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第15話:風雲児の帰還
#09
しおりを挟むマーシャルは自分の旗艦『リュウジョウ』と、高速が出せる軽空母2隻に護衛の駆逐艦6隻だけを連れ、銀河標準座標76093345N付近に位置するブラックホールの重力圏を迂回して、本拠地星系へ向けた超空間転移が可能な場所まで撤退する、アッシナ家の本陣部隊を追撃したのだ。
そのコースはアッシナ家の取った迂回コースから、さらにブラックホール寄り―――つまりショートカット出来るコースで、ギコウ=アッシナの『ガンロウ』以下、本陣部隊が統制DFドライヴを行うために、速度を落としたところを奇襲する作戦だった。
しかしその本陣部隊が撤退途中で遭遇したノヴァルナ達に、主君ギコウの私怨から突っかかって行ったため、マーシャル達は想定したタイミングより早く、アッシナ家の総旗艦を捕捉出来たのである。
敵の軽巡と駆逐艦を蹴散らし、総旗艦『ガンロウ』に向かっていくマーシャルの『ゲッコウVF』と、その配下を見送るノヴァルナは不敵な笑みで小さく呟く。
「ま、しっかりやりな…」
これがおそらく今生の別れになるであろう友人に向けるには、軽い言葉ではあったが、その内側には真摯な気持ちを込めていた。するとそれが伝わったかのように、マーシャルから音声通信が入って来た。
「死ぬなよ、ガキ」
「てめぇこそ」
「じゃあな」
「おう」
出逢う事のないはずであった二人である。長い別れの言葉は似合わないと、ノヴァルナもマーシャルも共に感じていたのだろう。ほったらかしにされた形のノアだが、自分が立ち入るべき時間ではないと理解し、腹立たしくはなかった。
そして戦場を離脱し、カールセンとルキナの待つ『デラルガート』へ向かい始めて、ノヴァルナはノアに気遣いを見せ「悪いな」とポツリと言う。その言葉にノアは「うぅん」と静かに応じた。
とその時、飛行する『センクウNX』と『サイウンCN』の右前方で、雲海の一部に稲妻が走った。それをコクピットの全周囲モニターで一瞥したノヴァルナは、怪しげなものを発見する。雷光を反射する金属的な何かが雲海の上にいたのだ。距離があるため判別しにくいが、どうやら比較的大きな宇宙艦らしい。数は1隻だけだ。
それだけなら怪しいとは言い切れないが、その雷光を反射するところを肉眼で確認出来ていながら、長距離センサーに何の反応も表示されていないとなると別である。ステルス機能がある大型艦らしい。
【改ページ】
ノヴァルナが発見した宇宙艦、それはこの戦いでアッシナ家の先鋒を務めていた、タルガザール=ドルミダスの旗艦『シェルギウス』であった。
マーシャル=ダンティスが乗機の『ゲッコウVF』で、ギコウ=アッシナの『ガンロウ』を追い詰めた際も、誘導弾による狙撃を試みたように、タルガザールはアッシナ家の敗北が決定的となった局面で、ひそかにマーシャルを殺害する事によって、逆転勝利を企んでいたのだ。
そしてまたここでも、ステルスモードでマーシャルの『リュウジョウ』のあとをつけ、マーシャルが再びBSHOで出撃するのを待っていたのである。
タルガザールの思惑を言葉で聞いたわけではないが、ノヴァルナは『シェルギウス』から感じる気配で、マーシャルを狙っている事を見抜いた。
すると『センクウNX』のコクピット内に浮かべた敵艦―――『シェルギウス』の拡大映像の中で、3機のBSIユニットが発進する様子が捕捉される。しかもその先頭を行くのは、将官用のBSHOだ。アッシナ家の総旗艦『ガンロウ』との戦闘に入ったマーシャルの『ゲッコウVF』を、背後から襲うつもりに違いない。
“マズいな…”
そう思ったノヴァルナは、『ゲッコウVF』と連絡を取ろうとした。しかしブラックホールに近づいた分、距離が開いた『ゲッコウVF』との間の通信障害がおおきくなり、回線が繋がらない。その直後、BSIユニットを発進させた敵艦が、誘導弾を発射し始めた。目標はマーシャル機のはずだ。
ノヴァルナは、チッ!…と舌打ちしてノアとの通信回線を開く。
「ノア、俺はマーシャルを助けに一旦引き返す。おまえは先にカールセン達と―――」
そこまでノヴァルナが言った瞬間、ノアは「お断りよ!」とピシャリと遮った。
「はぁ!?」とノヴァルナ。
「私を助けに来てくれた時、あなた“もう二度と俺の手を離すな”って言ったんだから、そうさせてもらうわ!」
やはり言葉ではノアに勝てないらしい…と、ノヴァルナは諦めたような苦笑を浮かべ、「勝手にしろ」と応じて、さらに続けた。
「だったら勝手にしついでに、あの敵艦を頼むぜ。誘導弾を撃てなくすればいい」
役割を与えられた事に満足したのか、ノアは「了解!」と快活に応える。
「オッケー。じゃ、任せたぜ。ちょっと行ってくる!」
「いってらっしゃい」
そうして二機は二手に分かれて加速をかけた。
▶#10につづく
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