銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第15話:風雲児の帰還

#12

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 ノヴァルナが放ったライフル弾は、『ゲッコウVF』に斬り掛かろうとしていたクィンガ機の、大型ポジトロンパイクの柄に命中し、その刃を根元からへし折った。反動で激しく回転を起こした刃は星間ガスの雲海の中へ飛んでいき、クィンガの『シラツユGG』も、大きく体勢を崩す。

「マーシャル! ひけ!!」

 ノヴァルナはそう言い放ちながら、起動させた『センクウNX』のポジトロンパイクを左手に急接近し、『ゲッコウVF』と『シラツユGG』の間に割って入った。クィンガの『シラツユGG』は、へし折られた方のポジトロンパイクの柄を放り投げ、素早く体勢を立て直して『センクウNX』と対峙する。

「貴様ッ! 関白家御家紋を悪用して、我が軍を混乱に陥れた者だな! その機体はどうした!? どうやって関白様の機体を手に入れた!?」

 やはりクィンガは『センクウNX』を見知っているらしく、全周波数帯通信でノヴァルナを詰問して来た。だがノヴァルナはそれには応えず、背後に庇う形となっているマーシャルの『ゲッコウVF』に、今しがたと同じ言葉をかける。

「マーシャル、ここは退け!」

「ノヴァルナか。おまえ、なんで戻って来た?」

「おう! 嫌な予感てヤツさ。的中しちまったぜ!…いいから退けよ。むやみに突っ込むなんざ、らしくねーぞ!!」

 くそ、セシルと同じような事を言いやがって…苦々しい笑みを浮かべたマーシャルは、本隊との合流を決めた。どのみち攻撃目標だったアッシナ家の総旗艦『ガンロウ』とは、今のクィンガとの戦闘の間に、かなり距離が開いてしまっている。

「済まんな。ここは借りておくぞ!!」

 そう告げてマーシャルは『ゲッコウVF』の機体を翻し、全速で撤退に移った。それを見て「逃がさんぞ!!」と叫び、後を追おうとするクィンガの前に、ノヴァルナの『センクウNX』が、ずい!と立ち塞がる。
 ノヴァルナは後方モニターで遠ざかっていく友人の姿を一瞥し、“ふん。俺が元の世界に戻れたら、借りっぱなしだぜ…”と不敵な笑みを送った。そして正面に置いたクィンガに対して見栄を切る。

「てめーの相手は、この俺だ! 銀河皇国関白ノヴァルナ・ダン=ウォーダ様が、直々に相手になってやるぜ!!」

 この場にノヴァルナを知る身内がいれば、“いや、あんたは関白じゃないし”とツッコミを入れるであろうデタラメを交え、ノヴァルナは高らかに言い放った。

「ふざけおって!!」

 相手を挑発する時のノヴァルナの物言いは、その相手が生真面目なほど、頭に血を昇らせてしまう特徴がある。それゆえ見事に激昂したクィンガは、ポジトロンパイクの斬撃を『センクウNX』に浴びせようとした。ノヴァルナもポジトロンパイクで重ねて打ち合い、陽電子フィールドに覆われた両者の刃が激しくスパークする。

「その機体!―――」とクィンガ。

「貴様、その機体を盗んだのか!? まさか貴様、皇都キオウで数々の悪事を働いているという、大盗賊ゴーヴェロン=イスカンダルの一味か!?」

「誰だそりゃ!? 知らねーって!! 俺はノヴァルナ・ダン=ウォーダだ!!」

「関白殿下が、そのような若僧の声をしているものか!!」

 ノヴァルナは事実を告げているだけなのだが、クィンガはますます怒りを高めているようであった。そういうわけではないだろうが、パイクの打ち合いは、次第にノヴァルナが劣勢になって来た。

“チッ!…なんだ?…操縦技術的には負けてねぇはずだが…機体の差か?”

