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第15話:風雲児の帰還
#08
しおりを挟む高さが数万キロはあろうかという、壁となった星間ガスの陰から現れたダンティス軍…先頭を行くのは、マーシャル=ダンティスの総旗艦『リュウジョウ』だ。そのあとを2隻の高速軽空母と6隻の駆逐艦が二列縦隊で続航している。
「マーシャルか!!」
濃密な星間ガスの壁とセンサーの機能低下に加え、総旗艦の持つ高い電子戦能力を使用しながら接近していたため、『センクウNX』や『サイウンCN』だけでなく、アッシナ家の艦隊も探知出来なかったのである。
こちらに右舷側を見せた『リュウジョウ』は、片舷7基搭載するアクティブシールドを射出。六角形のエネルギーバリアを展開して防御を固めると、ノヴァルナとノアを追撃して来るアッシナ家の軽巡と駆逐艦に向け、三連装二十四基の主砲をぶっ放した。
ダンティス軍の出現に驚いて反転しようとしていたアッシナ艦隊に、七十二本の高出力ブラストビームが殺到し、軽巡1隻、駆逐艦2隻を宇宙から消滅させる。一方のノヴァルナとノアは『リュウジョウ』からの砲撃をかわし、その巨大な艦腹のやや下方の宇宙空間で停止した。
それとほぼ同時に、2隻の軽空母と『リュウジョウ』からBSI部隊が発進する。
『リュウジョウ』から飛び出したのは無論、マーシャル自らが操縦するBSHO『ゲッコウVF』である。艶やかな漆黒の機体が乳白色と紫色のガス雲の光で美しさをいやます。
続いて発進した6機の親衛隊仕様『ショウキSC』がマーシャルに従い、さらに軽空母から発進した4機のBSIユニットと、20機のASGUL、前方に進出して、素早く編隊を組んでいく。
「よう、ガキ。なんだおまえ、まだ帰ってなかったのかよ」
総旗艦『リュウジョウ』の全力射撃が続き、アッシナ家の軽巡と駆逐艦が容赦なく次々と葬られて、BSIの襲撃部隊が編隊を組み終えつつある中、マーシャルはノヴァルナの『センクウNX』に近づいて呼び掛けた。それに対しノヴァルナは『センクウNX』の右手が握る超電磁ライフルを、その先に小さく見えるギコウ=アッシナの『ガンロウ』に向けて言い放つ。
「しゃーねーだろ。なんか知らねーが、あのアホが追いかけて来んだよ!」
「ハハハハハ!」
ノヴァルナの腹立たしげな口調に、マーシャルは陽気な笑い声を上げた。ところがその笑いと裏腹に、『ゲッコウVF』は『センクウNX』に超電磁ライフルの銃口を向ける。
味方であるはずのマーシャルの突然の行動。しかもマーシャルの『ゲッコウVF』だけでなく、それを護衛する6機の親衛隊機まで『センクウNX』に至近距離からライフルを向けている。この状況にノアは慌てて『サイウンCN』を『センクウNX』に寄り添わせ、『ゲッコウVF』にライフルを向けた。
ただノヴァルナは、僅かに片方の眉を跳ね上げただけで、さして驚くふうもない。コクピットの全周囲モニターが真正面に映し出す、『ゲッコウVF』の銃口を見上げた。
「………」
「………」
互いの機体を無言で見据えて、幾何の時間が流れると、ノヴァルナは面倒臭そうにマーシャルに尋ねる。
「何の真似だ?」
するとマーシャルは、少し芝居がかった悪人調の言葉で応じた。
「信じられねえが、おまえが過去の世界から来た、本物のノヴァルナ・ダン=ウォーダってぇ事はわかった。ならおまえをここで殺りゃあ、今の関白ノヴァルナは存在しなくなる…って話なんじゃねえか?」
それに対し、ノヴァルナは不敵な笑みで告げる。
「ノアの話じゃ、そうはならねーみてーだが…試してみるか?」
ノヴァルナの言葉を聞くマーシャルは、そこで『センクウNX』の左手がすでに、腰のQブレードの柄を逆手で握る体勢に入っている事に気付いた。こちらがライフルを構えたのと同時に、Qブレードに手を伸ばしていたらしく、互いがゼロ距離で向き合っているこの状況では、周囲に護衛がいても刺し違える結果になるのは明白だ。
背筋を冷たいものが流れるのを感じながら、マーシャルは胸の内で、“マジで半端ねえガキだぜ…”と感嘆の呟きを漏らした。そして『ゲッコウVF』の超電磁ライフルの先を、『センクウNX』から外す。
「やめとくぜ」とマーシャル。
「そうかい」とノヴァルナ。
「おまえの美人の彼女に、彼氏の仇と、一生恨まれたくはねえからな」
それにもし関白のノヴァルナが消滅しても、今の自分では銀河を手に入れられねえし…というあとに続く言葉を呑み込んで、マーシャルは別の台詞を口にした。
「今はあれをぶっ潰すのが先決だ。おまえの足止めのおかげで予想より早く捕捉出来た。礼を言っとく!」
そう告げてマーシャルはノヴァルナとノアを残し、『ゲッコウVF』を発進させる。あれとは勿論、ノヴァルナとノアを不必要に追撃していた、ギコウのアッシナ家総旗艦『ガンロウ』だった。
▶#09につづく
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