264 / 422
第15話:風雲児の帰還
#11
しおりを挟むマーシャル機だけを狙った誘導弾。それは前回、マーシャルが『ガンロウ』に肉迫した際にも、何処からか発射された誘導弾だった。おそらく『ゲッコウVF』の緒元をスキャニングによって取得し、そのデータを記憶させた『ゲッコウVF』のみを狙う特殊弾だろう。
マーシャルは機体を翻し、『ガンロウ』に照準しようとしていた超電磁ライフルを、誘導弾に向けて連射した。円筒形の誘導弾は次々と爆発して砕けるが、少数ずつが間断なく飛来してマーシャルを釘付けにする。
「クソッ! 俺を敵の旗艦から引き離す気か!?」
そうはさせじとマーシャルは誘導弾を破壊しながら、後ろ向きに『ガンロウ』を追跡し始めた。『ガンロウ』からも迎撃のビームが放たれて来るが、マーシャルは驚異的な操縦テクニックを見せ、前後から襲い掛かるビームと誘導弾を悉く回避する。
だが『ガンロウ』を強引に追跡したため『ゲッコウVF』が、味方のBSI部隊が敵の親衛隊と戦っている位置からかなり離れた事こそ、敵の真の狙いだった。マーシャルの眼下に広がる星間ガスの雲海の中から、連続して超電磁ライフル弾が飛び出して来る。
直前に鳴ったロックオン警報で咄嗟に機体をローリングさせ、かろうじて被弾を免れたマーシャルの『ゲッコウVF』であったが、さらに銃撃が行われた位置から、三機のBSIユニットに突撃を仕掛けられた。それはノヴァルナが発見したタルガザールの旗艦『シェルギウス』から発進した、アッシナ家筆頭家老ウォルバル=クィンガが搭乗するBSHO『シラツユGG』と2機の親衛隊仕様『シノノメSS』である。『シェルギウス』からの特殊誘導弾の連続発射でマーシャルを孤立させ、そこを急襲する作戦だ。
「野郎!!」
マーシャルは右手に握るライフルで誘導弾を迎撃しつつ、流れるような動きで『ガンロウ』からのビーム射撃を回避しながら、左手でバックパックのポジトロンパイクを掴み取り、二機の『シノノメSS』からのライフル射撃を、そのパイクを振るった刃で弾き飛ばすという、離れ業をやってのける。
しかし次の刹那、二機の『シノノメSS』の間を抜け、一直線に吶喊(とっかん)して来た『シラツユGG』が両手に握る、二本の大型ポジトロンパイクの斬撃まではさすがにかわし切れなかった。最初の一本目の斬撃はかろうじて打ち防いだが、二本目に右の手首を切断される。
“マズった!!!!”
『ゲッコウVF』の右手を失ったマーシャルはほぞをかんだ。それは手首を切断された事への不覚ではなく、敵の総旗艦を前にして、またもや気持ちを馳せられ過ぎた事への後悔である。前回もそれで危険な目に遭ってセシルに救われ、説教を喰らったばかりだというのに!