 するとノヴァルナの疑念に、クィンガ自身が答えをさらけ出す。

「ふん! いずれにせよ、そのような旧型でこの『シラツユ』に挑むとは、笑止!」
 
「なるほど、そういう事かい」

 ノヴァルナは失念していたのだった。ここは皇国暦1589年の世界で、『センクウNX』は三十四年前の機体なのである。それでも将官用上位機種のBSHOであるため、量産型BSIやその親衛隊仕様機が相手なら充分対抗出来るが、同じBSHOと戦うとなると性能差は明らかだ。

 クィンガの『シラツユGG』が大上段から、出力全開で振り下ろした大型ポジトロンパイクを、ノヴァルナは『センクウNX』の両腕で支えたポジトロンパイクで受け止める。コクピットを猛烈な衝撃が襲い、ノヴァルナは歯を食いしばった。機体サイズは『センクウNX』と変わらないが、重力子ジェネレーターの出力は数か月前に戦ったモルンゴール帝国製の大型BSHO、『オロチ』ほどもありそうに思える。

 クィンガの『シラツユGG』はそこからさらに、横向きにポジトロンパイクを一閃。その切っ先の速さは『オロチ』以上だ。ノヴァルナは反射的に自分のポジトロンパイクを脇に挟んで回転、最短距離でその斬撃を打ち払う。そして素早く片手でQ(クァンタム)ブレードを握って起動、クィンガ機のコクピットを刺し貫こうとした。

 ところが、である。『シラツユGG』はノヴァルナの思いも寄らぬ攻撃を、突然繰り出して来た。両脇腹のバックパック固定具だと思われていた装置が動きだし、伸縮式のアームとなって『センクウNX』に襲い掛かったのである。しかもそのアームの先端には、アーミーナイフ形のQブレードが装着されている。これも、ノヴァルナが本来いる皇国暦1550年代では装備している機体はない、近接格闘戦用の『Qダガーアーム』という兵器であった。

「くっ!!」

 青紫色をした星間ガスの輝きを反射させて、突き出された二本のQナイフの刃が煌く。ノヴァルナは機体を翻しながら、『シラツユGG』を刺し貫くはずであったQブレードで、ナイフを打ち防いだ。初見の兵器だというのに、称賛されるべき対応能力である。
 しかし奇襲を喰らった事は否めない。今度は『シラツユGG』が、両手に握るポジトロンパイクをグルリと回転させたかと思えば、刃と反対側の石突きの部分で、『センクウNX』の胸部を強く突く。

「うあっ!」

 衝撃と共に背中を座席に強く打ち付けられたノヴァルナは、呻き声を漏らした。状況は非常にまずい。『シラツユGG』が『センクウNX』を突き飛ばしたのは、ポジトロンパイクの斬撃の間合いを取るためだ。

「盗賊にしてはいい腕をしている。だが、ここまでだ!!」とクィンガ。

 ノヴァルナの不覚だった。『シラツユGG』はおそらく、格闘戦に特化したBSHOに違いない。超電磁ライフルは装備していないようで、射撃戦に関しては先に破壊した、二機の親衛隊仕様の『シノノメSS』に任されていたのであろう。マーシャルを助けるためとはいえ、『センクウNX』より高性能で格闘戦に特化した『シラツユGG』に、単機でわざわざ相手が得意とする格闘戦を挑んだのであるから、無謀すぎたのだ。

“くそ! こんなとこで、やられてたまるかよ!!”

 ノヴァルナは強く操縦桿を握った。『センクウNX』の機体を半分持ってかれてもいい、差し違え覚悟で懐に飛び込んで!―――イチかバチかの決意で加速を駆けようとする。

 とその時、不意に『シラツユGG』が機体をスクロールさせた。飛来したライフル弾を回避したのだ。同時にノヴァルナのヘルメットに聞き覚えのある声が響いて来る。

「ノヴァルナ殿!」

 それは惑星アデロンで共に戦った、レジスタンスのリーダーの一人、ケーシー=ユノーであった。




▶#13につづく
 
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