銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第16話:回天の大宣言

#15

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 時系列は戻り、現在の状況―――

 モルザン星系外縁部に出現したセッサーラ=タンゲンの三個艦隊約四百隻を、プリム=プリンの乗るNNL報道局シャトルに次いで発見したのは、サイドゥ家重臣のコーティ=フーマが率いる第5艦隊に所属する第14宙雷戦隊であった。

 戦場の一番外側を回り込み、交戦相手のヴァルツ=ウォーダの艦隊に宇宙魚雷を発射しようとしていた矢先、真上―――天頂方向から高速で接近して来る、所属不明の大艦隊を長距離センサーが捉えたのだ。

 ここはウォーダ家が支配するオ・ワーリ宙域の真ん中であり、サイドゥ家14宙戦の各艦は、出現したのが当然、ウォーダ家の援軍ではないかと考えた。無論、それはそれで大きな脅威ではある。四百隻近い数はそれだけで、サイドゥ家オ・ワーリ宙域進攻部隊の総数を上回る。

 ところがものの二分も経たぬうちに、その謎の艦隊は自らの家紋を表示した。名乗りを上げたのである。『二つ重ね銀河』―――トーミ/スルガルム宙域星大名イマーガラ家の艦隊だ。愕然としたのはサイドゥ家14宙戦であった。ウォーダ家の増援ならまだしも、こんな場所にイマーガラ家の艦隊が現れるなど、夢想だにしない出来事以外の何ものでもない。大混乱をきたした14宙戦は平文、つまり暗号に変換されていない通常通信で、この事をドゥ・ザンの総旗艦『ガイライレイ』に発信した。

 平文通信となれば、もちろんウォーダ家の各艦も傍受可能だ。驚愕したのはドゥ・ザンもヒディラスも同様であった。

「なに!? イマーガラ家の艦隊だと!! そのようなものが現れるはずがなかろう!!」

 実際のそれぞれの言い回しは違うが、ヒディラスとドゥ・ザンはそんな言葉を、通信参謀の報告と同時に叫んだ。

 その平文は報道シャトルでも傍受され、プリム=プリンは頭の黒い触角をクルクル回しながら、スタッフに対し声高に指示を出す。

「カメラはイマーガラ家の艦隊を映して。最大望遠で! あと録画じゃなくて生中継するから局に連絡! 急いでくださいッ!!」

「そんな事したら検閲に…」

 プリムの指示にADが不安そうに言う。民主主義の欠点を補う『新封建主義』を謳《うた》ってはいるが、現在の銀河皇国は大昔の『封建主義』に立ち戻っており、宙域の存亡に関わるような星大名同士の戦闘では、中継にも検閲が入るのは当たり前だった。
 
 だがプリムはスタッフの不安を、ピシャリと封じるような口調で告げる。

「私の責任で、ありのままを伝えます!! 全周囲ホログラムを!」

 報道シャトルはキャビンの中を全て外部の映像を取り込んだホログラムで包み、360度全てを視界に収める事が出来るようになった。エネルギーの消費量が跳ね上がる緊急報道向けの非常用機能だが、プリムは今がそれを使う時だと判断したのだ。ADが全周囲ホログラムを起動させると、白いスーツ姿のプリムは宇宙空間に浮かんでいるように見え始める。



 報道シャトルから始まった生中継は、セッサーラ=タンゲンの旗艦『ギョウガク』でも受信されていた。タンゲンはサブスクリーンにそれを映し出させて、メインスクリーンに映る乱戦状態のナグヤ=ウォーダ家とサイドゥ家の両艦隊を眺め、ニタリと一つ笑みを浮かべると、短く命令を下す。

「宙雷戦隊、突撃」

 するとすぐさま軽巡4、駆逐艦12からなるイマーガラ家標準編成の宙雷戦隊が八つ、単縦陣の長い槍となってタンゲンの陣から飛び出した。その一本は報道シャトルの数キロ横を猛スピードで通過していく。宇宙空間で数キロと言えば危険な距離だ。

