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第15話:風雲児の帰還
#05
しおりを挟むだがそこでアッシナ家の本陣部隊は意外な行動を始めた。撤退速度を緩めると、ノヴァルナとノアに向けて艦砲射撃を開始したのだ。
「ちょ! どういう事だ!!!!」
ロックオン警報が鳴った途端に、豪雨のように降り注ぎだした敵艦隊からのビームを、ノアと共に緊急回避しながらノヴァルナは叫んだ。今は撤退が最優先のはずで、BSHOに乗るのが将官クラスであったとしても、わざわざ艦隊速度を緩めてまで、こちらにかまけている場合ではないはずである。
しかも敵の本陣部隊の取った行動はそれだけでなく、重巡航艦以上の宇宙艦―――重巡4隻と戦艦4隻、さらには総旗艦の『ガンロウ』の艦底部のハッチが開いて、各艦直属のBSIユニットまで投下した。その数合わせて40機。BSHOこそいないが、すべてが親衛隊仕様の『シノノメSS』だ。そしてこれに、先ほどの戦闘で撃破を免れた『シノノメSS』3機と攻撃艇3機か加わる。
「クソッ! 奴等、何をトチ狂ってやがる!!」
理由も分からず自分達を狙い、大量に現れた敵機にノヴァルナは罵り声を上げながら、超電磁ライフルの弾種を徹甲弾から榴散弾に変えて撃ちまくった。惑星アデロンの地上戦で、『センクウNX』が使用したものの残りだ。各艦から発進したばかりのBSI部隊は、前面で炸裂した複数の榴散弾に少なからず混乱をきたす。その間にノヴァルナはノアを連れ退避行動に入った。幾ら二人の操縦技術が高くとも、40機以上の親衛隊仕様機をまともには相手出来ない。
「ノア、あのガス雲だ」
「了解!」
ノヴァルナの『センクウNX』とノアの『サイウンCN』が向かったのは、左前方で複数の柱となって渦を巻く、紫色と乳白色が所々で溶け合う星間ガスの塊であった。強い電磁波が放出されており、中で雷光が輝くのが見て取れる。コクピットの戦術状況ホログラムに突入した場合のセンサー精度の低下が警告表示されるが、それこそがノヴァルナの狙いであった。
鋭角的なカーブを描いて、『センクウNX』と『サイウンCN』はガス雲の中へ突入する。その後方から追尾する約40機の『シノノメSS』。双方とも突入直後に警告通り、各種センサーの精度が一気に低下した。モニターの画像自体も解像度が低下し、文字通りの五里霧中となる。しかしこのようなブラックホールを近くに置いた星間ガス雲内の戦闘なら、『ナグァルラワン暗黒域』で経験済みだ。
あえて困難な戦闘環境に持ち込む事が圧倒的不利な戦力比を覆すために、ノヴァルナとノアが出来る唯一の手段である。
二人を追ってガスの雲海に突っ込んだアッシナ家BSI部隊は、各計器が受ける障害に密集している事への不安を覚えた。特に戦術情報統合システムの機能が大幅に低下し、各機の相対位置表示の誤差が酷いため、衝突や誤射の危険性が高まっている。自然と速度を緩めた『シノノメSS』達は通信回線を開いた。
「センサー解析機能低下。ガスの密度が高い箇所は、内部状況が不明です」
「怪しい箇所は、ライフルにプローブ弾を装填して撃ち込め」
「各機の表示位置と実測数値が、2千メートル近く違っています。数秒でも操縦桿操作を誤ると、衝突の可能性が…」
「そうだな。全機散開、個々に敵を追うのだ!」
「ですが闇雲に散開しても、こちらが数的有利とは言え―――」
「了解している。白兵戦と狙撃の二人一組で行動、相互にフォローするように命ずる」
アッシナ家BSI部隊は新たに、総旗艦『ガンロウ』から発進した『シノノメSS』の編隊長機が指揮を執っていた。それまでの指揮官機はノヴァルナによって撃破されたためである。ところがその新たな隊長機は、背後に渦巻く濃密なガスの柱の中から飛び出して来た、『センクウNX』のポジトロンパイクに機体を刺し貫かれた。
「なっ!…ぐわぁッッ!!!!」
驚愕した表情の指揮官が後ろを振り向いた直後、コクピットは白い閃光に包まれ、機体と共に砕け散る。ノヴァルナは雲海へ突入と同時に、ガスの濃密な部分に潜んで敵をやり過ごし、相互通信の中心となっている機体を、おそらく指揮官機と判断してピンポイントで襲撃したのだ。
「敵だっ!!」
「撃て!!」
アッシナ家主君の親衛隊だけあって、近くにいた数機の『シノノメSS』が即座に反応して超電磁ライフルを向ける。だがノヴァルナの反応も素早く、狙った指揮官機が爆発した次の瞬間にはすでに発進、身を翻した『センクウNX』は、飛び出して来たのとは別のガス雲の柱の中へ逃走した。
しかも『センクウNX』が消えた雲柱に向け、射撃を加え続けていた『シノノメSS』の一機が、予想外の方向からの銃撃を喰らって爆発を起こす。ノアの『サイウンCN』からの狙撃だった。流れる紫色のガスの間にクリムゾンレッドの機体が覗く。
▶#06につづく
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