進する。背中合わせの状態で『センクウNX』は通常の重力子、『サイウンCN』は反転重力子を放出する事で、高い反発力を得たのだ。常識的な速度を超えた急接近に、イマーガラ軍親衛隊のパイロットは驚愕し、目を見開いた。

「でやぁあああああっ!!」

 ノヴァルナとノアの声が重なり、『センクウNX』と『サイウンCN』の刃が、それぞれに敵の機体を両断する。その爆発の閃光に照らされて接近して来たのは、プリム=プリンの乗る報道用恒星間シャトルだ。プリムからノヴァルナに通信が入る。

「殿下! ご依頼の件、ミノネリラ支局も了承してくれました。生中継いけます!!」

 プリムの言葉を聞いたノヴァルナは不敵な笑みを大きくした。すぐさま嫡流家専用BSHOにのみ装備されている、強制通信機能を起動しながら指示する。

「おう。でかした! やれ!!」

「はい。回線繋ぎます!」

 それはノヴァルナが『クーギス党』と共闘して、イル・ワークラン家とロッガ家の連合軍を打ち破った時にも使用した、NNL放送局の回線とのリンクであった。あの時は戦艦『ヒテン』の大出力回線で、今回はそれより遥かに小型のシャトルだが、報道用だけあって出力は引けを取らない。ヘッドセットのマイクを頭に嵌めたプリム=プリンは、放送を開始した。

「こ…こちらは、NNL放送局のオ・ワーリ支局リポーター、プリム=プリンです。オ・ワーリ宙域及びミノネリラ宙域にお住いの皆様にお伝えします―――」

 放送が始まるとノアも、『サイウンCN』の嫡流強制通信回線を開いた。これから始まる“作戦”を思って、ヘルメットの中でコクリと小さく喉を鳴らす。一方でイマーガラ家の
宰相、セッサーラ=タンゲンは嘲るような目を向けて呟いた。

「馬鹿め、何の真似だ」

 BSI親衛隊は退けられたが総合的な自軍の優位は揺るがない。すでにナグヤ=ウォーダ家もサイドゥ家も隊列が乱れたままの包囲状態で弱体化しており、両家の総旗艦を守る艦艇も力尽きようとしているのだ。そんな中でプリム=プリンの言葉が続く。

「ナグヤ=ウォーダ家のノヴァルナ殿下とサイドゥ家のノア姫様から、両家に属する方々と両宙域の領民の皆様に、この場より重大なお知らせがあります。ご傾聴下さい!!」



 その直前、ノヴァルナはノアとだけ別に通信回線を開いて、僅かに陽気な成分を感じる声で念を押した。

「いいんだな。ノア?」

 するとノアも同じ口調で言い返す。

「あなたこそ、後悔しても遅いわよ」



 不敵な笑みを大きくしたノヴァルナは、力強く口上を述べ始めた。

「おう、てめぇら! まずはその、つまんねぇ戦争の手を止めやがれ!!!!」

 結局このノリか…とノアが『サイウンCN』のコクピットで苦笑する。ただこういった時のノヴァルナの声は特に良く通り、人に聞かせる力を持っていた。全ての通信回線から流れ出るその声に、聞いた人間は自然と手を止めてしまう。



「遠からん者は音にも聞け!! 近くば寄って目にも見よ!!!!」

 二人のBSHOが内裏雛のように並んで寄り添った。



「俺達!」とノヴァルナ。

「私達!」とノア。そして二人は高らかに声を揃える。



「結婚するぜ!!!!」
「結婚します!!!!」



…一拍置いて、ナグヤ家とサイドゥ家。そしてイマーガラ軍の全将兵が、今の言葉が二人の結婚宣言である事を理解して、驚愕の声を上げた。



「えええええええええーーーーーッッッ!!!!????」



 モルタナの指揮する高速輸送船『ラブリードーター』のブリッジでは、この“作戦”を思いついたルキナ=エンダーが、してやったり…という表情で突っ立っている。

 場違いにも程があるノヴァルナとノアの結婚宣言は、プリム=プリンの報道用シャトルを中継されて、超長距離恒星間通信で幾何かの時差はあったものの、たちまちオ・ワーリ宙域とミノネリラ宙域中に広がる。そしてこの放送を見ていなかった人々にも、NNLの臨時ニュースとしてあらゆる場に伝わった。

 惑星ラゴンのスェルモル城では、棒立ちになったノヴァルナの妹マリーナ・ハゥンディア=ウォーダが、生還を果たした兄のいきなりの結婚宣言に、肌身離さず持ち歩いていた人相の悪い犬の縫いぐるみを、呆気にとられた表情でポトリと床に落とす。もう一人の妹のフェアン・イチ=ウォーダは、兄が生還した事だけですでに、あまりの安堵で泣きじゃくっており、何が起きているかも聞いていない。

 また同じラゴンで、イェルサス=トクルガルが住まわされているナグヤ家の別荘では、食事中に飛び込んで来たノヴァルナとノアの結婚宣言に、イェルサスとその世話係として派遣されていたトゥ・キーツ=キノッサが、テーブルに向かい合わせに座り、フォークに刺した料理をあんぐりと開けた口に運ぶ途中の姿で固まったまま、NNLのホログラム画面に見入っている。

 さらにミノネリラ宙域では、ドゥ・ザン亡き後のサイドゥ家当主の座に就くため、首都惑星バサラナルムへ向かっていた嫡子、ギルターツ=サイドゥの艦隊でも全将兵に動揺が走っていた。ギルターツから今度の戦いは全て、ノア姫の弔い合戦の一環であると聞かされていたためだ。自らの野心に用心深いギルターツは、この状況に艦隊の停止を命じた。



 そしてモルザン星系では、ノヴァルナの言葉が続いている。



「俺とノアが結婚するとなりゃあ、ウォーダ家とサイドゥ家は親戚同士だ! とっとと今までの恨みつらみは水に流して、手を組みやがれ!!」

 生還を知った喜びも束の間、息子と娘の大放言にヒディラスもドゥ・ザンも思考が停止してしまっていた。いやこの二人はともかく、簡単に“今までの恨みつらみは水に流せ”と言われてもウォーダの人間もサイドゥの人間も、仲間を、家族を、財産を奪われた長年の宿敵に対する怨嗟がそう簡単に捨てられるものではない。

 するとそこに、すかさずノアが強い口調で訴えかけた。

「大事なのは私達が明日も生きる事と、今の現実を見る事です!!!!」




▶#20につづく
 
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