「イッ!…イマーガラ家の艦隊が目の前を通り過ぎ、ナグヤ=ウォーダ家とサイドゥ家の艦隊がいる位置へ向かって行きます!」

 報道シャトルの中からプリムが叫ぶ。

 一気に間合いを詰めたイマーガラ家宙雷戦隊群は、それぞれのタイミングで宇宙魚雷を統制発射した。その数は一個宙雷戦隊あたり百本を超える。隊列が乱れた状態で、個艦の判断で戦わなければならなくなっていたヒディラスとドゥ・ザンの軍は、九百本近い魚雷の洗礼を個艦の迎撃のみに頼る形で受ける結果となった。

「右舷下方より魚雷多数!」

「左舷上方より魚雷来る!」

「迎撃! 迎撃急げ!!」

「対魚雷迎撃誘導弾、撃ち続けろ!」

「右舷咄嗟射撃! 向けれる砲は全部向けるんだ!! 主砲もだ!!」

「アクティブシールド回せぇ! 何してる!!」

「まっ! 間に合いません!!!!」

「駄目だぁあああ!!!!」

 幾つもの閃光、爆発、断末魔、そして死神の抱擁と沈黙が連続し、ヒディラスとドゥ・ザンの軍の艦艇が次々に散って行く。また乱戦状態の中で回避行動を取った艦が敵同士、味方同士で衝突を起こし、さらに被害を拡大させた。その凄惨な光景にプリム=プリンの実況の声が微かに震える。

「こ…これは、両軍に相当な損害が出たもようです。多くの光が連続して発生して、一瞬で消えました。どれぐらいの数を迎撃に成功したかは分かりませんが、魚雷が命中した艦もかなりの数に上るはずです」

 第一撃の戦果にセッサーラ=タンゲンは満足げな表情だった。敵両軍合わせ戦艦15、重巡航艦26、軽巡航艦22、打撃母艦11、駆逐艦39を撃破したのだ。オペレーターの報告に頷いたタンゲンは、更なる命令を下した。

「全艦強速前進。全てのBSI部隊を発進させよ―――」

 まさに天佑神助だった。ナグヤ=ウォーダ家とサイドゥ家の軍が混戦状態となった、最適のタイミングで戦場に到着したのだ。主君ギィゲルト・ジヴ=イマーガラと、次期当主ザネル・ギョヴ=イマーガラの栄華のためなら、鬼にも悪魔にもなれるタンゲンである。

「ヒディラス殿とドゥ・ザン殿は討ち取れ。降伏は認めぬ」



「セッサーラ=タンゲン! このような時に!!」

 体勢を整える間もなく先制攻撃を受けたドゥ・ザンは、怒りの形相で司令官席の肘掛けを拳で叩いた。

「艦隊を立て直せ! タンゲン艦隊を迎え撃つのだ!」
 
 ヒディラスは参謀達を振り向き、怒声で命令する。

 だがナグヤ家とサイドゥ家の戦場は広範囲に及び、接近を始めたタンゲン艦隊を迎え撃てる、艦艇やBSIユニットの数は限られていた。しかも大部分の戦場では状況を把握しきれず、ナグヤ家とサイドゥ家の交戦がそのまま続いているのが実情だ。
 さらに双方の本陣部隊を襲撃したタンゲンの八つの宙雷戦隊はその勢いのまま、ヴァルツ=ウォーダやコーティ=フーマなど、分離して戦闘中の両軍へコースを変更し、襲撃行動を継続しており、本陣の救援に駆け付ける事を許さない。

“いいぞ。これでいい…ヒディラス殿とドゥ・ザン殿を屠れば、残るは雑兵も同然。このまま首都星系まで進攻し、ディトモスには城下の盟を誓わせる。そしてミノネリラでは、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラが新たなサイドゥ家当主として立つのだ”

 自分の考えに酔ったのか、はたまたこのところの体調不良のせいか、僅かな熱と頭痛を感じながらもタンゲンは鋭い目のまま頷いた。敵を射程圏に捉えた『ギョウガク』が主砲射撃を開始する。大口径ブラストキャノンの直撃を受けたサイドゥ家の駆逐艦が、遠くで粉々に砕け散った………


 

▶#16につづく
 
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