「アッシナ家筆頭家老ウォルバル=クィンガ。マーシャル=ダンティス殿のお命頂戴!」
勝負あったとクィンガはここでようやく名乗りを上げ、さらに斬撃を繰り出す。
「そいつは願い下げだ!!」
叫んだマーシャルは、NNLとのサイバーリンクで誘導弾との間合いを計りながら、相手の斬撃をパイクで薙ぎ払って後退、そして敵の『シラツユGG』の脇をすり抜けて来た、『シェルギウス』の誘導弾を蹴り飛ばした。蹴られた誘導弾は『シラツユGG』に向かい、クィンガは慌てて回避行動を取ろうとするが、左肩に命中して爆発。ショルダーアーマーをもぎ取った。
「むうッ!!」
コクピットを包む衝撃に呻き声を漏らして、クィンガは『シラツユGG』を『ゲッコウVF』と距離を取らせる。だが敵に隙は無かった。両機が離れたのを見計らって、『シラツユGG』の背後に控えていた2機の『シノノメSS』が、超電磁ライフルを発射したのだ。
マーシャルは咄嗟にポジトロンパイクの刃を盾代わりにして、ライフル弾を跳ね返し、急速離脱を行うが、それを今度は新たに飛来した三発の誘導弾が追尾する。
「マーシャル様!!」
主君の危機に気付いたダンティス軍のBSI部隊が、援護に向かおうとするが、前述の通り距離が離れてしまっており、さらに自分達も敵の有力なアッシナ軍親衛隊を相手取っているために、すぐには対応出来ない。しかもこの状況を知ったアッシナ軍親衛隊は、逆にダンティス軍の足止めを行い始める。
三発の誘導弾に追われながら、それに加えて2機の『シノノメSS』から、狙撃を受けるマーシャルは機体を不規則蛇行させて、かろうじて回避し続けていた。だが超電磁ライフルを右手首ごと喪失しているため、射撃による迎撃も反撃も出来ない窮地だ。
迫る誘導弾に、マーシャルのヘルメット内でアラーム音が次第に大きくなる。センサーとのサイバーリンクで三発の誘導弾の相対位置と距離を頭の中で描くと、振り向く事なく『ゲッコウVF』を宇宙空間で突然バック転させた
マーシャルの『ゲッコウVF』が不意に空中回転した事で、命中寸前だった誘導弾は目標を見失い、左右から迫っていた二発が鉢合わせして爆発する。そして残った一発は反転して襲い掛かったところを、機体を翻した『ゲッコウVF』のポジトロンパイクによって、両断された。だがそこへすでにクィンガの『シラツユGG』が、距離を詰めて来ている。
「おおおっ!!」
裂帛の気合と共に、クィンガは両手に握る巨大なポジトロンパイクを振り抜いた。マーシャルは反射的に相手と距離を詰め、左手のポジトロンパイクで片方のパイクと切り結んで、手首から先を失った右腕でもう片方のパイクの柄を打ち防ぐ。
さらに次の一手。それは偶然にも双方が同じ行動を取った。互いに相手の機体を蹴りつけたのだ。これはマーシャルには良くない。マーシャルは蹴り飛ばして間合いを開け、そこにポジトロンパイクの突きを放つつもりだったのだが、双方が蹴り合った結果、距離が開きすぎてしまった。そして先ほどからロックオン警報が鳴り続けている。クィンガ機の背後で超電磁ライフルを構える、2機の親衛隊仕様『シノノメSS』だ。体勢が崩れた状態で距離が開いては、狙撃のいい的でしかない。
“くそ、しくじったぜ…セシル、あとは上手くダンティス家を―――”
死を覚悟するマーシャル。とその時、最終の照準補正に入っていた『シノノメSS』の一機が、何かに感づいたらしく右を振り向く動作に入った瞬間、右脇腹から機体を撃ち抜かれて爆発を起こした。そしてもう一機も回避行動を取りかけたところを、バックパックと頭部に銃撃を受けて砕け散る。
「なにっ!!」
驚愕したクィンガが銃撃の合った方向に目を向けると、星間ガスの雲海を切り裂くように突進して来る機体があった。ノヴァルナの『センクウNX』だ。
「あの機体は!?」
クィンガは『センクウNX』を知っているのか、眉をひそめた。だがそれも一瞬の事で今はマーシャルを倒す事への執念が、クィンガを突き動かしている。護衛を失って、ええいままよと繰り出したポジトロンパイクが、マーシャルの機体の左側腰部アーマーを切断して、左脚関節部を破壊した。それはマーシャルが咄嗟に機体をひねらせたために、関節部の破壊に留まっただけだ。
「くっ、もうひと太刀!」
とクィンガは叫ぶが、それより先にノヴァルナがライフルの次弾を放つ。
▶#12につづく
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる